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第四章 百合おじの休日

第28話 百合は遠い日の花火ではない

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 夕方まで、水着姿の百合を楽しんだ。

「来てよかったですね、マーゴット様」


 ティナとマーゴットは、海を見ながらソフトクリームを食って、たそがれている。誰にも邪魔できない空間だ。

「生徒会に誘われたときは、正直抵抗があったけど、入ってよかったね」

「そうですね。ユリウス様もいますし」

 オレへの世辞はいい。

 この場所は、二人で勝ち取った百合空間だ。
 
 オレは壁、いや砂浜でいい。モブとして、この百合を愛でようではないか。

「キミの謙虚さには惚れ惚れするよ、ユリウスくん」

「先輩」

 自分で砂の中に埋れながら、ガセート先輩は寝そべっていた。隠密のつもりなのか、少しでも百合の側にいたいという不純な動機なのか知らんが。

「僕なんて、一ミリでも百合の側に近づきたいって思いが募って、ついつい変装や隠密スキルばかり上げてしまっているというのに」

 不純な動機の方だった。

「このギリギリのチキンレースがいいのさ。百合の近くにいたい。しかし干渉してはならぬ。でも、少しでも匂いを嗅げたら」

 わかる。

 オレだって、百合ゲーを楽しんでいるときは、その香りを堪能したいと思ったものだ。

 しかし、それはダメである。

 百合に男が混じってしまえば、生臭さが際立ってしまう。

 オレたちは無用の長物。

 百合に挟まれたい願望は、駆逐されるべき存在だ。

 オレたちは、産まれてきてはいけなかったのである。 


 
 夜は、使用人たちが釣ってきた魚をさばいて、刺身にした。

 この世界で、マグロやハマチが食えるとは。

 若い肉体に転生して、油ものに抵抗はなくなった。それでも、生の魚が食いたいときもある。こんなところで食えるなんて、番外イベントとはいえ大盤振る舞いではないか。

 刺身は絶品だった。ふぐ刺しまである。コリコリしてウマい。

 百合ップルはというと、珍しい生魚に躊躇しながらも、お互いに食べさせ合っている。
 刺身しょう油に抵抗があったのか、女性陣はカルパッチョにしていた。

「ティナもマーゴットも、生魚は初めてか?」

「はい。でも、おいしいです」


 食後、みんなで手持ち花火を楽しむ。

 普段から自分を押さえて行動しているせいか、生徒会は大はしゃぎしている。

 一方、ティナとマーゴットは、お互いの線香花火をくっつけ合っていた。

 ゲーム世界の娯楽用花火は、現実世界のものとあまり変わらない。複雑なものは流石に作れないようだが、昭和っぽくてオレは好きである。

 それがまた、百合空間に映えるのだ。

 ブワッと燃え盛る勢いと、チリチリと力を失っていく儚さが、実に百合を表現しているではないか。
 
 
 ドーンと、海の向こうで音がした。
 遠くの国で、花火が打ち上がっている。

「アレは、ヤンディーネンくんの国の方角だね」

「そういえば、ヤン王女の結婚式があるとか、言っていました」

 ガセート先輩に続いて、メンドークサが話を進めた。

 学校を追われたヤン王女は、学業をあきらめて籍を入れたらしい。
 かなり裕福な男性だというが、素性はわからないそうだ。

「そのための、里帰りだったのか」

 聞いたこともない国の王子と、結ばれたというが。
 

「百合は遠い日の花火ではない」

「まったくだよ、ユリウスくん。オレたちで、守り抜こうではないか」



 だが、その状況を脅かす事態が発生した。

 学校が、二学期に突入したときのことである。

「転校生を紹介するぞ」

 黒髪長髪で太眉の男が、担任の隣に立つ。

「アッシェ・シュタウプといいます。この度は学生ながら、ここに通っていたヤンディーネン嬢の夫となりました。よろしく」

 
 転校生は、半魔族の男だった。
 しかも上位種、吸血鬼である。

(第四章 おしまい)
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