底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路

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第五章 底辺配信者 対 魔族三人衆!

第43話 合体魔族

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 三体の魔族が、観客席に殺到した。

 客席で倒れ込んでいるクビポロリに向かって、ジャジャとピー子が飛びかかる。

 三体は、光に包まれた。光はみるみる膨れ上がり、異形の姿をとる。

「ブヒャヒャヒャ! これが俺様たちの、真の姿だ」

 光が晴れると、三体の魔族をムリヤリかけあわせたかのような化け物が現れた。

 上半身はワータイガー、背中に大きなペンギンの羽根、下半身はヴォーパルバニーの巨人である。

「ケアーッ!」

 カラスのような声を上げて、ワータイガーが爪を振り下ろす。

「ぐあ!」

 メイヴィス姫が、ふっとばされた。舞台の壁に、激突する。ジャジャ相手では、互角だったはずなのに。

「気をつけろ。こいつ、パワーも三倍以上に上がっているぞ」

 姫は声を出そうとするが、起き上がれない。

「ヒヨリさん、姫の治療に当たって!」

「はい。行くよ、ピオン」

 ヒヨリさんたちの安全を確保して、ボクは魔物の正面に立つ。

「ムチャだぜ、ツヨシ! 一人でやる気か?」

「ボクとワラビで、なんとかスキを作ります! そのタイミングを狙って、攻撃してください!」

 我がパーティで最強の、メイヴィス姫を倒したんだ。この魔族の強さは、本物だろう。

 だったら、死力を尽くさねば。ボクが犠牲になってでも。

 ボクは、ミスリルソードを構えた。

「わかった。ヤバいと思ったら逃げろよっ!」

「回復は任せて!」

 センディさんとコルタナさんが、ボクの後ろに下がる。

「ブヒャヒャッ! 一人で戦うとか、頭がおかしくなったか? くらえ!」

 ヴォーパルバニーが、回し蹴りを繰り出す。

「ジャストガード!」

 ボクはミスリルの剣で、攻撃を弾き飛ばした。

 ジャストガードをすれば、必ず相手は体をそらす。どんなに早かろうとも、どんなに重かろうとも。

「からのぉ、ワラビ! 【ウォーターカッター】!」

 ワラビが飛びかかって、ワータイガーのアゴに水圧を見舞う。身体を極限まで圧縮し、鉄をも切り裂く弾丸となったのだ。

 アゴに直撃を食らって、さすがの合体魔族もフラついた。巨体が、ヒザをつく。

「さすがに、傷をつけることはできませんでした」

「いいよ、ムリをしなくても。戻っておいで」

 攻撃を終えたワラビが、ボクの手元に戻ってくる。

「こしゃくな!」

 ワータイガーの爪が、襲いかかってきた。

「ワラビ、モーフィング!」

 跳躍して、ボクはワラビをローブに変形させて、爪攻撃をすり抜ける。

 刃での攻撃に、ボクは恐怖を感じなくなっていた。ミミックに食べられたのが影響しているのかも。

「くそ! だが、宙に浮いたままでは止められまい! くらえ!」

 ワータイガーのパンチが、飛んできた。

 ポム、とワラビが打撃を受け止める。

 どれだけワータイガーが殴ってきても、ワラビがピンポイントでポムポムと止めた。

「ピピピーッ!」

 ペンギンの羽根から、炎・氷・雷・毒の矢が飛んでくる。

「いろんな属性攻撃を召し上がれーッ!」

「ワラビ、全部食べて!」

 ボクはローブ型になったワラビを脱いだ。風呂敷のように、ブワッと広げる。

「承知しました」

 ワラビが、属性攻撃の矢をすべて平らげた。

「お返しだ。ワラビ、ボクの剣に取り付いて!」

 ミスリルソードの柄を掲げて、ワラビを乗っける。

 ワラビとミスリルソードが、一体になった。ソードに、ワラビの魔力が注ぎ込まれる。

「ジャジャ、あの魔力はやばいよ!」

「こちらも、全力でやるぞ!」

 両手の爪をジャキンと伸ばして、魔族がXの字で斬り掛かった。

「ジャストガード!」

 ボクの剣と魔族の爪が、弾け飛ぶ。

「しまった! 相手もジャストガードしてきた!」

 片方の腕で攻撃をして、もう片方は防御用に振り下ろしたのか。

 ボクの方も、のけぞることに。

 これが、魔族の狙いだったのか。ムダに攻撃を仕掛けてきたわけじゃなかった。

「死ねえ!」

 防御側の腕で、魔族がアッパー気味に斬り掛かる。

 だが、ボクだってひとりじゃない。

「ワラビ! やり返そう!」

「はい!」

 今度はワラビが、ミスリルの剣を振った。

 ボクの装備していた篭手が、魔族の爪によって粉々に砕ける。

 だが魔族の攻撃が届くより、ワラビの剣戟が早かった。

 ミスリルソードが、魔族の心臓部分に深々と突き刺さっている。

「くそお。三人がかりでも俺様たちが負けるなんて」

「やはり、あなたは伝説の……」

 魔族が、粉々に砕け散った。

「見事だよ、スライムテイマー。しかし、キミでは黒い勇者には勝てないよ……」

 クビポロリの残留思念が、消滅する。 

 大量の経験値が、ボクの体内に浸透していく。

「はあ。はあ……あれ?」

 メチャメチャレベルが上がったのに、成長痛が来ない。

『レベルが一定値に達しました。成長痛が完全に緩和されます』

 システムのアナウンスが、脳内再生される。

 まあ、成長痛が来ないならいいか。


 
 

「グス……お疲れ様でした。みなさん、ホントよくご無事で!」

 全員でギルドに帰ると、石田さんが涙ぐみながら出迎えてくれた。

「戻られてそうそうなのですが、黒い勇者らしき人物の正体がわかりました」

 石田さんから、写真を見せてもらう。

 その人物は、小さくて真っ黒い妖精を引き連れていた。

「この男性は、ワラビさんに執拗にコメントしていた、いわゆる『粘着』です」

 ああ、なんか、「自分に乗り換えないか」とかコメントしていた人がいたっけ。すぐにミュートにしたから、わかんなかったや。

「しかしある日を境に、粘着コメントがピタッと止まったらしいです」

 その時が、妖精をテイムしたときだという。

「この妖精の女の子こそ、魔王【ルクシオ・ソール】です」

「ひょっとして、この男性が魔王をテイムしたってこと?」



「違います。この妖精が、人間をテイムしたんですよ」


 
(第五章 完)
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