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第三章 ダンジョンと、コメ栽培

第16話 ダムの全容

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 何者かに守られるように、世界樹が秘匿されていたのである。

「この子たちは、ガーディアンなのかもね。世界樹を、ガーディアンが守っていた」

「枯れちゃっているのに、命令だけを守っていたんだね」

 その管理役が、このスライムだったと。

「こんなボロボロになって」

 ボクは、世界樹の成れの果てに近づく。

「コーキ、危なくない?」

「平気」

 なんらかの理由で、世界樹が枯れたんだ。
 スライムは、それを教えようとしている。

「ワタシたちを攻撃してこないね。防衛対象の眼の前にいるのに。どうしてだろう?」

 パロンが指でツンツンしても、スライムは抵抗しない。クコにも、懐いていた。

「ボクも、世界樹だからだろうね」

「なるほど。同族と思われているのか」

 ボクたちの会話に返事をしているのか、スライムはまた飛び跳ねる。

「あとは」

 世界樹の方をなんとかしないと。

「これが多分、浄水システムだったんだろうね。あるいは、この世界樹に水を提供するために、ダムを建設したか」

 おそらく、両方だったんだろう。

「なんでドーム状だったんだろう。陽の光がほしいなら、外に木を生やせば」

「当時は、山の大きさがもっと高かったんじゃないかな?」

 森林限界ってやつだ。そのせいで、木を植えられなかったのでは。水も不自由していた環境だったようだし。
 だから、世界樹に働いてもらって、水をキレイにしてもらっていたのかもしれない。
 浄水された水を提供してもらうために、世界樹をスライムたちに守らせた。
 大昔の人も、考えていたんだろう。
 しかし、周りの水は濁っている。泥水みたいだ。
 こんな環境で、ずっと活動させられていては。

「待っててね。今助けるよ」
 ボクは、世界樹の苗に接ぎ木をした。
 同じ世界樹だ。これでよくなるはず。
 ゴーレムたちが掘っている水場まで。根っこを生やしていった。

「行け!」

 苗に、腐った木が集まってくる。腐葉土となって、苗をどんどんと成長させた。

「うわうわうわ……」

「これがここの世界樹が持つ、本来の力なんだね」

 ボクもパロンも、目の前の光景に圧倒される。
 ものの数分で、世界樹はその姿を取り戻した。リンゴのような果実がなり、ガラスの天井を突き破るほどに成長している。

「外に、雷が鳴っておるぞ!」

「ホントだ。近いね」

 暗雲が立ち込め、雨まで降り出した。土砂降りの雨が、ドーム状の窓を叩く。まるで、この建物を潰すかのように。
 そういえば、この世界で雨は初めて見るかも。
 降り注ぐ水滴は、全くやみそうにない。それどころか、勢いが増すばかり。
 水分を吸って世界樹もたいそう元気に……なっていない。

「ちょっと待って! エグい感じになってきたよ」
 世界樹のある場所を、雨水が満たす。長年世界樹を支えていた地面が、水を吸ってムクムクと起き上がった。

「ウソでしょ?」

 大樹に、手と足が生えてきたぞ。世界樹って、足とか生えるものなのかなぁ?

「まさかこれ、トレントタイプの世界樹?」

「トレントって何?」

「木のモンスターだよ。ウッドゴーレムとは違って、天然で木に手足が生えているんだ。顔があるタイプもあるよ」

 おっかないね! まるでボクみたいだ。

「世界樹が、ひとりでに動きだしたぞよ!」

 のっしのっしと、歩き出したではないか。

「アイアンゴーレムまで」

 敵の出現に、ボクたちは身構える。
 しかしゴーレムたちは、ボクたちではなく施設を壊し始めたではないか。
 本当に、世界樹はドームを潰すつもりだ。このままでは、施設ごと水の中に沈んでしまうのではないか?
 ボクは、不安になってきた。スライムを、信じてよかったんだろうか。
 と思えば、ボクらに向けて手を差し伸べてきた。「乗れ」ってことみたい。

「乗ろう。事情があるのかもしれない」

「たしかに、ここにいたら溺死しちゃいそうだね」

 トレント型世界樹が、ドーム状のガラス天井を突き破った。ガラスは大量の雨に流されて、ボクらを避けていく。
 世界樹はどんどんと大きくなり、ダムより大きくなっていった。
 ドームはすっかり、水の中に沈んでいる。
 ダムに水を溜めるどころではなく、鉄の壁を壊して外へ溢れ出した。それこそ滝のように。

「外にいるゴーレムたちが、心配だね」

「大丈夫っしょ。別に死んだりはしないよ。魔法石になって、召喚主に戻ってくるんだ」

 キラキラした石が、パロンの手に還ってきた。

「ほら」

 笑顔を向けているけどさ、流されちゃったんだよね、キミのゴーレム。

「あ、ボクのゴーレムもいなくなっちゃったみたい」

 ボクの手に、ゴーレムに付けたはずの魔法石が戻ってきた。
 そういえば、スライムはどこだろう?

「あのスライムは……ここにいたのか」

 スライムは、トレントの上に乗っていた。ピョンとはねて、ボクの頭に乗っかる。なにか、伝えたいことでもあるのかな?

「……ああーっ。なるほどねえ」

 スライムの思考が、ボクにわかるように映像化された。

 なるほど。そういうことがあったのか。

「どうしたの、コーキ?」

「この施設は、潰されて当然だったんだ」

「言っている意味が、よくわからないんだけど」

「世界樹やスライムは、ここで育ったんじゃない。この施設に連れてこられたんだ」

 ここは、悪い奴らの基地だったのだ。
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