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第七章 魔王城の大浴場を改装せよ!

謎の風呂ダンジョン内部

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 大穴の入り口は、ちょっとしたトンネルくらい大きく、深い。温泉独特の匂いが漂うけれど、それらしい湯の気配は感じ取れなかった。あと、生暖かい。何より……。

「すごく視線を感じますね、カズユキさん?」
「そうだね。ずっと誰かに見られている気がする」

 常に監視されているかのような、錯覚に陥る。壁に目があるみたいに。

「だけどよ、モンスターらしき気配はないぜ」
「そうね。いくら進んでも生命反応はないわ」

 オケアノスさんとシャンパさんが、前方を確認しながら語り合う。
 妙だ。このダンジョンができた目的がわからない。

「シズクちゃん、プラカードをモニターモードにしてもらえるかな?」
「はーい。よいしょっと」

 浮遊型プラカードを取り出して、シズクちゃんは看板部分を上空へ飛ばす。三面鏡になっている画面に、ユーゲンさんの顔が映る。

「う、カ、カズユキさん」

 ユーゲンさんの顔が鏡から現れ、シズクちゃんが後ずさった。

「どうしたの?」
「もし私が何も知らずにこの鏡を使っていたら、導師ユーゲンは私のプライベートをなめ回すように見ると言うことになるのでは?」
「ああ、そういうことかー。ないない」

 ユーゲンさんからは、この鏡を使えない。あくまでも「ユーゲンさんと連絡が取れる」のみだ。覗きなんて。


『ワシのような大魔道士が、覗きなんぞするかいっ。よこしまな心根があるのは、修行が足らん証拠じゃわい』

「まったくです。人間族の導師さま」

 大魔道士ユーゲンさんと、ニュウゼンさんがうなずき合う。 

『第一ワシは、人の嫁になんぞ興味ないわい』
「まったくですね。導師さま」

 この二人も、ボクとシズクちゃんを誤解しているみたいだ。

「ユーゲンさんは、何かわかりますか?」
『ううむ。どうやら、穴を作ろうとしてトラブルが発生したきらいがあるわい』

 大魔道士ユーゲンさんによると、最初は小さい穴を作ろうとして、なんらかの歪みが生じたでのはないかという。結果、このようなダンジョンが形成されてしまったと。

『原因はわからぬが、とにかく怪しい魔力を感じるのう』
「見られている気配がするのは?」
『わからぬ。おそらく戦力の把握ではないかのう? もしくは暗殺か』

 暗殺と聞いて、ラジューナちゃんやドルパさんに緊張が走った。
 それにしても、お風呂場から襲撃を?

「効率が悪すぎませんか? 相手の戦闘力を確認するなら、武装した状態を調べるべきでしょう」

 無防備な相手を狙うなら、寝室やトイレに忍び込むはず。

『そうなんじゃ。風呂は覗かれる可能性があるから、特に女性などは気にするハズじゃろ?』

 ボクと、ユーゲンさんの意見が一致した。

『ただ一つ言えるのは、このダンジョンを作ったヤツは相当に力の強い魔族じゃわい。魔王クラスかものう』

 ユーゲンさんの言葉を受けて、魔王ラジューナちゃんが「なぬ!」とのけぞる。
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