21 / 31
試験最終日 「食欲に勝てないとか、魔王として恥ずかしくないの?」「よわよわ胃袋❤」
妖狐仙人の好物
しおりを挟む
確かに、空腹を満たす行為は、妖狐には無効かもしれなかった。ならば……。
「テルル、ちょっと趣向を変える」
「うん」
「よし。さてと、こいつはオレがいただくかな?」
シチサブローは、ドラゴン肉を自分で食べてしまう。
『あっと! せっかくおいしく焼いていたドラゴンの肉を、シチサブロー監督官自らが食べていまいました! これは試合終了か?』
召喚士が、シチサブローの食事をうらやましそうに眺めていた。
「うん、我ながら見事な焼き具合だ。これを食わせられないのは惜しいな」
一方、食事を済ませたシチサブローは、自分の料理を自画自賛する。
「フォフォフォ、勝てぬと判断してヤケ食いとは。審査員殿もたいしたことないのう」
「やっぱり西洋人は無能ネ」
勝ち誇ったように、妖狐と東洋娘がフンと鼻を鳴らす。
「とんでもない。これから始まるんだよ。大逆転劇がよぉ!」
額に汗を浮かべながら、シチサブローが吠えた。
「言いよるわ。ならば試すがよい。その逆転劇とやらを」
「おいテルル、頼む」
「OK」
テルルはシチサブローに背を向けた。
「ちょい、くすぐったいぞ」
「平気。脱皮も近いから、少しくらい深く削っても大丈夫」
シチサブローは、テルルのシッポに少しだけ刃を入れる。シッポの皮を、薄く剥いていく。削ぎ落としたシッポ皮を、炭火の中へ。
『あーっと! シチサブロー監督官、ドラゴンの皮を炙る! 監督官は、ドラゴンの皮だけで再勝負するつもりです!』
付け合わせのマイタケや香り付け用の干物クラーケンなど、炙り出す。
「どれも酒に合いそうじゃ。考えたのう。じゃが、所詮は若造の浅知恵。徳を得た妖狐のノドを震わせるには至らん」
妖狐は、負けていった者たちに視線を向ける。
「見よ。お主が倒していった敗北者たちを。彼らは来期もこの勝負に挑むつもりじゃ。どれだけの者が力を付けて、再チャレンジするかのう? それとも、心が折れてしまうか?」
「ヤツらが弱いってのか?」
「左様。彼らは所詮、金だけで入学した体たらく。ロクな修行も積んでおらんじゃろう。何度挑んでも、結果は同じことじゃ。おおかた、称号も金を積んで手に入れたモノじゃて」
会場の誰も、言い返さない。
たしかに。彼らは召喚獣の強さを、自らの実力と勘違いしていた。召喚獣と信頼関係を結ぶのは、己の慢心にも打ち勝つ必要がある。
「召喚獣とサモナーの間に必要なのは、絆である。それを学んでない者に、この難関は突破できるとはとても」
情けないモノを見るような表情で、妖狐は『あるもの』に手を付けた。
「いいたいことはそれだけか、少年ジジイ?」
さっきから、シチサブローはおかしくてたまらない。
「何が言いたいのじゃ?」
話の腰を折られたからか、妖狐が不満を漏らす。
「その手に持っているのはなんだよ?」
「なんと……むく!」
妖狐は、無意識のうちに酒を開け、ドラゴンの皮にしゃぶりついていた。
「待てっ! 待つでござるよぉ!」
召喚士少女の顔が、蒼白になる。
『あーっと、妖狐選手、炙ったドラゴンの皮を肴に酒を飲んでいる。これはアウトです!』
無情にも、ゴングが鳴った。試合は終わりである。
「やっぱりだ! 酒好きにコイツは利くんだよ!」
秘策はこれだ。おそらく妖狐はジジイすぎて、こってりした肉に興味が持てないだけ。ならば、酒のつまみとして上等な皮料理を振る舞うのみ。
先ほどからの態度から、妖狐は酒飲みとシチサブローは考えた。そこで作戦を変え、『酒のツマミとなりそうな』ドラゴンの皮を炙ったのである。
「炭火で炙ったドラゴンの皮は、シャケ皮をも凌駕する!」
「ぬう、こやつ、やりおる!」
今度は、シチサブローが狐を嘲る番だった。
「オレがやりおるんじゃねえよ。テメエの心が弱いだけだ」
他の召喚士を煽るような大口を叩いておきながら、実際はこの体たらくである。
「召喚獣の性格付けには、召喚士の性格が反映してしまう」
「そういうこった」
テルルの意見に、シチサブローも同意した。
「つまり、召喚士が相手を舐め腐っていたら、召喚獣にもその性質が伝染しちまう。そのガキがあんたを扱うには、まだ早すぎたようだな!」
自分を律するべきは、思い上がった召喚士の方である。召喚獣の方は徳を積んでいたのに、まなじ後継者がいないばかりに功を焦ったらしい。
「召喚士が腹の中で増長すれば、必ず召喚獣にも性格が出てしまう。お前さんがベテランとつるんでいたら、あんな説教はせんかっただろうぜ」
「ぬう。見事なり!」
床に杯を置いて、妖狐は炙った皮をテルルに返す。
「幼き龍よ、これはワシには早すぎたわい。修行をやり直した後、いただくとしよう」
「今食べる」
テルルは、仙人からの調理品を突き返した。
「なんと、施しを受けよというか。豪胆な」
「違う。冷めないうちに食べて欲しい」
妖狐仙人は笑う。いつもの不敵な笑みではなく、口を大きく開けて。
「お主には、敵わぬ。まことの悟りを開いているのは、お主のようじゃのう」
ガハハ……と笑いながら、妖狐は召喚士と並んで、会場を去った。
「テルル、ちょっと趣向を変える」
「うん」
「よし。さてと、こいつはオレがいただくかな?」
シチサブローは、ドラゴン肉を自分で食べてしまう。
『あっと! せっかくおいしく焼いていたドラゴンの肉を、シチサブロー監督官自らが食べていまいました! これは試合終了か?』
召喚士が、シチサブローの食事をうらやましそうに眺めていた。
「うん、我ながら見事な焼き具合だ。これを食わせられないのは惜しいな」
一方、食事を済ませたシチサブローは、自分の料理を自画自賛する。
「フォフォフォ、勝てぬと判断してヤケ食いとは。審査員殿もたいしたことないのう」
「やっぱり西洋人は無能ネ」
勝ち誇ったように、妖狐と東洋娘がフンと鼻を鳴らす。
「とんでもない。これから始まるんだよ。大逆転劇がよぉ!」
額に汗を浮かべながら、シチサブローが吠えた。
「言いよるわ。ならば試すがよい。その逆転劇とやらを」
「おいテルル、頼む」
「OK」
テルルはシチサブローに背を向けた。
「ちょい、くすぐったいぞ」
