底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路

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第三章 姫とコラボで、またバズる

第15話 ワラビの『踊ってみた』動画

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「コンラッド、撮影をお願い」

『承知』 

 メイヴィス姫が、コンラッドを召喚した。

 コンラッドが、姫から杖を預かる。杖を地面に突き刺すと、魔方陣が広がった。そのまま、杖は固定される。

『準備OKである。姫』

 杖の先を、コンラッドは自分の目に当てた。あれって、撮影機材にもなるのか。

「音楽をかけてちょうだい」

『御意。ミュージックスタート』

 コンラッドが、リュートのような楽器を肩にかけて奏でだした。

「演奏までできるのか」

「あのリュートも、召喚獣だってよ」

 センディさんが、そう話してくれる。

 聞いたこともない曲を流し始め、メイヴィス姫が歌い出す。声やキーの高さは、ボカロに近い。しかし、メロディは異国風という変わった歌である。

 曲に合わせて、メイヴィス姫はくるりんと回ったり、体を捻ったりした。このダンスも、ボクは見たことがない。

「あれは?」

「我が国のエルフが誇る、国民体操よ」

 コルタナさんが、教えてくれた。こちらでいう、ラジオ体操みたいなものなんだって。

「ホントは地球の曲に合わせて踊るのが、一番バズるんだけど。いわゆる『コンプライアンス』に引っかかっちゃうので、ギリギリのラインなのよね」

「例えば?」

「著作権よ」

 一応、我が国のルールに則って活動しているわけか。

「ワラビちゃんとの初コラボだから、みんなに覚えてもらおうって認識が、姫様はお強いのかもしれないわ。いきなりセンシティブな歌詞の曲で踊って、印象を悪くするのもよくないから」

 ワラビは子どもに人気だと言うし、姫様は「誰でも知っている曲で覚えてもらう」つもりなのだろう。

 ローブ姿だったワラビが、メイヴィス姫から離れた。

 スキップしながら、姫が手を叩く。

 姫の動きに合わせて、スライム姿のワラビがジャンプを繰り返した。

 ぱんぱんぱんぱん。プルンプルンプルンプルン。

 テイマーであるボクでも、見とれてしまう光景だ。

 最後は、メイヴィス姫がワラビを抱きしめて終わる。

「お疲れ様、ワラビちゃん! コンラッドも。ありがとうツヨシ! 楽しかったわ!」


「こちらこそ。微笑ましいダンスでした」

「よかったわ。気に入ってもらえて」

 メイヴィス姫から、ワラビを返してもらう。

 姫は、ワラビと一緒にシャワーを浴びに行った。

 夕飯の時間になり、姫も戻ってくる。

 今日の献立は、カレーライスだ。コルタナさんから教わって、ボクが作った。ワラビがたくさん動いたから、お腹が空いているだろうと。

「マスターツヨシ、このカレーはおいしいです」

「いつも、レトルトだったもんね」

 ダンジョンの後はヘトヘトで、料理どころじゃなかった。今はレベルも上がったからか、体力が余った状態でお買い物もできる。

「おいしいわ。いつもはコルタナが作ってくれるんだけどね。こちらはこちらで、素朴な味がするわ」

「こんな庶民的な味も、お好きなんですね」

「ええ。こういうのを食べたくて、地球に来ているから」

「地球の曲でダンスすることもあるって、聞きましたけど?」

「そうよ。コルタナが持ち帰ってきてくれるの」

 しょっちゅう元の世界に帰っては、コルタナさんは地球の文明をあちらに紹介しているとか。それが何百年も続いている。

「私ははじめ、別のグループにいたのよ。今は、センディがパートナーよ」

 コルタナさんによると、パーティの変更はもう五度目だそうで。

「老齢で引退したり、ダンジョンで死んでしまったりと、色々あったわ」

「そのダンジョンなんですが、どうして地球と繋がっちゃったんです?」

「世界は元々、一つだったのよ」

 姫やコルタナさんのいる星は、地球に近いがファンタジーのような世界である。

「大陸の変動ってあるでしょ? 自然現象や災害などで、地形が変わるようなこと。それが、星単位で発生したの」

 エルフという種族すら、存在していなかった時代の話だそうだ。

 あるとき、世界移動の魔法が開発されて、姫の先祖がこちらに来たという。

「でも、悪い魔物もあちらに流れてしまったの」

 今は規模が縮小されて、多少こちらに影響しなくなった。向こうの星で、取締が強化されたのだ。

「とはいえ、育ちきっちゃったダンジョンは抑えきれず。仕方なく、現地の冒険者で対処してもらうことになったのよ」

 今でも心霊スポットや、踏み入ってはいけない場所として封鎖されたエリアは、ダンジョンと呼ばれている。

「姫のいるサマーヘイズ王国は、悪い魔物を取り締まっているの。こちらからやってきた魔物が、地球で悪さをしないように」

「けれど、未だに根絶やしにはできないわねぇ。こちらで悪さをすると言っても、魔素が少なすぎて何もできないのがオチだけど」

 地球にいる魔物たちは、ダンジョンの中でしか本来の力を発揮できないという。

「でも、問題は発生しそうなの。ギルドから聞いた話なんだけど……」

 コルタナさんは、言いづらそうに話す。

「話してください」

「ギルドの上層部は、モンスターが人間を通じて、力を外に放出する手段を思いついたようなの。自ら操られることによって」

「魔物を操る冒険者って……」


「ええ。テイマーよ」
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