フリーター、魔王候補の集まる女子寮の大家になる

椎名 富比路

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第四章 フリーター、JKのケンカを仲裁する ~図面武闘会 激闘編~

第26話 ダンジョンの監督業務

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「なんじゃ、騒々しい。ってユーニャちゃん、やっぱりここにおったんか?」

 シルヴィアとアンが、霧谷館キリタニカンに戻ってきた。待ち合わせ場所にユーニャさんがいなかったため、引き換えしたという。

「よくわかったな?」

「行動パターンを読んで、たしかカレーの容器を預けっぱなしじゃったわって思い出したんじゃ」

 可能性を感じて、キッチンを覗きに来たそうだ。ドンピシャで、ユーニャさんの行動を当てるとは。

「やはりこの、カズヤさんとおっしゃる方はハレンチだわ、シルヴィアさん! アタシのフィーラちゃんとハグを!」

「誤解だっての!」

 オレは、事情を説明する。

「フィーラちゃんは魔王なんじゃけど、アンデッド関連の話はあんまり得意じゃないんじゃ」

「夜、お一人でおやすみもできないらしく」

 暗い場所自体が、あまり得意ではないらしい。
 戦闘時は、あんなに強いのに。

「事情はわかったわ。だけど、いくらなんでも男性とそんな」

 ユーニャさんは、頬を染めながら唇を噛みしめる。

「生徒会長、わたしとカズヤさんはなんでもなくてですね」

「ちょっとうれしそうじゃない?」

「い、いえ。見間違いですっ」

 なんでちゃんと、フィーラは反論してくれないのか。どもってんじゃん。

 しばらく思考した後、ユーニャちゃんが口を開く。

「決めました。次回の図面武闘会ですが、追加ルールを要求します! ドロリィスさんが負けたら、あなたに寮を退室願います。よろしくて?」

 答えは聞いていない、って勢いで、ユーニャさんが提案してきた。

「勝手なこと、いうて!」

「以前はフィーラちゃんを連れ戻すと言ったけど、フィーラちゃんの意思を尊重したわ」

 今回は、オレが出ていくだけでいいとのこと。フィーラは寮に住んでも構わない。

「そんなの魔王ドナさんが許さんけん」

「いや。大丈夫だ」

 魔王ドナが、シルヴィアの後ろからヌッと出てくる。

「ドナ、話を聞いていたのか」

「うむ。これくらいのピンチを切り抜けられないようでは、魔王とは呼べぬ。また、魔王をさらに従える大家としての資質も問われるだろうな」

「正直なところ、オレは寮を手放してもいいんだがな」

 実際、シルヴィアの物件やらアンのダンジョンの収益で、オレはそれなりに潤っていた。女子寮に固執する必要はない。

「ダメだ。お前には、この霧谷館を管理する義務がある」

「あるのか、そんなの?」

「うむ。霧谷館の女性陣には、お前が必要だ」

 なんだろうな。必要な要素って。

「ドナでは、補えないものがあると?」

「そうだ」

 しかしユーニャさんは、そんな説明では納得しない。

「たとえドナ・ドゥークーの秘蔵っ子といえど、この寮からは出て言ってもらいます!」

「ああ。そうしろ。ただし、そちらも負けたら相当のリスクを負うことになるぞ」

「構いません。フィーラちゃんが殿方の毒牙にかかるくらいなら」

 ユーニャちゃんは今度こそ、シルヴィアたちと寮を出る。

「オレたちも、ついていっていいか?」

 魔王の業務とやらを、オレも把握しておきたい。ドナが面倒を見るようだが、

「わかりました。でも、フィーラちゃんからは離れてちょうだいっ」

 同行は許してもらえたが、ユーニャさんはフィーラの手を掴んで放さない。

 シルヴィアのダンジョンに、オレたちも入る。
 関係者用の抜け道を進行し、すぐそばにいる冒険者たちを観察した。
 作物栽培や畜産をメインとした迷いの森と、遺跡型のダンジョンを所有している。

「冒険者側の攻略は、スムーズなようね」

 地球人の冒険者は、順調にダンジョン内を進んでいた。魔物たちを倒し、すぐに最奥部へ到達する。

「あれが、シルヴィアの分身体」

 シルヴィアの魔王バージョンは、ブヒートくんに乗った半裸の騎士だ。

「えらい露出が多いんだな?」

「豊穣神っちゅうんは、あんなもんじゃないんかのう?」

 どうもシルヴィアは、農耕の神をイメージして魔王を作成したようだ。

『なんじゃあ。お主らは? この領域に踏み込んだもんは、容赦せんけんのぉ』

 シルヴィア魔王体が、ムチを振り回す。

「あれはなんだ? 広島弁くずれの魔王なんて、初めて見たぞ」

「違うわよ。あれは四国地方の方言だわ」

 カップルらしき二人組の前衛が、シルヴィアを値踏みするように観察する。あまり、脅威と感じていないようだ。テンガロンハットと、ビキニにホットパンツ姿だしなあ。ヘタをすると、カウガールに見えなくもない。