「平気。脱皮も近いから、少しくらい深く削っても大丈夫」
シチサブローは、テルルのシッポに少しだけ刃を入れる。シッポの皮を、薄く剥いていく。削ぎ落としたシッポ皮を、炭火の中へ。
『あーっと! シチサブロー監督官、ドラゴンの皮を炙る! 監督官は、ドラゴンの皮だけで再勝負するつもりです!』
付け合わせのマイタケや香り付け用の干物クラーケンなど、炙り出す。
「どれも酒に合いそうじゃ。考えたのう。じゃが、所詮は若造の浅知恵。徳を得た妖狐のノドを震わせるには至らん」
妖狐は、負けていった者たちに視線を向ける。
「見よ。お主が倒していった敗北者たちを。彼らは来期もこの勝負に挑むつもりじゃ。どれだけの者が力を付けて、再チャレンジするかのう? それとも、心が折れてしまうか?」
「ヤツらが弱いってのか?」
「左様。彼らは所詮、金だけで入学した体たらく。ロクな修行も積んでおらんじゃろう。何度挑んでも、結果は同じことじゃ。おおかた、称号も金を積んで手に入れたモノじゃて」
会場の誰も、言い返さない。
たしかに。彼らは召喚獣の強さを、自らの実力と勘違いしていた。召喚獣と信頼関係を結ぶのは、己の慢心にも打ち勝つ必要がある。
「召喚獣とサモナーの間に必要なのは、絆である。それを学んでない者に、この難関は突破できるとはとても」
情けないモノを見るような表情で、妖狐は『あるもの』に手を付けた。
「いいたいことはそれだけか、少年ジジイ?」
さっきから、シチサブローはおかしくてたまらない。
「何が言いたいのじゃ?」
話の腰を折られたからか、妖狐が不満を漏らす。
「その手に持っているのはなんだよ?」
「なんと……むく!」
妖狐は、無意識のうちに酒を開け、ドラゴンの皮にしゃぶりついていた。
「待てっ! 待つでござるよぉ!」
召喚士少女の顔が、蒼白になる。
『あーっと、妖狐選手、炙ったドラゴンの皮を肴に酒を飲んでいる。これはアウトです!』
無情にも、ゴングが鳴った。試合は終わりである。
「やっぱりだ! 酒好きにコイツは利くんだよ!」
秘策はこれだ。おそらく妖狐はジジイすぎて、こってりした肉に興味が持てないだけ。ならば、酒のつまみとして上等な皮料理を振る舞うのみ。
先ほどからの態度から、妖狐は酒飲みとシチサブローは考えた。そこで作戦を変え、『酒のツマミとなりそうな』ドラゴンの皮を炙ったのである。
「炭火で炙ったドラゴンの皮は、シャケ皮をも凌駕する!」
「ぬう、こやつ、やりおる!」
今度は、シチサブローが狐を嘲る番だった。
「オレがやりおるんじゃねえよ。テメエの心が弱いだけだ」
他の召喚士を煽るような大口を叩いておきながら、実際はこの体たらくである。
「召喚獣の性格付けには、召喚士の性格が反映してしまう」
「そういうこった」
テルルの意見に、シチサブローも同意した。
「つまり、召喚士が相手を舐め腐っていたら、召喚獣にもその性質が伝染しちまう。そのガキがあんたを扱うには、まだ早すぎたようだな!」
自分を律するべきは、思い上がった召喚士の方である。召喚獣の方は徳を積んでいたのに、まなじ後継者がいないばかりに功を焦ったらしい。
「召喚士が腹の中で増長すれば、必ず召喚獣にも性格が出てしまう。お前さんがベテランとつるんでいたら、あんな説教はせんかっただろうぜ」
「ぬう。見事なり!」
床に杯を置いて、妖狐は炙った皮をテルルに返す。
「幼き龍よ、これはワシには早すぎたわい。修行をやり直した後、いただくとしよう」
「今食べる」
テルルは、仙人からの調理品を突き返した。
「なんと、施しを受けよというか。豪胆な」
「違う。冷めないうちに食べて欲しい」
妖狐仙人は笑う。いつもの不敵な笑みではなく、口を大きく開けて。
「お主には、敵わぬ。まことの悟りを開いているのは、お主のようじゃのう」
ガハハ……と笑いながら、妖狐は召喚士と並んで、会場を去った。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜
KeyBow
ファンタジー
主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。
そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。
転生した先は侯爵家の子息。
妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。
女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。
ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。
理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。
メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。
しかしそう簡単な話ではない。
女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。
2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・
多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。
しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。
信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。
いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。
孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。
また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。
果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる