上 下
13 / 36
第二章 百合王子の正体がバレそうになってドキドキ!

第13話 百合おじさん・ユリウス、強さの秘密

しおりを挟む
 ヤンが、ティナとマーゴットの席を見下ろしている。

「あんたのせいで、トマ王子との逢瀬ができない状態になっちゃったの。責任取ってよね」

 店の中で、ヤンが刃物を取り出した。

 狼藉者の登場で、カフェの客が逃げ出す。

 店番をしている冒険者が、ヤンを止めに入った。

「邪魔を、しないでよ!」

 カフェのドリンクを使った衝撃波で、冒険者の武器がズタズタに。

「ひいいいい!」

 屈強なはずの冒険者が、腰を抜かす。 

「あたしはティナをお話をしているの。ザコは引っ込んでなさいよ!」

「待ちたまえ」

 オレは席を立つ。
 隠れて見守るつもりだったが、危険が及んでいるなら仕方がない。

「またアンタなの、ユリウス?」

「ザコじゃなければ、いいのだろ? 相手になろう」

「まあいいわ」 
 
 ヤンが手袋を外す。オレの方に投げ捨てた。

「決闘の仕切り直しよ。あたしが勝ったら、今度こそ邪魔しないでよね」

「承知した。お前が負けたら……」
 
「今のあたしが、負けるわけないでしょ? 場所を変えましょう」

 オレの言葉を無視して、ヤンはさっさと店を出ていく。


「ここでいいわよね?」

 街の門から出て、草原に到着した。

 障害物もなにもない。

「だが、お得意のお水がないぞ」

「いや、あるぞ! メレイド湖だ!」

 トマ王子が、森の奥を指差す。

 メレイド湖……ティナたちがデートでよく使っていた場所だ。霧を発する魔物がいるため、目くらましにちょうどいいのである。

「死になさい! 【ミスト・ブレット】!」

 ヤンは霧の水分を密集し、弾丸にして飛ばしてきた。

「これだけ細かい粒子なら、マワシウケも間に合わないわ! 炎で蒸発させたとしても……」

 オレは炎魔法で、霧を蒸発させていく。しかし、高熱で腕や頬にヤケドを負った。この世界に来て、初のダメージかも。
 気管に入ると、まずい。

「今のあなたは、自分でミストサウナを作っているような状態よ!」

 震脚で霧の発生を止めようとしたが、振動が散ってしまう。

 これは、他のヤツが力を貸しているな。
 たしか、他のやつと言えば……。

「アハハ! 永遠に襲ってくる水を相手に、くたばるがいいわ!」

「それはどうかな?」

 オレは、メレイド湖が見える高さまで跳躍した。

「お疲れさん」

 炎で矢を作って、放つ。

 ミストを形成しているナマズの魔物を、炎の矢で黙らせた。
 この魔物は普段、湖の中に隠れている。だが、ヤンが魔法の発動で水を全部抜いてしまったため、丸見えなのだ。

 ナマズが昏倒してしまえば、こっちのもんである。
 
「だがこっちには、大量の水がある。プールとは比較にならないほど」

 ヤンが操る水を、オレは震脚ですべて無効化した。

 水の操作が止まり、ヤンは盛大に湖の水をかぶる。

「震脚を止めていたのは、おそらくナマズだろう」

 オレの震脚に合わせて、ナマズもバウンドして効果を相殺していたのだ。
 そのナマズを気絶させたので、もう震脚無効は使えない。

「どうして、どうして勝てないの!? あんたの強さなんて、たいしたことなかったはずなのに! ああんたは策略家でしょ!? マギアーツだって『古臭い武術だ』って、習うことすら放棄したのに!」

 腰を落として、ヤンは戦意を喪失させた。

 わからないのか?

 
 オレはこのゲーム『悪役令息は、オトコのコ♥』を、何周もしているんだよ! 全部のエンディングを制覇するために!
 どれだけの苦行だったか。仕事をしつつだぞ。ない時間を削って、日常生活をすべてゲームに費やした。
 このマギアーツ技術も、本来はすべて「ティナが習得したもの」である。周回して、レベリングを引き継いで、アイテムも全部引き継ぎして。
 
 そのデータの状態で、ユリアンの姿で転生している。


「おしまいだな」

 オレは、相手の懐に飛び込んだ。

 ヤンが、顔をかばう。

 そこで、オレは手を止めた。

「とどめを刺しなさいよ」

「お前は負けた。条件をいう。黒幕が誰かを吐け」

 ヤンの眉が、ピクリと動く。

 やはりか。

 どうも、シナリオにズレが生じている気がしたのだ。

 なにか、妙な動きがある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

【第二部連載開始】転生魔法少女のチート無双! キセキの力でSSS級ならず者チームを結成です?

音無やんぐ
ファンタジー
あなたの心に、魔法少女は届きますか?  星石と呼ばれる貴石に選ばれた者は、魔法の力を手にすることになる。  幼い頃魔法少女に救われ、魔法少女に憧れた女の子は、やがて自ら魔法少女となる。  少女のもとに集うのは、一騎当千、個性的な能力を持つ仲間たち。  そんな仲間と共に戦う少女の手にした力は、仲間――あらゆる人、生物、物体――の『潜在能力強化』。  仲間全員の力を爆発的に底上げするその魔法は、集団を率いてこそ真価を発揮する。  少女は、『ラスボス』にもたとえられて個人として無双。チームとして最強。  チート級の魔法少女たちは自由を駆け抜け、そしてやがて、『ならず者』を自認するにいたる。  魔法少女としての日常に幸せを感じる時、少女は少しだけ、少しだけ、なんだか星石にしてやられたと思うこともある。  そんな魔法少女たちに、あなたもしてやられてみませんか?  魔法少女たちが希い【ねがい】を叶える物語【ストーリー】  ご覧いただきありがとうございます。  【第二部 異世界編】連載開始しました。毎週一話ずつ、木曜日19時頃に公開させていただきたいと思います。  よろしくお願いいたします。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の事件のトラウマを克服できないまま、半ば不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

転生したら人気アイドルグループの美人マネージャーになって百合百合しい展開に悩まされている件

きんちゃん
ファンタジー
アイドル、それも国民的人気グループともなれば、毎日楽しく活動して、周りからもチヤホヤされて無敵の日々でしょ?ルックスだけで勝ち組の彼女たちに悩みなんてあるわけがない! ……そんな風に思っていた時期が俺にもありました。いざ内部に入ってみると、結構……いや、かなり大変です。 松島寛太。地味ながらも人のために一生懸命働いてきた彼だけれど、結局それが報われることはなかった。 しかし哀れに思った天使が生まれ変わることを認めてくれるかもしれない?認められた条件は「大人気のアイドルグループのために人生を捧げる」ということだった。……自分自身いまいちピンと来ていない条件だったが……いや、捧げるってのはどういう意味なの?

処理中です...