百合に挟まれて死ぬ悪役王子に転生した百合男子、百合ップルを見守ります!

椎名 富比路

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第三章 百合おじにライバル出現……と思ったら同類だった。

第19話 生徒会長は、百合おじと同類だった

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 まさか、ガセート先輩が百合おじだったとは。とはいえ、同じ転生体ではなかろう。

……ちょっと待てよ。百合好きということは。

「ガセート先輩はまさか、トマの」

 トマが「マーゴット王女」であると、知っていなければ、そんな発言はできない。
 クーガー家において、マーゴットは死んだことになっている。
 
「隠さなくてよい、ユリウスくん。彼……彼女が女性だという情報は仕入れている」

 やはりか。

「たいていの生徒は、他所の国からこの魔法科学校に入るわけだから、当然寮に入る。しかしトマ王子は、男性寮に入ろうとしなかった。学校の近くにある空き家を買い取って、住んでいるそうじゃないか」

 詳しいな。

「正解だ。とはいえ、それだけの情報では」

「どうして僕が、取り巻き二人を囲っていると思っているのだ? 彼女は単なる、観賞用の百合ップルではないよ。我がカインフェルト帝国の【隠密】さ」

 秘書に調べさせた結果、トマ王子が女性であると突き止めたらしい。

 女性独特の香り、ぎこちない仕草、骨格のズレなど。どれだけ包み隠しても、トマ王子からは美少女成分が漂ってしまう。
 その要素を、秘書二人は簡単に嗅ぎつけてしまった。
 
「知らなかったのか? 百合ップルからは、逃げられない」

 百合ップルの目は、ごまかせないのか。
 
「餅は餅屋。百合は百合ップルってヤツだな」

「そんなところさ」

 だが、そうなると納得的ない点が。
 
「百合光景を眺めるためだけに、先輩はティナとトマ王子を二人を生徒会に入れるつもりなのか?」

「まさか! 魔族討伐は真剣さ。二人を危険にさらすんだ。個人的な趣味だけで消臭なんてするか」

「魔族討伐は、という言い方が気になるが?」

 普段の生徒会では、そこまでではないというニュアンスにも聞こえるが。
 
「揚げ足を取らないでくれたまえよ。生徒会に入ったら、不自由な生活を送っているトマ王子の面倒を見てやれると思ったのだ」

 仕事はしてもらうが、秘密は秘匿し続けられると。
 
「取引か? それとも、えこひいきか?」

「そうやって、悪い風に捉えるのは勘弁願いたい」

「これでも、慎重派でな」

 トマとティナの身柄を安全に見守らなければ、気が済まない。
 だから、ヤンの使い魔も帰したくらいだ。トマが女性だとは、ヤンでも知らないからな。

 さすがに、魔法科学校の設立国である。というかガセート皇太子の目は、ごまかせないか。
 
 だからこそ、警戒する。

「トマ王子の実力は、知ってるよ。彼は特に、貴重な人材だ。悪いようにはしない。とはいえ、カインフェルトにとっても有益であることは事実だ」

「饒舌なのが、余計に怪しいな」

「どうやったら、信じてもらえるんだろうねえ」

「身分的に、不可能だ。信用できないとは言わないが、あまりいい気分ではない」

「僕の立場に、嫉妬しているのかい? 僕はいざとなったら、二人をいいようにできてしまう身分だ。当然、そんな目に遭わせる気なんてないけどね」

「かもしれないな」

 国なんてのは、有事の際には民の命など切り捨てる。

 オレがおじさんだから、そう感じてしまうのだろうな。
 
 この生徒会長はいい人そうだが、国の危機となると国家を優先するはずだ。そうでなければ、国の代表ではない。

「まあ、我が帝国がクーガー王国、ディートマル王子のことを警戒しているのは、事実だよ」

 ガセート先輩が、ため息をつく。

「調べれば調べるほど、クーガー国はおかしいことだらけだ。どうしてクーガーは、ティナ王女を始末しようとしているのか」

「そこまで知ってるのか」
 
「元々ディートマルくんは、ティナくんを暗殺するために送り込まれたのだろう? 勇者の血族が、どうしてそんなマネを?」

 そこなんだよなあ。

 結局、ゲームを攻略してもそこには触れていない。

 いわゆる「ガバガバ設定」だと、思っていたんだが。
 
「見てみろ。あの仲睦まじさを」

 ただ噴水の前で語らっているだけなのに、ティナとトマの幸せそうな表情ときたら。

「あの尊さを、どうして世界は壊そうとするのか。考えられない。あれはもはや美術品だ。ずっと眺めていたい。そう思わないか、ユリウスくん?」

 やたら早口で、ガセート先輩がオレに語りかけてきた。
 同類なのは確かだが、圧が強いな。

「クーガーに踏み込もうとすると、煙に巻かれてしまう。なので、ディートマルくんを生徒会に招けば、なにかつかめると思ったのさ」

 そういうことか。

「二人は帰るようだ。では我々も、話を終えるとしようか。ではダンジョンで」

「ああ。話が聞けてよかった、先輩」
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