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第一章 百合に挟まれて死ぬ王子に転生したおっさん

第4話 嫌われ者の百合おじさん、主人公カップルから感謝される

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 野盗はオレを止めるグループと、ティナたちを追うグループで、二手に別れた。

 握手だぜ、そいつは。オレと戦うなら、全力でかからないと。

氷河円舞脚ひょうがえんぶきゃく】!」

 氷魔法と風魔法で足を強化し、野盗に回し蹴りを浴びせる。足先をさらに氷でリーチを伸ばしたため、オレを取り囲む全員が巻き添えになった。

 蹴りを浴びた野盗共が、目を回して気絶する。
 
 あーあ。だから言ったのに。
 
「さてさて、お二人さんは、と」

 二人は、メイドのメンドークサに追いかけさせている。

 メンドークサの魔力を追跡すれば、ティナとトマを見つけるのは早い。
 
 あれ、まだ逃げきれてないじゃん。あの二人。
 どうもティナが鈍足すぎて、すぐに追いつかれてしまったらしい。

 ティナは、トマ王子だけでも逃げろと手を放そうとしている。
 しかしトマ王子に、そんなことができるわけがない。ティナをかばいつつ、野盗を撃退しようとしている。

 まったく。トマが活躍しないとしょうがないじゃん。

 オレは民家の壁に、足の裏を貼り付ける。雷撃属性魔法を足に付与して、跳躍した。
 
「うらあああ! 電光超加速!」

 さっきの超加速より、さらに足を早める。

氷河渡りひょうがわたり!」

 足元に氷魔法を張り巡らせ、アイススケートのように滑りながら移動した。

「ほあちょ!」

 ティナたちを襲っていた野盗に、飛び蹴りをぶちかます。

 野盗共には、指先から「氷の矢」を撃って追っ払った。こんな魔物ですらない相手には、目や急所などをつっついてやればいい。魔法の威力も、最低限でOKである。大げさな大魔法なんて食らわせなくてもいい。

「はいい!」

 野盗のリーダー格の土手っ腹に、ボディブローを叩き込んだ。

「ぐへえ!」

 野盗がくの字になって、悶絶する。

「ひいいいい!」
 
 劣勢に立たされたからか、野盗共が一目散に逃げていった。

 これで安心か。
 
「ありがとう、ユリウス・ランプレヒト」

 トマ王子がわざわざ駆け寄って、オレに頭を下げてきた。

「はあ? オレは通りすがりの冒険者だ」

「とぼけなくていい。あれだけ精度の高いマギアーツ。よほどの修練を積んだものでなければ、あれだけの技は出せないさ」

 オレのそばまで来て、トマ王子がオレのマスクを直してくれる。
 
 んだよ、バレバレだったんじゃーん。

「それに、キミのメイドさんに安全な場所を道案内してもらった。なにも話していないのに、どうしてボクたちが逃げているとわかったのか。偶然にしては、できすぎていないかい?」

 ああもう、詰めが甘すぎじゃないですかー、オレサマー。
 せっかく人知れず、誰にも感謝されないルートで行きたかったのによー。
 
 気を取り直して、オレはガスマスクを脱いだ。正体がバレた以上、マスクなんて意味がない。咳払いをする。
 
「礼なら、メイドのメンドークサに言え。あそこのクレープでも食わせたら、ご機嫌になるぞ」

 オレは、路地裏を抜けた先にある屋台を指さした。

「チョコミントを所望します」

 お前も、ノリでコメントせんでええねん。

「あはは。今日のキミには、驚かされてばかりだ。いつもと態度がまるで違うから」

 まあ、別人だからな。

 ユリウスの本来の人格は、キレイさっぱり地獄に落ちたらしいし。アイツがこのゲームに干渉してくることは、なかろう。

 だが、オレがこのゲームで目立っても仕方がない。

 トマ王子から、チョコミント味のクレープをごちそうになる。

 王子は親しげに語りかけてくるが、ティナはまだ萎縮気味だ。
 ムリもない。オレという婚約者がいながら、こっそり他の男とデートしていたんだからな。居心地も悪かろう。

「構わん。デートは続けてくれ」

「なにを言うんです? わたしはあなたの婚約者で、こんな不義理は許されません」

「オレは許すぞ」
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