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第二章 百合王子の正体がバレそうになってドキドキ!

第14話 不穏な影と、不審者な百合おじ

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「どうした、話せないのか?」

 オレが追求しても、ヤンは話そうとしない。

「決闘に負けたものは、勝者に従うのがルールだ。それとも、なにか縛りがあるとか?」

「そ、それは……」

「ん?」

 ヤンの背後に、なにか光るものが。

「おっと!」

 オレはヤンを、抱きかかえてどけた。

「何事だ?」

「ユリウス王子、どうやら敵のようです」

 メンドークサが、空を指差す。

「グゲゲゲアア! よく見抜いたなあ! ギャギャハア!」

 いかにも魔族然としたガーゴイルが、空中に浮かんでいた。

 黒幕か、あるいはその手下のお出ましだな。
 どうせ、魔族辺りだろうなと思っていたが。

「メンドークサ。ヤンを頼む」
 
 ヤンをメイドに預け、オレは戦闘態勢に。
 
「なるほど。魔族か。どおりで、ティナが狙われるわけだ」

 ティナたち聖女は、魔王が地上に攻めてくるのを抑え込んでいる。
 聖女の結界を抜けてくる弱い手下の魔族たちが、地上で悪さをしているのだ。すべては、魔王がこの地に顕現できるように。

「ユリウス! 貴様も我々と契約をしていたはずギャ! なのにどうして、ティナ王女に剣を向けないのギャ?」

「うるさい。オレはオレのやりたいようにやる。魔族の事情など、知るか」
 
「だったら、貴様から死んでもらギャアアア!?」

 ガーゴイルが何かを言う前に、ティナの飛び蹴りが魔物を貫いた。

「ティナ?」

「せっかくのデートを邪魔した、報いです」

 着地したティナが、服のホコリを払う。

 ティナは人間相手だと手加減しているだけで、魔族相手だと容赦しない。

 しかもティナは、「オレが周回プレイして鍛えた状態」である。
 つまり本来なら、ティナはオレと同じくらい強い。
 人を相手にすると、うっかり殺してしまう。そのため、普段はパワーをセーブしているだけなのだ。

「ウソ……あたし、あんなバケモノと戦うつもりだったの?」
 
 ティナがふるったあまりの強さに、ヤンが愕然とした。

「わからなかったのか? お前がプールでティナを襲っても生徒たちが無事だったのは、ティナが防護結界を張っていたからだ」

「う、うそよ! じゃあどうしてトマ王子様は、ティナをかばったのよ!? 結界なんて!」

「自分には効果のない、結界だったんだよ」

 すっかり、ヤンは怯えきっている。

「あの、ありがとう。ティナ王女」

 顔を背けながらも、一応ヤンはティナへ感謝を述べた。
 
 オレとの戦いでも心が折られたようだが、ヤンは自分が恋敵に助けられたことで、ティナへの敵対心も消え去ってしまったらしい。

 まあ、オレはプレイしているから、このルートも知っているが……。

「いえ、ご無事で何よりです」

 ああ、サブキャラとの百合もたまらんなあ。まあ、浮気しないのが王道だが。

「今後、あんたの邪魔はしないでおいてあげるわ」

「お邪魔だなんて。これからも、お友だちでいてください」

「こんなあたしでも、友だちって呼んでくださるの?」

「はい。復学に関しても、なんでしたら学長に掛け合って」

「そこまでなさらなくても、結構よ。ケジメはつけるわ」

 ヤンは、振り返って立ち去った。その靴音からは、いつもの苛立ちを感じない。

「無事か」

「はい。マーゴット様」
 
「ケガがなくて、本当によかった。ティナ」

「マーゴット様。あなたとこうして、またお話がしたいですわ」

「できれば、トマ王子の格好でお願いしたいな」

「そんなあ。似合っていますのに」
 
 ティナの言葉に、オレもメンドークサもうなずいた。

「誰かチェキ持ってねえか? マーゴットのお姿を、永久保存したい」

「この世界のカメラは、ポラロイドではありません」

「そんなー。クソ。脳内補完するために、もっと拝まねば!」

「まじで不審者丸出しですね、王子」

 

――数日後。
 

 オレの家に、お隣さんができた。
 魔法で一晩ででき上がった屋敷には、ヤンが住んでいる。

「どういうつもりだ、ヤン!? オレの隣に引っ越してくるなんて!」

「リ、リモートだったら、どこにいたっていいでしょ!?」

「だからって、オレの近所にいなくても」

「勘違いしないで! あんたのそばにいたら、トマ王子のカバーができると思ったからであって、あんたに気があるわけじゃないから! 誤解しないでよね!」

 たしかにオレは、すべてのエンディングを制覇した。
 そのうちの一つが、ノーマルエンディング:D『ヤンデレ悪役令嬢の改心』である!

 まさか、こんなところで発動してしまうとは!

 気まぐれで、助けるんじゃなかったぜ。
 このままでは、オレが注目されてしまう。

 オレはこの世界においては、日陰者でいい。主人公はあくまでティナであり、ヒロインはマーゴットこと、トマ王子だ。

 その二人を差し置いて、オレが主人公的な活躍など、すべきではない!

「ヤンデレが浄化されて、ツンデレになりましたね」

「いらん」

 身近な障害が消えたのはいいが、オレがモテてどうするんだ!?
 
(第二章 おしまい)
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