フリーター、魔王候補の集まる女子寮の大家になる

椎名 富比路

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第六章 フリーター、地球人魔王と文化祭を満喫する

第46話 感謝

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「カズヤ、見えるか?」

「おう」

 ドナが、窓に映る人影を指差した。

 一人の老人が、スパウルブスの窓からこちらを見ている。

「何事だ!? おお、我が孫のシノブか」

 マイクに向かって、老人が怒鳴った。シノブの顔を見て、すぐに表情を和らげる。あれが、シノブの祖父か。どことなく、面影はあるが。

「おじいさま」

「それは、セミマルだな? 立派に作ったものだ」

 老博士からの問いかけに、窓越しにシノブはうなずいた。

 この要塞は、セミマルを改造したものだったとは。

「我々を、迎撃しに来たのか?」

 シノブは、答えない。

「ムリもない。両親の反対を振り切って、お前を捨てるように命じたのは私だ。殺されても仕方あるまい」

 たしかシノブは、その天才的な頭脳を恐れられて、スパウルブスから追い出されたんだっけ。

「だが! 命じたのは私だけ! よって罰せられるのも、私だけにしていただきたい! 他のクルーたちは関係ない。見逃してもらえないだろうか? 頼む」

 うなだれるように、老博士は頭を下げた。

「おじいさま。あなたは、なにか勘違いをしている」

「ん?」

「わたしは、あなたたちを救いに来た」

「なんだと!?」

 シノブは、老博士の後ろを指差す。


 そこには、山のような宇宙艦隊が。
 だが艦隊は、オレたちの要塞を見て一斉に引き返す。

「あれは、宇宙海賊! シノブ。お前はあれが来るとわかって、わざわざ我々の元へ?」

「それもある。魔王ドナ・ドゥークーやヴィル女の魔王を連れてくれば、勝ち目がないとわかって去ってくれる」

 オレたちを急かしたのは、それが目的だったのか。

「戦わなくていいのか?」

「構わんさ。我々の魔力量を計測しただけで、奴らは去っていった。おおかた、強引な交渉にでもしに来た小物共さ」

 ドロリィスからの質問に、ドナが笑って返した。

「でも、本当の目的は別にある」

「なんだ?」

「あなたに感謝を言いに来た」

 意外な回答に、老博士も戸惑いの色を隠せない。

「おじいさま、いや博士。あたしは、シノブは仲間を得た。おかげで、このような立派な要塞ダンジョンを完成させることができた。お礼を言いたい」

「いや。礼など不要。その科学力は、ヴィルヘルミナ女学園で培ってきた技術。それ以前に、お前は私の手を、とうに離れていたよ」

 シノブの力は、当時の科学では解明できかった。未だに、解読はできないだろう。

 理解できない力は、いずれ科学と魔法との軋轢を生む。

 だからこそ、祖父はシノブを捨てたのだろう。シノブを、よりよい環境へ導くために。

「言い訳に過ぎん」

「それでも、あたしは、あなたの孫です。ありがとう」

 老博士は、なんとも言えない顔になって、うなずいた。

「あたしはヴィル女で、大切なことを知った。居場所は、作るものだって」

 シルヴィアが、シノブの肩に手を置く。彼女は親に反発して、自分で屋台を引くという道を選んだ。

「両親に会っていくか? 今、下に見える惑星で作業中だ」

 老人が聞くと、シノブは首をふる。

「ここでいい。未練を断ち切れなくなるから。それに誰も、ここへ来た原理を理解できない」

「ああ。ワタシもだ」

 そんな会話だけで、二人は一緒にはいられないのだなと、オレは感じた。別に天才でなくても、わかる。

「では、さようなら」

「うむ。達者で」

 シノブと老博士は、短いあいさつをかわす。

 直後、オレたちは再び地球へ戻ってきた。

「いいのか?」

「とにかく、こちらに攻撃の意志はないと伝えたかっただけだから」

 ダンジョン完成と、祖父への報告を一瞬のうちにやってのけるとは。とんでもないな、シノブは。

「両親に会わなくて、本当によかったのか?」

「いい」

 シノブは、短く告げる。

「あたしの両親は、彼女を普通の女の子として育てようと思ったことさえあった。それは、あたしのことを思ってのことで」

 しかし、シノブの魔力を腐らせることが、果たして彼女のためになるのか。ずっと、老博士は思い悩んでいたのだ。

「あたしには、みんながいる。カズヤたちが。ヴィル女のみんなも」
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