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第三章 ダンジョンと、コメ栽培
第18話 コメ栽培
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「なんぞ。コメなんぞ、糖質の塊ではないか。たしかにうまいが、そんなに珍しいとは」
世界中の珍味に慣れているのか、賢人クコの反応は鈍い。
「これを発酵させれば、お酒を作れるよ」
「よし、さっさと育てるぞよ」
現金だなぁ、賢人は。
コメ作りには、田んぼが必要だ。早速作業に取り掛かる。とはいえ……。
「あーあ」
コメの種モミを両手に乗せたまま、ボクは呆然とする。
いざ、おコメを育てようと考えて、イヤな予感が頭をよぎった。
おコメがあるってことは、ひょっとすると……。
「どうしたの、コーキ?」
「いや、もしかすると、ボクと同じ世界から来た人が転生してきて、やらかしたのかなーって……」
ボクは、パロンに仮説を話してみる。
「つまり、あの団体は、異世界人が打ち立てたんじゃないかと」
日本人がここの世界に来て、悪さをした可能性があった。
でなければ、あんな文明レベルで設備なんて作れない。
もしコメなんて育てたら、この村の秘密が世界中に広まって、悪い考えを持った転生者に狙われるかも。そう予感したのだ。
「なるほど。それは、ない。断言できるよ」
「パロンがそこまで、強い発言をするなんてね」
「だって、少なからずワタシたちの生活にまで影響しているはずじゃん。でも、ワタシたちは異世界から来た人物はキミしか知らない。こちとら、長寿のハイエルフだよ? そんなワタシたちにさあ、伝承が行き渡っていないなんておかしいじゃんか」
たしかに。
「だから、安心しておコメを育てたら?」
「それもそうだね」
おコメに罪はない。
幸い、水は潤沢にある。おコメ作りには、大量の水が必要だ。
種モミを苗にしている間、田んぼを作る。ゴーレムにも手伝ってもらい、適当な広さに耕す。本当にアバウトだ。探り探りで。魔物の死体を混ぜた腐葉土を、肥料にした。スライムも手伝ってくれる。
「はあ、はあ、ひい」
ボクたちだけでやると、ちょっと時間がかかり過ぎかなぁ。広すぎて、全然進まないや。パロンが作った農具でも、手間がかかる。
「よし」
ボクは倉庫から、壊れたイスや古くなった馬車を出す。用途をどうしようか、悩んでいたものばかりだ。腐らせてキノコを生やすか、腐葉土に混ぜちゃうかと思って、一応保管しておいたのである。
今は、トレント世界樹がくれた鉄もあった。これなら、アレが作れるかも。
「ここをこうして、こうだ」
頭の中に機械をイメージして、組み立てていく。
「できた!」
田んぼ用のマシンに改造した。それをゴーレムと融合させて、動かせるようにする。我ながら、いい出来ではないか。
「コーキ、なにそれ?」
「トラクターだよ。手早く畑を耕せる機械なんだ」
ボクの魔力で動く木製トラクターゴーレムが、畑を田んぼに変えていく。
仕組みもよくわかっていないし、耕運の知識なんてなにもない。けど、たしかにトラクターは動いている。
「すっごいね。すぐに田んぼができあがったよ」
「こういうのって、手でやったほうがいいのかな、って思っていたけど」
異世界を題材にした作品でも、コメ作りってたいてい手作業だよね。
「ドローンができたからね。トラクターなんかも作れるんじゃないかって」
ボクも手作業にするか迷ったが、結局トラクターなどの農業機械を使うことにした。あと、作れるから、というコトもある。冒険に出る可能性もあるから、誰かに任せたいという考えもあった。
あっという間に育った苗を、泥に植えていく作業を始める。
この調子で、どんどん田んぼ用の機械を作った。
「で、これは田植機を使ってと」
同じゴーレムを乗せた田植機で、苗を植えていく。
こういうとき、ゴーレムって便利だ。手や足だけ作ればいい。
「ヤバイね、コーキ。ウッドゴーレムに、そんな使い方があったなんて」
「前世の知識があっただけだよ」
開発した人がすごいだけ。ボクは、なにもしていない。
竹とんぼドローンで、霧状にした防虫ポーションを撒く。パロンが作ったものだ。農薬ほど強くはないが、基本無害である。野菜やコメの味も、損なわない。
ドローン技術ができたことで、いちいち歩きながら撒かなくてもよくなっている。
完全無農薬といきたかったけど、やめた。周りの畑も無農薬栽培にする必要が出てくるらしい。虫の被害が、広がっちゃうんだとか。
ドローンには、クコとスライムが乗っている。ブランコに揺られながら、スライムはポーションを散布している。
「こんなもんかな?」
最後に、コンバインを作成した。ゴーレムをいっぱい作って刈り取るコトも考えたけど、コンバインを使って手早くやったほうがいいかな、と。まだ収穫までには時間があるため、倉庫にしまっておく。
「それにしても、一気に充実したねえ」
「あの渓谷が、すべての原因だったとは」
宗教団体が水をせき止めていたせいで、世界樹が保っていた自然界のバランスを壊していたとは。
その世界樹も元に戻り、おコメも手に入った。あとは、実りを待つばかりだ。
しかし、朗報ばかりじゃない。
トレントともお別れの時が来た。
(第三章 完)
世界中の珍味に慣れているのか、賢人クコの反応は鈍い。
「これを発酵させれば、お酒を作れるよ」
「よし、さっさと育てるぞよ」
現金だなぁ、賢人は。
コメ作りには、田んぼが必要だ。早速作業に取り掛かる。とはいえ……。
「あーあ」
コメの種モミを両手に乗せたまま、ボクは呆然とする。
いざ、おコメを育てようと考えて、イヤな予感が頭をよぎった。
おコメがあるってことは、ひょっとすると……。
「どうしたの、コーキ?」
「いや、もしかすると、ボクと同じ世界から来た人が転生してきて、やらかしたのかなーって……」
ボクは、パロンに仮説を話してみる。
「つまり、あの団体は、異世界人が打ち立てたんじゃないかと」
日本人がここの世界に来て、悪さをした可能性があった。
でなければ、あんな文明レベルで設備なんて作れない。
もしコメなんて育てたら、この村の秘密が世界中に広まって、悪い考えを持った転生者に狙われるかも。そう予感したのだ。
「なるほど。それは、ない。断言できるよ」
「パロンがそこまで、強い発言をするなんてね」
「だって、少なからずワタシたちの生活にまで影響しているはずじゃん。でも、ワタシたちは異世界から来た人物はキミしか知らない。こちとら、長寿のハイエルフだよ? そんなワタシたちにさあ、伝承が行き渡っていないなんておかしいじゃんか」
たしかに。
「だから、安心しておコメを育てたら?」
「それもそうだね」
おコメに罪はない。
幸い、水は潤沢にある。おコメ作りには、大量の水が必要だ。
種モミを苗にしている間、田んぼを作る。ゴーレムにも手伝ってもらい、適当な広さに耕す。本当にアバウトだ。探り探りで。魔物の死体を混ぜた腐葉土を、肥料にした。スライムも手伝ってくれる。
「はあ、はあ、ひい」
ボクたちだけでやると、ちょっと時間がかかり過ぎかなぁ。広すぎて、全然進まないや。パロンが作った農具でも、手間がかかる。
「よし」
ボクは倉庫から、壊れたイスや古くなった馬車を出す。用途をどうしようか、悩んでいたものばかりだ。腐らせてキノコを生やすか、腐葉土に混ぜちゃうかと思って、一応保管しておいたのである。
今は、トレント世界樹がくれた鉄もあった。これなら、アレが作れるかも。
「ここをこうして、こうだ」
頭の中に機械をイメージして、組み立てていく。
「できた!」
田んぼ用のマシンに改造した。それをゴーレムと融合させて、動かせるようにする。我ながら、いい出来ではないか。
「コーキ、なにそれ?」
「トラクターだよ。手早く畑を耕せる機械なんだ」
ボクの魔力で動く木製トラクターゴーレムが、畑を田んぼに変えていく。
仕組みもよくわかっていないし、耕運の知識なんてなにもない。けど、たしかにトラクターは動いている。
「すっごいね。すぐに田んぼができあがったよ」
「こういうのって、手でやったほうがいいのかな、って思っていたけど」
異世界を題材にした作品でも、コメ作りってたいてい手作業だよね。
「ドローンができたからね。トラクターなんかも作れるんじゃないかって」
ボクも手作業にするか迷ったが、結局トラクターなどの農業機械を使うことにした。あと、作れるから、というコトもある。冒険に出る可能性もあるから、誰かに任せたいという考えもあった。
あっという間に育った苗を、泥に植えていく作業を始める。
この調子で、どんどん田んぼ用の機械を作った。
「で、これは田植機を使ってと」
同じゴーレムを乗せた田植機で、苗を植えていく。
こういうとき、ゴーレムって便利だ。手や足だけ作ればいい。
「ヤバイね、コーキ。ウッドゴーレムに、そんな使い方があったなんて」
「前世の知識があっただけだよ」
開発した人がすごいだけ。ボクは、なにもしていない。
竹とんぼドローンで、霧状にした防虫ポーションを撒く。パロンが作ったものだ。農薬ほど強くはないが、基本無害である。野菜やコメの味も、損なわない。
ドローン技術ができたことで、いちいち歩きながら撒かなくてもよくなっている。
完全無農薬といきたかったけど、やめた。周りの畑も無農薬栽培にする必要が出てくるらしい。虫の被害が、広がっちゃうんだとか。
ドローンには、クコとスライムが乗っている。ブランコに揺られながら、スライムはポーションを散布している。
「こんなもんかな?」
最後に、コンバインを作成した。ゴーレムをいっぱい作って刈り取るコトも考えたけど、コンバインを使って手早くやったほうがいいかな、と。まだ収穫までには時間があるため、倉庫にしまっておく。
「それにしても、一気に充実したねえ」
「あの渓谷が、すべての原因だったとは」
宗教団体が水をせき止めていたせいで、世界樹が保っていた自然界のバランスを壊していたとは。
その世界樹も元に戻り、おコメも手に入った。あとは、実りを待つばかりだ。
しかし、朗報ばかりじゃない。
トレントともお別れの時が来た。
(第三章 完)
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