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第六章 最終決戦 黒い勇者との戦い

第51話 魔王の敗因

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「つまり、信頼関係の差です」

 ワラビは、魔王戦の話をこう締めくくる。

「マスターツヨシとワタシは、一人と一匹合わせて一つの存在です。テイマーとは、そういうものなのです。魔王はそれを、主従と勘違いなさっていました」

 そう。テイマーとモンスターとの関係は、「どう従わせるか」じゃない。

 佐護サゴが弱かった、といえばそれまで。実際、ボクとサゴのレベル差は、かなり大きかった。魔王がムリヤリ、彼を強くしてしまったのだ。

「もし魔王ルクシオが、センディさんの師匠クラスの人間を取り込んでいたら、ボクたちも危なかったかもしれません。戦闘が長引いた可能性があります。それこそ、全員でかかる必要があったでしょう」

「とはいえ、マスターツヨシが負けるなんて想像はしません」

 ボクは謙遜して答えたが、ワラビはあくまでも強気だ。

「どうして、そういい切れるの?」

 メイヴィス姫が、ワラビに問いかける。

「さきほど申し上げた、信頼関係に繋がってきます。さてメイヴィス姫、魔王ルクシオに、センディさんの師匠を取り込めると思えますか?」

 姫は、首を振った。

「ありえないわ。自分の仲間を平然と殺すような相手にテイムされるなんて、ゴメンよ」

「そうでしょう。またその方は、腕に覚えがある。そんな方が、魔王の力なんぞに魅了されるでしょうか?」

「倒すべき敵としてか、自分が強くなるためのハードルとして、考えるでしょうね」

「はい。決して、共闘する相手とは見なしません。バディとして信頼し合うなんて、もってのほかでしょう」

 ワラビの推測は、的確だ。人間の心理を、確実に読み取っている。

「つまり、サゴのような心の弱い人間をテイムした時点で、敗北は決まっていたのです」

「サゴみたいなのしか、テイムできなかった、ってわけね」

 メイヴィス姫が、さらに辛辣な意見を言う。

「いえ。テイムできる、テイムされるだけで、もう優秀なのです」

「そうなんだ?」

「はい。テイマーであることは、それだけですばらしいのです。マスターツヨシも、ヒヨリさんも、ほかのテイマーさんも。また、サゴだって」

 テイマーは、モンスターと共闘することで、さらに強さを増すことができる。その強さは、天井知らずになるのだとか。

「どおりで、ツヨシがやたら強いわけだぜ」

「はい。そのとおりです。センディさん。マスターツヨシは魔王との戦いで、さらに覚醒しました。ワタシが強かったのではなく、マスターツヨシが進化したのです。だから、ワタシたちは勝てました」

 魔王が負けたのは、サゴを覚醒させず、単に魔力供給源として利用していたからだと。 

 もし魔王がサゴの力を信じて、戦いの中で新しい力を得ようものなら、それこそだレも勝てなかった可能性が高い。

「まあ、あの魔王ルクシオがニンゲンに頼るとは考えられませんが」

 ワラビは、ルクシオの性格を的確に分析する。

「以上が、魔王の弱点・敗因です」

「よくわかったよ。それで、ルクシオ・ソールの脅威とかは?」

 いくら地球側に攻め込んできた魔王を退けたとはいえ、脅威が去ったわけじゃない。魔王ルクシオはまだ、向こうの世界で生きているのだ。こちらの世界へ、しばらく侵略できないだけで。

「心配はいらないわ。ルクシオなら、当分復活しないでしょうね。プライドが、ズタズタにされているから」

 メイヴィス姫いわく、魔王ルクシオは他の世界の魔王たちから、「手加減して負けてやんの」と罵倒されているらしい。

「復活したくても、『ゴミ魔王』『クソザコ』のレッテルは一〇〇〇年以上ネタにされるの。あの伝承だって、他の魔王が『こいつを未来永劫バカにしろ』という意味で、わざと書かせているくらいだから」

 タチが悪いなあ、魔王って。

「それだけ、地球人と戦うことはリスクが高すぎるの。だから、モンスターに攻め込ませるのにとどめているの」


 もし負けたら、半永久的に笑われる。

 この屈辱に耐えられたのは、ルクシオくらいだそうだ。

「往生際が悪いのは確かですが、ルクシオを見て『自分は地球に侵攻しないでおこう』と日和っている魔王も、大概だと思います」

「だよね」

 犠牲者が出ているのは確かだが、一度負けた世界にもう一度挑んできたというスピリッツは、考えないと。

「それでも、迷惑なのは事実です。本当にいいのは、魔王が襲ってこない世界なので」

「うん。そのためにボクたちがいるんだから」

「でも、ワラビの検査があったんだよね」

 魔王を倒したことで、ワラビがギルドにとって脅威になるかもしれない。そう考えている人が、ギルドのエラい人にもいる。彼らを納得させるには、ちゃんとワラビが危ない子じゃないと証明しないといけなかった。

「お前さんたちなら、大丈夫だろう? この世界を支配しようなんて、考えていないだろ? ワラビさんよ?」

「ワタシは桃さえあれば、他になにもいりません。ギルドにもそう説明しました」

 結局、なんの変更もなしとなった。石田さんの説得が効いたかも。 

 続いて、ギルドからの寄贈品を開ける。

「うわ。金の盾だ」

 ボクたちのもとには、金の盾が。ギルドに最大級の貢献をした冒険者にだけ、与えられる。

 センディさんが、金の盾を撫でた。

「これ、ヒヒイロカネじゃねえか」

「どんな金属なんですか?」

「ミスリルよりレアな、金属だ。オレも実物は初めて見たよ」

 加工すれば、ミスリルより強力な装備が作れるという。

「売れば、どうなるんです?」

「一生遊んで暮らせる。もう冒険にも出なくていい」
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