底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路

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最終章 ドラゴンとの生配信バトル

第58話 水族館デート

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 ボクとヒヨリさんは、駅前で待ち合わせをした。

 車を使って、一緒に行ってもいい。が、それだとヒヨリさんにばかり負担がかかる。今から乗る電車は常時空いているから、リラックスできるだろう。

「お待たせしました」

 いつもと違うヒヨリさんの服装に、ドキリとなる。

 クリーム色のコートに、スカートスタイルだ。
 シャーマンだからか、アジアンな感じのブレスレットやネックレスをしている。

 こころなしか、手のひらサイズのピオンもツヤツヤだ。

「リップクリームを塗ってほしいと、せがまれました。どうせ、成分を吸収してしまうのに」

「ああ、ワラビもです!」

 二人でアハハと笑う。

 ボクの肩に乗っているワラビも、ピオンと一緒に笑っていた。

「じゃあ、行きましょうか。ヒヨリさん」

「はい。ツヨシさん」

 電車に三駅分乗って、水族館のある場所へ。

「先に、お食事しましょう」

「そうですね。もうお昼時になりますし」

 出発は、割と遅めにした。今から行く水族館は、夜からの催しが見どころだからだという。

 お昼は、たこ焼き屋さんにした。自分で焼くスタイルである。

「うまくできるかな?」

「できないから、いいんじゃないですか」

 お互いぎこちない動作で、たこ焼きを作った。焼けるまで、からあげとポテトで繋ぐ。

「めちゃめちゃヘタクソですね。ボク」

「かわいくていいじゃないですか」

 ボクが焼いたたこ焼きを、ヒヨリさんが率先して食べる。

 ヒヨリさんが焼いた方は、ボクがいただいた。

「おいしいですね」

「生地がいいんでしょうね。上手に焼けなくても、おいしいです」

 ワラビやピオンにも、食べさせる。

「身体がたこ焼きになりそうです。マスターツヨシ」

「ほかほかー」

 二体のスライムたちも、楽しそうだ。

 ずっと焼いていると、だんだんと手慣れてくる。

「なんだか、ここまで来ると、戦いのヒントが得られそうですね」

 ワラビが、ボクの手際を観察しながら言う。

「どうなんだろうねえ」

 たこ焼きの焼き方なんて、剣術に応用できるのかなぁ。

 そう意識してしまうと、ますます下手くそになっていく。

「ボク、ダメダメですね」

「とんでもありません。こういうのって、みんな上手じゃなくていいじゃないですか」

 うまくいかなくても、ヒヨリさんは楽しそうだ。

「わたしは、薬学をやっています。お客さんに出すお薬に、失敗は許されません。ですが、それまでには多数の試行錯誤があります。とんでもない大失態をして、研究所が何度吹っ飛んだか」

 ウフフと、ヒヨリさんが笑う。

 笑えるくらいだから、大事には至らなかったのだろうけど。

「でも、そんな思いをしてきたからこそ、安全なポーションを提供できるんです」

 ヒヨリさんが、そんな体験をしていたとは。 

「最初はみんな、下手っぴなんですよね。調薬も、冒険も」

「はい。ボクはワラビと出会うまで、ドジばっかり踏んでいました」

 周りに迷惑をかけてはいけないと、ソロプレイにこだわりすぎていた。

「わたしも冒険者としてやっていけるか、ずっと不安でした。ツヨシさんに導かれて、やっとここまで来られたんです」

「ヒヨリさんが強くなったのは、ヒヨリさんの努力のたまものです」

 ワラビがいなかったら、こんな出会いもなかっただろう。ヒヨリさんを助けようとしても、共倒れになっていたかもしれない。

「ありがとうございます、ツヨシさん。この調子で、デートもちょっとずつうまくなっていきましょうよ」

「はい。ヒヨリさん」

 ヒヨリさんのこういうところ、ホント好きだ。



 お腹もいっぱいになったことで、メインの水族館に。 

 ペンギンの飛び込みを、見ることができた。

「ここのメインといえば、ジンベエザメですよね」

「うん。大きいねぇ」

 巨大なサメが、水槽内で泳いでいる。今にも、見ている子どもをすっぽりと食べてしまえるのではないか? それくらいの、迫力がある。

「あんなに大きいのに、歯が小さいんですよね。主食も魚ではなくて、プランクトンですし」

「うん。人は見かけによらないね」

 そう考えると、ドラゴンってもっと獰猛な生物だとばかり思っていた。

「ごめんなさい、ヒヨリさん。守ってあげられなくて」

「わたしも、申し訳なく思っています。ヒヨリさん」

 ボクとワラビで、ヒヨリさんに謝罪する。

「いいえ。ツヨシさんのせいじゃありません」

 悪いのは魔族の方だと、ヒヨリさんは言ってくれた。

「ドラゴンのお宿、たのしかったー」

 まあ、ピオンが一番、堪能していたよね。

「ドラゴンさんたち、いい方なんですけど、戦わないといけないんですよね」

「そうだね。殺し合いではないから、いいんだけど」

 あくまでも、ボクたちの戦いはケンカだ。互いに、命を奪い合うわけじゃない。しかし、アクシデントはつきものだ。ルールのもとで戦っていても、命を落とす場合もある。

「心配しないで。ボクは負けないから」

「応援しています。ツヨシさん」

 夜になった。メインである、クラゲの展示会が開かれる。

 小さいクラゲが、人の身長以上に触腕を伸ばす。手のひらサイズのワラビより、小さいのに。


「ほおおおお」

 ボクは、思わず声を上げた。

「キレイ」

 密集して泳ぐクラゲに、ヒヨリさんが圧倒されている。

 幻想的な光景に、ボクも思わずため息が漏れた。

「ワラビ、楽しい?」

「実に、興味深いです。モンスター以外にも、こういった動物たちを観察するのは、勉強になります」

「別に戦闘の役に立てようなんて、思わなくていいからね」
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