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第六章 最後の闘いです!

第86話 和解しましょう!

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「幸い、母はアタシに魔力をすべてあたしにくれたわ。おかげでアタシは、強い魔族に産まれたわ。嫌がらせをしてこようとしたヤツらも追い払えた。でも、生まれはどうしようもなかった。悪いのはアタシじゃない、世界の方よ!」

 憎悪をまき散らし、夫人はソランジュと格闘する。

 しかし、そこはソランジュだ。徐々に押してきている。
 魔法をまともに扱えない夫人など、百戦錬磨のソランジュには敵わない。

「見て分からないのか、夫人?」

「何がよ? こんなの、ただの本でしょ? 本なんて、読み終わったらゴミよ。それがどうしたの?」

 確かに、書かれている知識を覚えてしまえば、本という媒体は必要ない。

 だが、ソランジュにヒントをもらって、リッコは納得がいった。どうして、化石が本を手にしようとしている状態で眠っているのかを。 

「これらは、賢者の石だ」


 賢者の石とは、本そのものが聖遺物、アーティファクトと化した存在だ。


「どうやら、太古の王ベルゼビュートは、賢者の石を消滅させようとしたらしいな。が、返り討ちに遭った。だが、自身を手中に収めようとした魔王ベルゼビュートすら、賢者の石は浄化している。オパール化が、その証拠だ。それだけの書物なのだよ、これは」


 ソランジュの説得が最も効いたのか、夫人は冷静な表情になる。


「なんてこと……自分を手に掛けようとした存在すら癒やすなんて、可能なの?」

「あるいは、賢者の石自体が、ベルゼビュートを虹色の化石にしてしまったのかもな」

 ソランジュは、中央にある箱に手をかけた。
 宝箱にしては細長い。

「それ、どうやっても開かねえんだ! 鍵穴もねえし! 持ち運べねえくらい重いんだ!」

 盗賊の一人が箱を指す。

 箱の蓋をソランジュが撫でると、箱はひとりでに開く。

 棺の中には、一人の武人が、腐敗しいていない状態で眠っていた。

「ひょっとして、この箱は棺ですか?」
 リッコの問いかけに、ソランジュはうなずく。

「この人物こそ、かつてクテイを魔王から守った、コスタ将軍だ」

  友を懐かしむような眼差しで、ソランジュは棺に眠る人物を見つめている。

「どうして棺があるの? 大昔に谷底へ沈んだんでしょ? 誰が管理したの?」
 男爵夫人は、納得できない様子だ。

「それは分からない。けれど、そんなことはどうでもいい。魔法のオパールがそう作り上げたというなら、私は信じるよ」

 ソランジュは、コスタ将軍の顔を覗き込む。

「見ろリッコ、コジモそっくりだ。コジモ姫は、コスタ将軍の子孫だったんだよな? ルーツを探して、自分で辿り着いたんだ」

 コスタ将軍は、故郷に子を成していた。
 その子孫がコジモだという。

「どうりで、コジモがやたら強かったはずだ。コスタ将軍とよく似ているだろ?」

 言われてみると、確かに将軍の顔立ちは、コジモそっくりだ。

「賢者の石を守った将軍の亡きがらを、賢者の石の方が守っていたんだ。これは奇跡だよ」

 穏やかな表情で、ソランジュはコスタ将軍を見つめている。

「バカバカしいくらいに奇跡ね。アタシの悩みなんて吹っ飛ぶくらいに」
 男爵夫人も、争う気をなくしたらしい。
  







「だが、その奇跡も終わる。そして、魔族の新たな歴史が刻まれるのだ」



 平穏な状況を切り裂いたのは、死んだはずのグシオン将軍だった。
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