上 下
25 / 31
試験最終日 「食欲に勝てないとか、魔王として恥ずかしくないの?」「よわよわ胃袋❤」

優しい召喚獣

しおりを挟む
 一応、煽りVTRも流れる。

 フリオ少年は探偵になりたかったが、両親から反対されていた。お金にならないからと。

 あるとき、探偵が手を焼いていた飼い猫のケットシーが逃げだす。野生で育ったケットシーは地上の生活に慣れず、故郷の幻獣世界へ帰りたかったらしい。

 凶悪なモンスターに襲われていたケットシーを、フリオの家族が助けた。ケガをしたケットシーに、フリオは治癒の魔法を施す。だが、フリオの両親はモンスターの攻撃で致命傷を負い、死んでしまう。


 責任を感じたケットシーは、召喚の契約を打ち切るように探偵に申し出る。もう二度と、この世界に姿を現さないと。

 探偵も承諾し、ケットシーは永遠の別れを想像していたらしい。

 フリオは「だったら自分が彼女の友だちになる」と宣言した。
 天涯孤独になったフリオ少年を、探偵はニールセン家の養子にする。
 ケットシーはフリオと再契約となり、二人して探偵の助手に。

「いい話」

 テルルは、鼻をすすっていた。
 シチサブローも、真面目に見つめている。

「まったくだ、つっても……」


 しかし、誰も見ていなかった。

 会場全体が、フリオを舐め腐っている。さっき最強のモンスターが負けたばかりだ。欲望にめっぽう弱い猫族召喚獣が、食欲に勝てるわけがないと。

 召喚士協会長でさえ、頭を抱えていた。これは全滅もあり得ると考えていることだろう。

 彼らの実力を肌で感じているのは、今やシチサブローとテルルの二人だけ。


『さてさて、ゴングが鳴りました! あーっとぉ!』

 ケットシーが、一目散に肉の載った皿に飛びつく。舞台に、ケットシーのヨダレが飛び散った。

『やはりFランクの召喚獣では、欲望に敵わないかーっ』

 召喚士席から、「やっぱりな」という声が聞こえてくる。

『今、ケットシーが皿を手にして……あっと!?』

 あろうことか、ケットシーは自分では食べなかった。

「お腹空いたでしょ? 食べな!」

 召喚士の少年に、焼けた肉を差し出したのである。

「え、くれるの?」

 フリオ少年は、戸惑っていた。

 自分だって、ヨダレをタラッタラ流している。にもかかわらず、ケットシーはご主人に与えようとしていた。

 初めて見る光景である。召喚獣が、召喚士にエサを分けるなんて。

 シチサブローさえ、何が起きたか一瞬判断が追いつかなかった。

「ごめんね。まだもらえないよ」
「どうして? ご主人、出会ったときからずっと、お腹空いていたよね? お金を稼いでお世話になった所長に恩返しをするために、召喚士を目指しているんだよね? 自分はガマンしてさ!」
「そうだけど」
「ご主人なら、試験とか関係なしに食べてもいいんでしょ? ねえ料理人さん?」

 その発想はなかった。

 シチサブローは、協会長に意見を求める。

 協会長は、首を振った。

「いや。ダメらしい」

 召喚獣は、召喚士と感覚を共有している。主が空腹を満たせば、召喚獣も満腹を得てしまう。

「だから、まだ食ってはダメだ」

「そんなぁ」

 ケットシーの、ピンと伸びていたシッポがしおれる。

「けどよぉ、認定試験が終わったら、食っていい」

 シチサブローが言うと、フリオはケットシーに「待て」を行う。

「じゃあさ、試験が終わったら食べようね」

 フリオ少年が言うと、またケットシーのシッポがピンと跳ねた。

「ありがとうね。キミは、ちゃんと『待て』できる?」
「うん! がんばる!」

 ケットシーは、お皿をシチサブローの席まで戻す。目が血走っていながらも、見るだけの姿勢に。理想的な『待て』である。

『なんという師弟愛! なんという友情! 召喚獣が、召喚士を気遣う場面を、我々は見つめています! これほどまでに感動的なシーンが見られるなどと、誰が予想したでありましょうか!?』

 アナウンサーの情熱が籠もった演説に、会場から拍手がわき上がった。

「いいよな、こいつらなら?」

 シチサブローは、黙々と肉を焼き始める。

「負けて悔いなし」

 テルルも、手を出さない。
 試合終了のブザーが鳴った。

『時間経過ーっ! 今回の召喚士試験の合格者は、たった一人! 平民出身のフリオ・ニールセン選手だあああああああああああっ!』



 うおおおおおおおおおおおおおおおおお! と、会場もスタンディングオベーションで、二人の健闘をたたえ合う。

 試合開始時とは反対に、召喚士のガキたちは苦々しい顔をしていた。

 いい気味である。調子に乗っていた彼らには、いい薬だろう。

『とんだ下克上! とんだ師弟愛! とんだ結末が、我々を感動の渦に巻き込んでくれましたああああああああっ! ありがとうフリオ選手! ありがとうケットシー選手! 勝利の美酒は、未成年だって飲んでもいいですよ! おじさんが許しますよおおおおおおおおおっ!』

 これ以上なく、アナウンサーは興奮している。メガネを外し、袖で溢れ出る涙を拭く。

 無理もない。こんなしょうもないテストから、素晴らしいドラマが生まれたのだから。

 いつからか、召喚士は貴族だけが慣れるモノに成り下がった。金に物を言わせて召喚獣を手に入れ、金に物を言わせて育成するゲームに。

 しかし、まだこんなヤツらがいたのだ。無欲で、自分を高めることに貪欲なヤツらが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...