上 下
12 / 49
第三章 ドラゴンサウナ

ヒャッハー魔族にサウナを実体験してもらおう

しおりを挟む
「敵の気配なんて、わかるんですね」
「我と上のドラゴンは、意識も共有しておるからな」

 向こうで寝ているドラゴンに見えている景色や状況は、リムさんにも把握できるという。

 外に出ると、黒い影がドラゴンと睨み合っていた。

「ヒャッハーッ!」

 財宝を狙う輩が、大空から舞い降りる。
 思っていた以上に大きいな。
 二メートル以上ある巨漢なら、ボクも冒険者ギルドで見慣れたけれど。

「ここがレッドドラゴンのアジトか。しけてやがんな。オレ様がまとめて財宝を独り占めしてやんよ!」

 羽の生えたマッチョの大男が、ポーズを決める。
 レッドドラゴン相手でも、物怖じしない。
 突き出た下の牙が、得意げに光った。

「レッサーデーモンだな。軽くひねり潰してくれよう」

 あれで、下級なのか。

「人間体で、戦うんですか?」

「うむ。ハンデだ」
 リムさんの敵ではないらしい。

「へん! 後悔しても知らんぜ」
 手加減してやると言われて、デーモンが腹を立てる。

「どちらのことを言うておる?」

 そのひと言が、戦闘開始の合図となった。

 レッサーデーモンが、手に暗黒物質を作り出す。みるみる膨れあがり、人一人なら軽く黒焦げになりそうな巨大火球へと膨張する。

「げはは! 炭になりやがれ!」
 野球のアンダースローの如く、魔族は黒い火炎をリムさんに投げつけた。

 秒で、シッポの一撃により打ち返される。

「あぎゃああ!」
 哀れデーモンは、自分の技で自滅した。

「さて、お家に帰るんだな。それとも、地獄へ送り返してご覧に入れようか?」

「ひいいい!」
 さっきまで威勢のよかったデーモンが、手の平を返して怯えきっている。 

「いいえ。ここはボクに任せていただけませんか?」

「ふむ。まあ無駄な殺生は我も好まん」
 ボクがお願いすると、リムさんがこぶしを引っ込めた。

 デーモンが胸をなで下ろす。

「ケガをしていますし、ここはひとつ、回復の泉の出番と言うことで。あなたもそれでいいですね?」

 ボクが尋ねると、デーモンは従った。

 相手もただのイキリみたいだ。血を見に来たわけではないだろう。

「一緒に一風呂どうですか?」
「風呂だと?」
「あなたには、ウチが開発したサウナのモニターになっていただきたい」

 まず、デーモンには回復の泉を飲ませた。
 回復効果を持たせるように、前もって女神に安置認定してもらってある。

「おお、傷がスッキリした」
「驚くのは、まだ早いですよ。サウナに入っていってください」

 ここからが本番だ。

「はい撮影スタート」
『どうも、今回はなんと、ドラゴンのねぐらをサウナにしちゃおうという企画です。早速入ってみましょう!』

「うお、あっちい」と、レッサーデーモンがつぶやく。

 放置されていた分、蒸気が十分に行き渡っている。

「あー、なんか気持ちいいですね」
 シズクちゃんが、ヘナヘナになってイスに腰掛けた。

「小窓だけ開けましょう。酸欠になりそうなので」

 蒸気が満ちたことで、サウナが完成する。

「どう、シズクちゃん?」
「なんだか、頭がボーッとしてきました。でも、イヤな気分じゃないですね」

 肌をさすりながら、シズクちゃんはサウナを堪能していた。
 わずかに肌が汗ばんできている。

 ボクも、身体がジットリとしてきた。
 服が重くなってきたので脱ぐ。

「なんのためらいもなく脱いだのう?」
「ドラゴンサウナなんて、秘湯マニア垂涎ですから。ハダカで感じないと失礼かなと」

 リムさんだって、服はウロコに過ぎない。
 つまりは、生まれたままの姿なのだ。

「あっ、そうだ。羽根をパタパタさせてみませんか?」

 大きなウチワで仰ぐことで、サウナの効果は増す。

「やってみようぞ。そこの魔族も手伝え」

「ええ~」と、最初は魔族も拒絶していた。
 しかし、ドラゴンに圧倒されて渋々の様子で手伝う。

「うわー。これはすごい!」
「最高だね」

 シズクちゃんと共に、熱風を全身に感じ取る。
 熱風を送り込む従業員をサウナ神と呼ぶけど、サウナ魔族だね。 

「でも、ちょっとガマンできないかも」
「そうだね。一旦出ようか」

 ボクたちは、サウナ室から外に出る。

「わう、夜風が気持ちいい」
 熱々の室内から出た開放感から、シズクちゃんが背伸びをした。

「水の中に入って」

「え? うわ、冷たい!」
 流水に足を付けると、シズクちゃんが飛び上がる。

「そーっとだよ。そーっと」
 冷えに耐えながら、足を水につけた。
 そこからゆっくりと、腰から肩まで。

「よくそんな大胆な行為ができますね」

「我は問題ないぞ」
 冷水が恋しかったのか、リムさんはすでに頭まで潜っていた。

「はーあ。なんだか、サウナとやらにいたときより頭がフワフワしておる」
「それが、整うって状態らしいですね」

 サウナ好きの友人が言うには、この状態が一番気持ちいいらしい。

 身体を冷ました後、ボクはもう一度サウナに入っては水に浸かる。

『えっと、秘湯ライターのカズユキさん、新陳代謝がおかしくなりませんか?』
「オンオフを繰り返すことによって、身体がむしろ整っていくんです」

 血管のポンプ作用が、活性化されるからだそうだ。

「見事なり、人の子よ。このような施設を建てて。これなら、我らドラゴンでも管理できようぞ」

「喜んでいただけたなら、なによりです。ありがとうございます」

「そこでどうじゃろう」

「なんでしょう?」

 身体ごとこちらに傾かせて、リムさんは告げる。

「ここに、根を張らぬか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...