「どっちでもいい。さっさと片付けて、お宝をゲットだ!」

 後ろにいた魔法使いが、地面から火柱を発生させた。

 シルヴィア魔王体が、炎に巻き込まれる。

「やばい!」

「大丈夫よ」

 オレは危険を感じたが、ユーニャさんは動じていない。

『ほほう。地球人にしてはやりおるのう? じゃが、傷ひとつつかんわい』

「無傷だと!? 俺様の魔法をくらって、ノーダメとか!」

 魔法使いが、驚きの顔を浮かべる。

『こんどはこっちじゃ』

 魔王シルヴィアが、ブヒートくんを猛突進させた。

 前衛が盾を構え、防ごうとする。

 だが、ブヒートくんはあっさり二人を跳ね飛ばす。

 そのまま、シルヴィア魔王体は魔法使いをムチで縛り付けた。

『アンタも、帰らんかい』

 魔王シルヴィアは、魔法使いをコマの要領で回す。落ちてくる盾使いたちと、衝突させた。
 冒険者たちが、強制的に退出させられる。

 アンが、しきりに戦闘状況をメモしていた。

「あっさり、倒しちまった」

「見たでしょ? あれでシルヴィアさんは、本気ではないの。分身体で、あれだけ強いのよ。あの冒険者たちだって、決して弱いわけじゃないわ」

 ユーニャさんの手が、震えている。
 続いて、遺跡型のダンジョンに。

「二つもダンジョンを買うなんて余裕が――すりゃああ!」

 入り口に入った途端、ユーニャさんが何者かの影を掴む。そのまま、片手だけで投げ飛ばした。

「ぐえ!」

 影は顔面から、地面へ転落する。ゴブリンだ。手に、スマホを握りしめている。

 その影の背中を、ユーニャさんはヒザで抑え込んだ。

「これは、没収します。あとシルヴィアさん、ギルドにご連絡を」

「ほ、ほうじゃった」

 シルヴィアが、あたふたとスマホでどこかへ連絡を入れる。

「なにがあったんだ?」
「盗撮です」

 オレがぼーっとしていると、フィーラがそう教えてくれた。

 できたてのダンジョンには、よく盗撮犯が多数出没するという。女性の衣服の乱れを狙うのはもちろん、敵情視察やアイテム情報の盗用など、目的は多岐にわたる。

 この犯人は、おそらくセンシティブ関連の盗撮まだろうとのことだ。

 しばらくすると、シノブが誰かを数名連れてこちらにやってくる。

「こっちです。この者は、盗撮の現行犯。ただちにスマホの回収と、事情聴取をお願いします」

「はい!」

 軍服を着た数名の女性が、ユーニャさんが抑え込んでいる男性を連行していった。あれが勇者か。

「カズヤさん、あなたは『アスリート盗撮』ってのを、ご存知かしら?」

「あるぜ……なるほど。つまりそういうことか」

「そうよ」

 バトルをしていると、自然と装備品が乱れてしまう。だが、それはアスリートの比ではない。モンスターに腕や足をひっかかれたり、胸当てやスカートを食いちぎられたり。そんなスケベシチュエーションを狙っている輩は、人間だけにとどまらないのだ。

「アスリート盗撮と同じように、冒険者盗撮はお金になるの。カズヤさん、あなたもダンジョンを経営するなら、それは覚えておいてちょうだい」

「わかった。ありがとうユーニャさん」

「べ、別にあんたのためじゃないから! フィーラちゃんが危ないから言っているの!」

 髪をかきあげながら、ユーニャさんは勇者たちの後へ続いた。 

「あんな、ドナさん。ユーニャのペナルティの件なんじゃが……」

 シルヴィアが、ドナに耳打ちをする。

「わかった。シルヴィアがいいなら、そう手配しようじゃないか」

 ドナは、シルヴィアからの提案を承諾したようだ。

 帰宅後、追加ルールのことを話したら、ドロリィスはうなずく。

「心配するな。絶対勝ってみせる」

 実に頼もしいな。ドロリィスは。
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