21 / 36
第三章 百合おじにライバル出現……と思ったら同類だった。
第21話 百合おじ、ダンジョンに挑む
しおりを挟む
「ユリウス王子、みなさんを頼みます」
出発の際、騎士団からそう声をかけられた。
「別にオレなんか、くたばればいいと思っているんだろ? 正直に言えばどうだ?」
オレが皮肉をいうと、騎士団たちが顔を突き合わせる。
「ええ。実は、そう思っていました……以前は」
「以前は?」
今は、違うというのか?
「話によると、あなたはティナ様とディートマル殿のお二方を、何度も窮地から救ったと聞きます」
「以前のあなたからは、悪評しか聞きませんでした。しかし、今はあなたを評価する声が、あちこちで上がっています。実際に会うまで、我々の知っているユリウス殿とは別人なのではと疑っていました。ですが、今は信じることができます」
騎士たちが、口々にオレを評価する。オレの立ち居振る舞いから、どう考えてもかつて悪童だったとは想像できないそうだ。
「騎士は人を見れば、その性格が読み取れる」というが、美化し過ぎではないか?
まあいい。二人を守るべきなのは事実だ。
騎士がオレをどう評価しようと、それは関係ない。
「オレは、必要に迫られて二人を守っているに過ぎん」
今度こそ、オレはダンジョンに足を踏み入れた。
ガセート先輩を先頭に、オレとトマ王子がティナを守る。
学生服のままだが、気にしない。この制服は特殊なプロテクションがかかっており、見た目より頑丈なのだ。
オレたち魔法科学校の生徒は、【マギアーツ】という魔法と拳法を合わせた技を使う。重い装備は、かえって動きづらくなる。
ヤンもリモート使い魔で、ついてこようとした。が、魔族相手だと「外見を見た対象の精神を汚染してくる」個体もいる。危険極まりないので、辞退してもらった。
そんな魔族もいるので、精神汚染に耐性のない騎士たちには、街を警護するために外で待機してもらっている。
オレたちが選ばれた最大の理由が、それだ。精神耐性が異常に強いメンバーで、パーティを構成している。
「だが、油断をするな。普通にフィジカルが強い魔物も、いるからな。こんな風に」
レッサーデーモンと、ガセート先輩が交戦した。
足に風魔法を付与して、ボクシングのフットワークを見せる。氷属性付与で拳を固め、パンチを当てる。
「ギャギャ! ニンゲンの技なんぞ通用するか!」
顔面にパンチがめり込んでも、レッサーデーモンはピンピンしていた。
「それはどうかな?」
ガセート先輩が付与魔法に氷属性を選んだのは、ダメージを与えるためではない。氷で自分の手と相手の顔をくっつけるためだ。
レッサーデーモンの顔が、ガセート先輩の手から離れなくなった。
ガセート先輩のボディブローが、魔物の腹にめり込む。
レッサーデーモンは、あっけなく消滅した。
「おまたせ。さ、先に行こう」
先輩は何事もなかったかのように、歩を進める。
「街に現れた魔族が、あんな感じでした」
「それを軽くノシてしまうなんて」
ティナとトマが、先輩の実力に驚愕していた。
「キミが本気を出せば、もっと強い魔族も倒せるだろう」
「わたしに、そんな力があるとは思えませんが」
「できるさ。ディートマル王子といっしょなら」
先輩からそう告げられて、ティナはトマ王子と手を繋ぐ。
「あ、ごめんなさい。あなたという人がいながら」
オレの視線を感じてか、ティナがトマから手を放そうとした。
「構わん。続けるんだ」
対するオレは、繋がっている二人の手を包み込む。
「この絆は、実に尊いものだ。失ってはならぬ」
「ありがとうございます。ですが、わたしは不安になります。自分たちだけが、幸せになっていいのか」
「愛し合っている者同士がくっつくのは、自然の道理だろ。なにが間違っているんだ? 先輩だって、そう思うだろ?」
オレが話を振ると、ガセート先輩はうんうんと何度もうなずいた。やはり百合の同志は、話がわかる。
「ユリウス王子、あなたは自分の幸せすら犠牲にして、何を望むのです? あなたが手にしたいものは、なんですか?」
「さあな。それよりボスのお出ましだな」
出発の際、騎士団からそう声をかけられた。
「別にオレなんか、くたばればいいと思っているんだろ? 正直に言えばどうだ?」
オレが皮肉をいうと、騎士団たちが顔を突き合わせる。
「ええ。実は、そう思っていました……以前は」
「以前は?」
今は、違うというのか?
