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第三章 ダンジョンと、コメ栽培

第17話 世界樹と共に脱走

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「コーキ、話の筋が見えないよ?」

「本人に直接、聞いたほうがいいかな。スライムに触ってあげて。テレパシーで伝わるから」

 パロンやクコが、スライムに触れた。
 この施設は、とある宗教団体が、天候を世界樹にコントロールさせるために建てたものだった。幽閉されて、天気をコントロールさせられ続けていたのだ。スライムと一緒に。
 団体は天気を操ることによって、人々を導いていたらしい。作物だけではなく、魔法に変わるエネルギーも作り出していたとか。
 スライムは反乱を起こして、天気を狂わせて教団を全滅させた。
 だが、共倒れに終わる。宗教団体は全滅したが、管理する人たちもいなくなってしまった。地下水でどうにか生命を保っていたが、それも何万年とは続かなかったのである。とうとう、世界樹は干上がってしまう。

「うわあ、ひどい組織だったんだね」

 パロンが、憤った。

「まあ、壊滅したのも自業自得だよね」

 この雨も、今まで支配し続けていた天候が荒れに荒れた結果だという。
 ボクたちを襲ったのも、水分を狙ったからなんだって。

「外に出るぞよ」

 洞窟の入り口がひとりでに開き、目の前には大瀑布が。

「ほらあ、やっぱり入り口が滝の中にあったじゃーん」

 ボクはドヤ顔で、二人に自慢をする。
 悪者のアジトってのは、たいてい滝の裏側にあるものだ。

「で、世界樹くんはなにをする気で……わわあ待って待って!」

 なんと、世界樹は滝を飛び上がって、荒々しく川へとダイブする。
 沈んじゃうかもと思ったが、水は荒野の中へ飲み込まれていった。このまま泥になって、水は地下へと染み込んでいくのだろう。

「見て。渓谷に木が生えてきた」

 雨水を吸って、木々や緑が再生を始めたようだ。ボクが伸ばしたツタも、果実や野菜を実らせていく。実っては腐り落ちを高速のペースで繰り返し、ツルを伸ばしていく。
 雨は生態系の活性化を、促進する。失われた時間を取り戻すかのように。

「川も伸びたねえ」

 パロンが差す方角には、ゴーレムで作った川が。行きはチョロチョロの溝レベルだったのに、今や水が囲いを砕いている。水は無軌道に、血管のごとく広がっていく。どこにつながっているのだろう?
 皮肉にも、雨乞い宗教団体が滅びたことで、自然が回復するとは。
 とはいえ木々が潤うまでに、何百年もかかるのだろう? ボクには、途方もない時間に思えた。

「滅んで、よかったんだよね?」

「うん。あんな組織はダムに沈めばいいよ」

 トレント型世界樹は、アジトを放り出し、故郷へ行こうとする。だが、そこも荒れ地となっているだろう。回復させるには、また何年かかるか。

「そうだ。ウチにおいでよ。村で回復してから、ふるさとに根を伸ばせばいいじゃん」

 この世界樹には、我が村にいてもらえばいい。
 掘った溝を目印に、村まで誘導していく。
 ズシンズシンと足を踏み鳴らし、世界樹は進んでいった。その様子は、新天地を目指す旅人のようだ。
 スライムも、こころなしか楽しそう。
 さらに川の勢いが、増していった。トレントの歩くスピードさえ、軽く追い越していく。向こうのほうが先に、村へ到着するかも。

「とっとっと!」

 川が、トレントの足をすくう。そのまま、ボクたちは流されてしまった。しかし、トレントのバランス感覚のお陰で、溺れずに済む。


 気がつけば半日もせずに、村へ帰還していたではないか。


「村の様子は、と」

 いい感じに、貯水池が完成していた。苗木のあるポイントは、小島になっている。もはや、囲いから溢れてきそうなほど、水が溜まっていた。
 トレント型世界樹は歩き疲れたのか、ズシンとあぐらをかく。そのまま、ボクが植えた苗と同化して、小島に根を張った。
 川の水が、大量に湖へと流れ込んでくる。世界樹の影響に、違いない。そこまで水を引っ張ってくる力があるのか。すごいなあ。
 また枝分かれして、各方面へ流れていった。この地も、世界樹のお陰で再生されていくはずだ。

「橋をかけるね」

 木を伐採して、ボクは小島と村を橋で結ぶ。これで、世界樹と行き来できるぞ。

 世界樹が、トレントの手をボクに差し出してきた。
 ボクたちを乗せてきたほど大型だった手には、包みが握られている。
 トレントは、ボクたちの前に包みを落とす。
 スライムが、包みの袋を開けた。
 眩しいまでの光が、麻袋から漏れ出す。これは、王冠かな? 宝剣とかもある。

「これは、報酬だね?」

 トレントが、お礼を言ってきた気がした。

「ありがとう。大切にするよ」

 大量の財宝を、トレントからいただく。宗教団体が溜め込んでいた、貴金属類らしい。昔の金貨も発見した。

「個人的には、豊かな自然だけでも十分なんだけど」

「なんじゃい、欲がないのう」

「そう言われようとも、使い道がなくってさ」

 あったとしても、森林の復興くらいにしか使わない。まあ、シドの森から水を引く費用にでもしようかな。
 まだ、報酬はあるらしい。
 スライムが、今度は小さな包みをボクにくれた。

「コーキ、キミが一番ほしがっているだろうモノだって」

 スライムの言葉がわかるのか、パロンがそう教えてくれる。

 なんだろう、ボクが欲しいものだなんて?

 包みの中身を、見せてもらった。

「これは……おコメだ!」

 たしかに、日本人ならおコメだよね!
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