百合に挟まれて死ぬ悪役王子に転生した百合男子、百合ップルを見守ります!

椎名 富比路

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第一章 百合に挟まれて死ぬ王子に転生したおっさん

第3話 街で襲撃される、百合好きおじさん

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「楽しいですね、ディートマル王子」

「ティナ、今はトマと呼んでくれ」
 
 ティナとトマ王子が、街へ繰り出す。

 二人はオレに黙って、逢瀬を重ねているのだ。

 もちろん、二人は変装をしている。
 ティナは、町娘風に着飾って。
 トマ王子も、労働者の格好をしている。

 当然ながら、オレも服装を変えて二人を尾行していた。

「ユリウス様、あまり壁の隙間から首を出しすぎると、バレますよ」


 後をつけてきたメンドークサに、声をかけられる。

「しっ。黙って」

 オレはメンドークサに指示を出して、黙らせた。
 

 ティナとトマが、オープンカフェで語らう。


 
 オレが二人の後を追っているのは、あの二人が命を狙われているから。主にオレの私設部隊に! というか、ランプレヒトが派遣した殺し屋に、だ!
 

 ランプレヒト王国とクーガー王国は、キルヒヘアを巡って争っている。
 歴史上、もっとも強い聖女を多く排出しているからだ。
 
 ティナさえ手に入れば、ランプレヒトは勢力を拡大できる。
 ましてティナは、歴代でも最強クラスの聖女だった。

 しかし、クーガー国がそれを妨害している。キルヒヘアを排除し、トマ王子ことマーゴット・クーガーをくっつけたがっているのだ。

 クーガー国も、勇者の血筋として優秀な一族である。
 だが、クーガー家の子息は流行り病で死んだ。
 なので、双子の妹であるマーゴットが、親の期待を一身に背負っている。
 そういうのを、毒親と言うんだけどなあ。

 
 このクッソメンドくさい、三角関係よ!

「ああもう! どうして、どいつもこいつも、仲良くできないのか!」

「王子、あなたこそ、黙るべきです」

「おっと。そうだった」

 オレは口をふさぐ。

 いかんいかん。オープンカフェにいた二人が、周囲を警戒し始めたではないか。

 焦るんじゃない。オレは、百合を愛でたいだけなんだ。

 見よ、二人が歩いているだけで、街が華やいでいる。歩いた先に、花が咲きそうだ。
 これだよ。これぞ、百合の完成型だ。絶景かな絶景かな。

 だが、路地裏に入った途端、その光景は色褪せてしまった。不届き者たちが、百合カップルの行く手を阻んだから。
 
「む? ティナ姫、下がって」

 トマ王子が、ティナをかばう。

 来たか。

 二〇数名ほどの野盗共が、二人の行く手を遮った。
 
 どこから雇った野盗かは、はたから見てもわからない。だが大方、ランプレヒトの差し金だろう。第一、原作ゲームでコイツらを雇うのって、オレことユリウス王子だし。

 さて、お仕事お仕事。
 
 オレはガスマスク型の仮面をつけて、赤茶色のマントを羽織る。

「そこまでにしてもらおうか」
 
 囲まれた二人の真上から、野盗共に声をかけた。

「とうっ」

 オレは、百合ップルの間に入らぬよう、絶妙な間合いで着地する。

「二人とも、逃げるんだ。オレが、道を開けてやる」

「邪魔するんじゃねえよ。このヤロウ!」

 野盗の一人が、ナイフでオレを突き刺しにかかった。

「ほあちょ!」

 膝蹴りで敵の手首を破壊し、続いての前蹴りで野盗のアゴを砕く。

「今だぞ。行け」

 戸惑うティナ。だが、トマ王子に手を引かれて逃げていく。

 それでいい。うまく逃げてくれよ!

「さて、お前たちの相手はオレだ!」

【秘技:超・加速】で、敵の懐に飛び込む。みぞおちに肘打ち。

 敵が一斉に、ナイフを投げてきた。

「遅い。【氷裂ひょうれつ散華サンゲ】」

 オレはナイフに、氷属性を付与した足で回し蹴りを食らわせる。

 蹴り返したナイフが、野盗共に反射して命中した。

「どうだよ、下郎。これが、【マギアーツ】だ」

 オレは魔法のセンスこそ皆無で、ティナやトマにはまったく勝ち目がない。他の生徒にさえ負ける、落ちこぼれだ。
 
 しかし【魔導格闘術マギアーツ】に関しては、誰にも負けない自負がある。

【マギアーツ】とは、西洋魔術と東洋武術とをかけ合わせた、近接格闘術だ。【ガン=カタ】や【ガンフー】の魔法版である。

 ランプレヒトは、聖王国キルヒヘア、勇者を排出する軍事国家クーガーと肩を並べるため、マギアーツを開発した国家なのだ。
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