上 下
18 / 48
第三章 ダンジョンと、コメ栽培

第18話 コメ栽培

しおりを挟む
「なんぞ。コメなんぞ、糖質の塊ではないか。たしかにうまいが、そんなに珍しいとは」

 世界中の珍味に慣れているのか、賢人クコの反応は鈍い。

「これを発酵させれば、お酒を作れるよ」

「よし、さっさと育てるぞよ」

 現金だなぁ、賢人は。

 コメ作りには、田んぼが必要だ。早速作業に取り掛かる。とはいえ……。

「あーあ」

 コメの種モミを両手に乗せたまま、ボクは呆然とする。

 いざ、おコメを育てようと考えて、イヤな予感が頭をよぎった。

 おコメがあるってことは、ひょっとすると……。

「どうしたの、コーキ?」

「いや、もしかすると、ボクと同じ世界から来た人が転生してきて、やらかしたのかなーって……」

 ボクは、パロンに仮説を話してみる。

「つまり、あの団体は、異世界人が打ち立てたんじゃないかと」

 日本人がここの世界に来て、悪さをした可能性があった。
 でなければ、あんな文明レベルで設備なんて作れない。
 もしコメなんて育てたら、この村の秘密が世界中に広まって、悪い考えを持った転生者に狙われるかも。そう予感したのだ。

「なるほど。それは、ない。断言できるよ」

「パロンがそこまで、強い発言をするなんてね」

「だって、少なからずワタシたちの生活にまで影響しているはずじゃん。でも、ワタシたちは異世界から来た人物はキミしか知らない。こちとら、長寿のハイエルフだよ? そんなワタシたちにさあ、伝承が行き渡っていないなんておかしいじゃんか」

 たしかに。

「だから、安心しておコメを育てたら?」

「それもそうだね」

 おコメに罪はない。
 幸い、水は潤沢にある。おコメ作りには、大量の水が必要だ。
 種モミを苗にしている間、田んぼを作る。ゴーレムにも手伝ってもらい、適当な広さに耕す。本当にアバウトだ。探り探りで。魔物の死体を混ぜた腐葉土を、肥料にした。スライムも手伝ってくれる。

「はあ、はあ、ひい」

 ボクたちだけでやると、ちょっと時間がかかり過ぎかなぁ。広すぎて、全然進まないや。パロンが作った農具でも、手間がかかる。

「よし」

 ボクは倉庫から、壊れたイスや古くなった馬車を出す。用途をどうしようか、悩んでいたものばかりだ。腐らせてキノコを生やすか、腐葉土に混ぜちゃうかと思って、一応保管しておいたのである。
 今は、トレント世界樹がくれた鉄もあった。これなら、アレが作れるかも。

「ここをこうして、こうだ」

 頭の中に機械をイメージして、組み立てていく。

「できた!」

 田んぼ用のマシンに改造した。それをゴーレムと融合させて、動かせるようにする。我ながら、いい出来ではないか。

「コーキ、なにそれ?」

「トラクターだよ。手早く畑を耕せる機械なんだ」

 ボクの魔力で動く木製トラクターゴーレムが、畑を田んぼに変えていく。
 仕組みもよくわかっていないし、耕運の知識なんてなにもない。けど、たしかにトラクターは動いている。

「すっごいね。すぐに田んぼができあがったよ」

「こういうのって、手でやったほうがいいのかな、って思っていたけど」

 異世界を題材にした作品でも、コメ作りってたいてい手作業だよね。

「ドローンができたからね。トラクターなんかも作れるんじゃないかって」

 ボクも手作業にするか迷ったが、結局トラクターなどの農業機械を使うことにした。あと、作れるから、というコトもある。冒険に出る可能性もあるから、誰かに任せたいという考えもあった。
 あっという間に育った苗を、泥に植えていく作業を始める。
 この調子で、どんどん田んぼ用の機械を作った。

「で、これは田植機を使ってと」

 同じゴーレムを乗せた田植機で、苗を植えていく。
 こういうとき、ゴーレムって便利だ。手や足だけ作ればいい。

「ヤバイね、コーキ。ウッドゴーレムに、そんな使い方があったなんて」

「前世の知識があっただけだよ」

 開発した人がすごいだけ。ボクは、なにもしていない。
 竹とんぼドローンで、霧状にした防虫ポーションを撒く。パロンが作ったものだ。農薬ほど強くはないが、基本無害である。野菜やコメの味も、損なわない。
 ドローン技術ができたことで、いちいち歩きながら撒かなくてもよくなっている。
 完全無農薬といきたかったけど、やめた。周りの畑も無農薬栽培にする必要が出てくるらしい。虫の被害が、広がっちゃうんだとか。
 ドローンには、クコとスライムが乗っている。ブランコに揺られながら、スライムはポーションを散布している。

「こんなもんかな?」

 最後に、コンバインを作成した。ゴーレムをいっぱい作って刈り取るコトも考えたけど、コンバインを使って手早くやったほうがいいかな、と。まだ収穫までには時間があるため、倉庫にしまっておく。

「それにしても、一気に充実したねえ」

「あの渓谷が、すべての原因だったとは」

 宗教団体が水をせき止めていたせいで、世界樹が保っていた自然界のバランスを壊していたとは。

 その世界樹も元に戻り、おコメも手に入った。あとは、実りを待つばかりだ。

 しかし、朗報ばかりじゃない。

 トレントともお別れの時が来た。


(第三章 完)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...