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第二章 後輩ウザかわいさが、とどまるところを知らない(自称

ウザ後輩と、ゴーカート

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 腹も満ちて、俺たちは散歩がてらあちこちを回った。

 メリーゴーラウンドなど。ガキの乗り物だろと思っていたが、クルミと回っていると案外楽しい。

 俺の後ろで馬を操りつつ、上下に動くたびに変顔で攻めてきた。俺は思わず、吹き出しそうになる。

 前の馬車にいるアンズ会長たちに気づかれないよう、俺も反撃した。

「ゴーカートやろうぜ」

 誠太郎が言い出して、ゴーカートのサーキット場へ。

 小さいマシンながら、結構なスピードで走っている。

「あたしのスピードに追いつけるッスかね、先輩?」
「バカ言え。クラスの男子対抗カートゲームでトップだった俺の実力を見せてやるよ」
「コンピュータゲームの話ッスよね? 本番に弱いタイプッスか?」
「言ったなお前。じゃあジュース賭けようぜ」

 俺たちがヒソヒソと話していると、アンズ会長がジッと見ていた。

「なに二人絵で話し込んでるの? 行くよー」

「は、はい姉さん」
 会長に呼ばれて、クルミがカートに乗り込む。

 ヘルメットまで借りれるのか。本格的だ。

 コースを二週して先にゴールしたほうが勝ちである。
 しかし、S字や直角カーブなど難しいルートが用意されていた。

 シグナルがブルーになり、俺はアクセルを踏む。

「うお⁉」

 いきなり、俺のマシンがトラブルを起こす。エンジンが動かない。

 慌ててスタッフさんが駆けつけ、数秒で解決したが。

 クルミが振り向いて「プププ」と余裕の笑みを浮かべた。

「あのやろ……おい前、前!」

 俺が呼びかけたときには、もう遅い。
 S字をクネクネ走行していたクルミは、タイヤの山に激突した。
 エンジンが止まる。

 その間に持ち直した俺は、アクセルを全開にした。
 クルミを抜きにかかる。

「ズルいッス!」

「よそ見したお前が悪い」



 なお、俺もよそ見してタイヤの防壁に突っ込んだ。



「へへーん、お先ッス」
 クルミが俺を抜いた。
 だが、直線でスピードを出しすぎて、まともにタイヤの山へ直撃する。


 もたついているクルミを横目に、俺はクルミを抜いた。
 直後にスピンしてしまう。 

「何やってんだよ、リクト!」
 もう一週回り終わった誠太郎が、俺を華麗に抜き去りゴールする。

 続いてアンズ会長がクルミを助け出す余裕を見せてゴールした。

 クルミはすぐ目の前だが、このままでは負けてしまう。

 とはいえ、クルミは二度目のS字でもたついた。
 クラッシュしないよう、慎重になりすぎている。

 そのスキに、俺のマシンは飛び出す。
 クルミのすぐ隣まで接近できた。

 もう一息で勝てそうだ、そう思った瞬間である。
 まさか、クルミのマシンが俺に体当りしてきた。

「ちょ⁉ ありかよそんなの!」
「勝てばよかろうッス!」

 だが、二人仲良くスピンしながらゴールする。
 写真判定するでもなく、俺たちは引き分けとなった。

「仲がいいんだから、悪いんだか」
 俺自身、判断しかねている。

 ゴーカートの直後、俺たちは「お互いにおごり合う」ことでカタをつけた。

「せっかくッスから、いいのをおごるッスよ」
「いいよ。コーラをくれ」
「スペシャルメニューの『はちみつキュウリ味』ってあるッスよ?」

 疑似メロン味じゃねえか。いっそメロン味のコーラで売ればいいのに。

 おやつのチュロスを食いながら、アンズ会長が「次はどこへ行こうか」と話題を振ってきた。

「あたし、あれがいいです」


 クルミが指定したのは、お化け屋敷だった。
 廃墟となった病棟をモチーフにした、話題のスポットである。


「えっ、クルミちゃん? あんなのでいいのか? 想像以上に怖くないって話題だぜ? 薬品の匂いが充満してるだけ、って掲示板に書いてあるし」

「う、うん。わたしもパスかな。二人きりになるのには最適だけどー?」

 大げさに、二人は言う。もう少し刺激がほしい二人は、絶叫マシンを希望している。

 と、いうのは建前だ。
 
 誠太郎は、俺がビビりだと知っている。

 さりげなく、恐怖系はスルーさせようとしているのだ。絶叫系で音を上げたくらいだからな。

 会長が話を合わせているのは、クルミと俺とを二人にさせるのに、まだ抵抗があるからだろう。

「実は、文化祭でうちのクラスの出し物が、あれに決まったのです」
 クルミが話すと、アンズ会長たちは納得した。

「そ、そっかー。それならいいかもね」
「俺たちは待ってるから、姉妹で行ってこいよ」

 できるだけ自然に、姉妹をお化け屋敷へいざなう。

「あたし、先輩と行きたいです」
 しかし、クルミは譲らない。
 頑として、俺との同行を希望する。

「男の人と一緒に行かないと、セクハラ対策になりませんから!」
 妙に説得力のある意見で、クルミは迫ってきた。

「あまりワガママ言って困らせちゃダメよー、クルミ」

「いえいえ、あたしたちがお化け屋敷を回っている間に、お二人は自由な時間を満喫していただければ。おじゃま虫は引っ込んでいますから。ちょっと移動に時間かけますし」

 今、アンズ会長の脳内が垣間見える。
 天秤が揺れ動いているのが、俺にも見えるぞ。

「うーん、しょうがないなあ」
 結局、会長は誘惑に勝てなかった。
「それなら、わたしたちも一緒に」

「アンズさん、あっちの射的なんてどう? 景品あげるよ」
 俺に気を使って、誠太郎がお化け屋敷以外に誘導する。 

「え、あ、うん……」
 思わぬ誘導に、アンズ会長はなすすべなし。

「じゃあクルミ、リクトくんのこと、よろしくねー」
「生きて帰ってこいよ、リクト」

 クルミと俺を置いて、二人は射的コーナーへ。

 俺も、おばけを撃つ銃がほしい。
 横にいるクルミを見た。

 すっごいいい顔になってる!
 お化け屋敷行こうって言った途端、すっごいいい顔になりやがった!

「せーんぱい。大ピンチだったッスね」
「やっぱ確信していやがったな、クルミ」

「一度、本気で怖がる先輩を見たかったんスよ。あたし」
 エヘヘと、無邪気にクルミが笑う。
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