「話によると、あなたはティナ様とディートマル殿のお二方を、何度も窮地から救ったと聞きます」
「以前のあなたからは、悪評しか聞きませんでした。しかし、今はあなたを評価する声が、あちこちで上がっています。実際に会うまで、我々の知っているユリウス殿とは別人なのではと疑っていました。ですが、今は信じることができます」
騎士たちが、口々にオレを評価する。オレの立ち居振る舞いから、どう考えてもかつて悪童だったとは想像できないそうだ。
「騎士は人を見れば、その性格が読み取れる」というが、美化し過ぎではないか?
まあいい。二人を守るべきなのは事実だ。
騎士がオレをどう評価しようと、それは関係ない。
「オレは、必要に迫られて二人を守っているに過ぎん」
今度こそ、オレはダンジョンに足を踏み入れた。
ガセート先輩を先頭に、オレとトマ王子がティナを守る。
学生服のままだが、気にしない。この制服は特殊なプロテクションがかかっており、見た目より頑丈なのだ。
オレたち魔法科学校の生徒は、【マギアーツ】という魔法と拳法を合わせた技を使う。重い装備は、かえって動きづらくなる。
ヤンもリモート使い魔で、ついてこようとした。が、魔族相手だと「外見を見た対象の精神を汚染してくる」個体もいる。危険極まりないので、辞退してもらった。
そんな魔族もいるので、精神汚染に耐性のない騎士たちには、街を警護するために外で待機してもらっている。
オレたちが選ばれた最大の理由が、それだ。精神耐性が異常に強いメンバーで、パーティを構成している。
「だが、油断をするな。普通にフィジカルが強い魔物も、いるからな。こんな風に」
レッサーデーモンと、ガセート先輩が交戦した。
足に風魔法を付与して、ボクシングのフットワークを見せる。氷属性付与で拳を固め、パンチを当てる。
「ギャギャ! ニンゲンの技なんぞ通用するか!」
顔面にパンチがめり込んでも、レッサーデーモンはピンピンしていた。
「それはどうかな?」
ガセート先輩が付与魔法に氷属性を選んだのは、ダメージを与えるためではない。氷で自分の手と相手の顔をくっつけるためだ。
レッサーデーモンの顔が、ガセート先輩の手から離れなくなった。
ガセート先輩のボディブローが、魔物の腹にめり込む。
レッサーデーモンは、あっけなく消滅した。
「おまたせ。さ、先に行こう」
先輩は何事もなかったかのように、歩を進める。
「街に現れた魔族が、あんな感じでした」
「それを軽くノシてしまうなんて」
ティナとトマが、先輩の実力に驚愕していた。
「キミが本気を出せば、もっと強い魔族も倒せるだろう」
「わたしに、そんな力があるとは思えませんが」
「できるさ。ディートマル王子といっしょなら」
先輩からそう告げられて、ティナはトマ王子と手を繋ぐ。
「あ、ごめんなさい。あなたという人がいながら」
オレの視線を感じてか、ティナがトマから手を放そうとした。
「構わん。続けるんだ」
対するオレは、繋がっている二人の手を包み込む。
「この絆は、実に尊いものだ。失ってはならぬ」
「ありがとうございます。ですが、わたしは不安になります。自分たちだけが、幸せになっていいのか」
「愛し合っている者同士がくっつくのは、自然の道理だろ。なにが間違っているんだ? 先輩だって、そう思うだろ?」
オレが話を振ると、ガセート先輩はうんうんと何度もうなずいた。やはり百合の同志は、話がわかる。
「ユリウス王子、あなたは自分の幸せすら犠牲にして、何を望むのです? あなたが手にしたいものは、なんですか?」
「さあな。それよりボスのお出ましだな」
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる