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第六章 フリーター、地球人魔王と文化祭を満喫する

第38話 シノブとデート

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「お前はいいのかよ、シノブ?」

「男性と一緒に文化祭を回るデートイベントなんて、めったにない。これは、挑戦する価値あり」

 ノリノリだな。シノブが楽しそうでよかった。

「オレでいいのかよ? オレって、たらしなんだろ?」

 どうもスゴロクの一件以来、オレはたらし認定されているような。自覚はないが。

「カズヤがちょうどいい。他の人だと、物足りない」

 なんでも、シノブの魔王としての素質は、他の魔王にも知れ渡っているらしい。そのため、声をかけられることはあっても、積極的にナンパはしてこないという。

 魔王って、かなりの根性なしなのか?

「あたしというより、ドナを恐れている」

 ああ、ドナの機嫌を損なえば、家だってお取り潰しとかになりそうだもんな。

「シノブ、回りたいところはあるか?」

 ひとまず、シノブが楽しめそうな場所へ。

「シルヴィアパイセンの場所」

「おう」

 あの、人だかりができているところだな。

「デートだろ? いきなり知り合いの店でいいのか?」

「見せつけたい」

 うわああ……。

「よお、シルヴィア」

「あー。いいなあ。シノブちゃん。カズヤさん、アーシとも一緒に回ってな」

「お、おう」

「約束じゃ。破ったら、承知せんけん」

 シルヴィアは今日、文化祭用の新作を作ってきたらしい。

 できあがったのは、お惣菜クレープである。しかも、中身はこってりした八宝菜だ。

「刀削麺からヒントを得た、平麺クレープじゃ」

 普通のかた焼きそばだと、麺の隙間から具材がこぼれてしまう。生地は、パリッとしている。カリカリにした餡が熱々の生地に溶けていくことで、モチっとした食感が楽しめるのだ。すぐに食べ切れるように、サイズを小さめにしているのもアイデアだろう。

「餡がモチッ、パリッとしてるなんて、初めての食感だな? 考えつくまで、随分苦労したんじゃないか?」

「おいしい。やっぱりパイセンは努力家」

 オレたちは、この料理ができあがるまでの過程を、食べながら想像した。その上で、感想を述べる。

 寮生のみんなは、決してシルヴィアを天才だとおだてない。シルヴィアが毎日毎日料理の腕を磨いているのを、ずっと見てきたからだ。シルヴィアの料理は、並々ならぬ鍛錬の結晶なのだ。

「ありがとうな。ふたりとも。ささ、他のところも回ってやらんと」

「そうだな。ごちそうさま、シルヴィア」

 シノブもペコリと頭を下げて、シルヴィアの店を後にする。

 あとは投げ輪やストラックアウトなど、アウトドア系のアトラクションを楽しむ。

「あの、カズヤ。お願いがある」

 ぬいぐるみ釣りで手に入れた景品を、シノブは抱きかかえている。

「なんだ?」

 シノブからの頼みを、オレは聞き入れた。

「わかった。じゃあ、行くか」



 オレたちは、フィーラのいるクラスに戻る。

「フィーラ、交代の時間」と、シノブはフィーラを仕事からムリヤリ開放した。

「おい、フィーラ。今度は、お前とデートするぞ」
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