底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
71 / 71
底辺配信者とスライム 特別編

第71話 特別編最終話 一日フロアボス その2

しおりを挟む
 子どもたちが、ボクたちのいるフロアまでやってきた。

「お疲れ様でした。ワタシがここのフロアボス、スライムのワラビです」

 ワラビが、それっぽく登場する。だが、敬語がまるっきり抜けていない。

 児童はみんな「わー」とか「ワラビちゃーん」と手を振っている。戦う気はないみたい。さすが子どもたちに人気があるね。

「あの、この場合、テイマーのカズヤを攻撃すべきですか? それとも、ワラビさんと直接戦うのでしょうか?」

「ワタシを攻撃してください。今日のワタシはテイムモンスターではなく、フロアボスなので」

 質問者に対して、ワラビが即答した。

「わかりました。みんないくぞー」

 先頭の少年が合図すると、みんながワラビに飛びかかってくる。

「望むところです。みなさん」

 ワラビも、特大サイズになった。

「わーっ」と、児童たちはワラビのモチモチボディに飛び込む。

「きもちいい!」
「プヨプヨでいて、やわらかい!」
「ダメになるー」

 バトルそっちのけで、子どもらはワラビのプニプニを堪能した。

「ワラビ、大丈夫?」

「児童にもみくちゃにされるゆるキャラの気持ちが、わかる気がします」

 だろうねえ。

「ですが、悪い気はしません。実に平和です」

 よかった。ワラビはバトルになると結構ガチ勢だから、物足りないかもって思っていたけど。

 張り切っていた少年も、ワラビとの触れ合いには勝てなかった。

 それでも一応戦闘の体を保ち、ワラビは新聞紙の剣で敗北する。

「マスターツヨシ。もっと高学年の生徒が相手になったら、我々のコンビネーションで打ち倒しましょう」

「あはは。そうだね」

 ワラビも、楽しそう。
 



 ひとまずダンジョン攻略を終えて、質疑応答の時間になった。

 戦闘はあくまでも余興で、ここから本番である。

「冒険者は大変か」という質問には、ボクが答えた。

「脱サラ、いわゆる転職して冒険者になったんですが、初期は大変でした。やはり、ちゃんとした仕事に就いたほうがいいですね。ワラビと出会えただけ、ボクは運がよかったとしか」

 かなり世知辛い言い方に、なってしまったかな?

 やはりというか、さっきの少年が手を上げた。

「ぼくは、家族が冒険者です。でも家族は、ぼくに対して『普通の仕事に就きなさい』っていいます。冒険者はぼくの憧れなのに、ダメなんですか? ぼくは、普通の生活なんてバカバカしく見えちゃって」

「そうですか。では逆にお聞きします。スライムの本来の仕事とは、何だと思いますか?」

「え?」

 突然ワラビから質問をされて、少年が言葉をつまらせる。

「えっと。ダンジョンの見張り? 監視カメラの代わりに、ダンジョンに入ってきた異物を探知する役割だと思います」


「まったく違います。実はスライムには、単にダンジョンの床や壁をキレイにする程度の仕事しか与えられません」


 少年が、ワラビの回答に驚く。

 でも、ボクが一番驚いていた。

 ワラビが特別なスライムでもなんでもなくて、単にダンジョンの掃除をする役割だったとは。

「ワタシは一度、激務に耐えかねて死にかけました」

 ロクに食事ももらえず、他の生き物を食べて栄養を取る力もない。ただ、壁のカビやシミを食べて生活していたと語る。
 それすら、大量のスライムたちと取り合いになるのだ。

「それだけ、ダンジョン内の業務はブラックなのです。冒険者と戦えるスライムなんて、一握りしかいません。その頃を思えば、ワタシもマスターツヨシに救われたと言えます」

 そうだったのか。

 今の最強スライムの名をほしいまましている今からは、考えつかない過去である。

「たしかに世間では最近、【好きなことを仕事にするべきだ】という風潮があります。あなたたち若い世代からすれば、冒険者の仕事は華やかに見えるでしょう。ですが、地味な仕事にだってやりがいも、生きがいも、必要性もあります」

 ヒヨリさんのような、ポーションを作る調剤師、センディさんのような鍛冶屋さん、ショウトウルたち『回復の泉』の管理人など。

 それだけじゃない。食事を提供してくれるお店なんかも、バカにできない。

 地味な仕事をなさっている方たちがいるから、冒険者は生かされている。

 スライムたちもいなければ、ダンジョンを清潔に保てない。

 みんなそれぞれ、ちゃんと循環しているんだ。

「多くの人に支えられてきたら、我々はいつの間にかここまで上り詰めていました。こんなに幸せになるなんて、想像すらしていませんでしたよ」

「そうか。両親は、それを教えたかったんですね。ぼくが周りを見下していたのを、見透かしていたんだ。ありがとうございます」

 素直で、いい子だ。



 こうして、一日フロアボス体験は終わった。
 
「申し訳ありません、マスターツヨシ。あなたを差し置いて、出すぎたマネをしました」

「ううん! おかげで、ワラビのことが少しわかったよ。ありがとう」

 ボクはいつの間にか、ワラビをどこかのエリートスライムなんだろうと思っていた。しかし、実際は違ったんだ。ボクと同じく、底辺を這いずり回っていたなんて。

「ワタシも、マスターツヨシに感謝しています」

 ボクたちは、底辺同士だ。

 それがいつしか、最強のコンビとなっている。

「ワタシとマスターツヨシは、二人で一人なのですね」

「そうだよ。運命共同体だ」

 これからも、ずっと一緒だ。

(おわり)
しおりを挟む
感想 11

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(11件)

生きタイ
2024.12.27 生きタイ

最後まで見ました。面白かった

2024.12.29 椎名 富比路

ありがとうございます。
喜んでいただけたなら、なによりです。

解除
生きタイ
2024.12.26 生きタイ

ワラビ賢すぎる 
野良時代に人でもたべたのかな?

2024.12.27 椎名 富比路

ありがとうございます。
人間は食べないですねぇ。
ただ野生時代に、人間の観察はしていましたね。

解除
生きタイ
2024.12.26 生きタイ

おもろい

2024.12.27 椎名 富比路

ありがとうございます。励みになります。

解除

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。