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第三章 フリーター、美少女魔王たちと寮の候補地を視察をする
第17話 エリート・アンネローゼの苦悩
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アンネローゼ・ヴィルヌーヴ・ファイーファンの一族はエリートで、一流の魔王を多数排出しているという。
「だが、アン自身の成績は悪いんだ。アンネローゼはそれを、コンプレックスに感じている」
「そうなのか? 優等生だって聞いているぜ?」
ヴィル女の校長であるベイルさんは、そう言っていた。
「座学と、授業態度はな。でも、実戦ではあんな感じだよ。生徒会で副会長の座にいるのも、会長の方が強いからだ。カズヤが校長からどこまで聞いているかは知らないが、ベイル校長の見込みは、過大評価というものだ」
そんな背景があったとは。
実際、アンの状況は芳しくない。圧倒されるほどではないが、押されている。
アンはオオカミ型召喚獣とともに、フィーラとシノブを同時に相手をしていた。
「器用ではあるんだ。召喚獣を連れて、自分も戦うスタイルだからな。あんなマネは、天才のシノブにもできん」
召喚士は普通、自分も戦闘には参加しない。しかしアンは、召喚獣を気にかけつつ自分でも戦う。「ながら」では操作できないからだ。召喚獣も、自分で思考している。自身とは別の個体なのだ。自分のコピーに授業を受けさせるのとは、理屈が違う。
シノブはロボに指示を出すだけで精一杯で、本人は生身の人間だ。
一方、フィーラは格闘にかけては、先輩魔王にすら遅れを取らない。
「あうっ!」
アンがまた、フィーラに転がされた。
「どうします? 一旦休みますか?」
フィーラが、アンを気遣う。
「もう一本、お願いします! なにか、見えてきそうなのですわ!」
泥だらけになりながら、なおもアンは立ち上がった。
「一年生でありながら、フィーラはフィジカル面において、三年生であるワタシにさえ迫る勢いだ」
アンが魔法を打とうとすると、フィーラは至近距離に詰める。魔法を繰り出そうとする手首を掴み、柔道の要領でアンを転がした。詠唱を止めるのに、あんな戦闘法があったとは。
「フィーラの戦闘スタイルは、地球の軍隊で用いる、武器を持たない近接戦闘を参考にしている」
「学習しているんだな」
「飲み込みが早くて、ワタシが考案した戦い方をすぐに吸収する」
「末恐ろしいな。フィーラは」
「悲しい戦闘スタイルだけどな」
軍隊式近接戦闘は、武器を携帯できない状況下で威力を発揮する。無力な状態で、いかに相手を無力化できるか。
どんな人生を歩んでいれば、あんな戦闘法を身につけられるのだろう。
戦い方を見ただけで、ドロリィスはフィーラの過去を想像できてしまったそうだ。
「彼女には、大きくなれる器がある」
ドロリィスは、フィーラの戦い振りを見て感心していた。これでメンタルが強ければ、それこそ世界制覇も狙える、と。
「問題は、アンの方だ」
フィーラの猛攻に対して、アンは防戦一方だ。一度も、攻撃を出せていない。
「いくら魔獣召喚にリソースを割かれているとはいえ、だらしないぞ」
相手がフィーラでなければ、タコ殴りに近いそうだ。
「ファイーファン一族の戦闘力は、ヴィル女の魔王の中でも群を抜いている。アンだけが、その血を受け継いでいないんだ」
「どうして?」
「そういうものだ。名のある魔王の力を、子どもが引き継がないなんてよくあることだ」
地球人と、一緒だな。
「優しい性格が、災いしているのだろう。人間や他の魔族相手に、本気になれないんだ。相手を傷つけてしまうんじゃないかって」
たしかに、アンはフィーラたちに手加減しているように思えた。
フィーラにダウンさせられ、アンは動かなくなる。
「ドロリィスさん、今日はもうダメ」
シノブが、ドロリィスに対して首を振った。
「今日は、ここまでにしよう」
「あ、ありがとうございました……」
悔しげに、アンはブルマーの砂を払う。
「気の毒だ。本人の怠慢ではないのに、周りからはそう見られてしまう」
なんとかしてやりたいが……。
「カズヤさん、みんな。ちょいとええか」
ドナとしゃべっていたはずのシルヴィアが、オレたちに声をかけてきた。
「ダンジョンを作ってみたんで、人を呼ぼうと思うちょるんじゃ」
シルヴィアに連れられて、道の駅へ。
「道の駅に、もう施設を設けたんだな」
まだ仮設とはいえ、軽食も入浴も可能になっている。ちょっとした、ドライブインだ。
「本格始動はこれからじゃが、使える施設は使うことにしたんじゃ。ダンジョンが、先にできてしもうとるけん」
まず冒険者を取り込み、そこから一般客に利用してもらうわけか。
「すごいですね、シルヴィアさんは。なのにわたくしは……」
アンが、落ち込んでいる。
「これからだろ。あんたは」
「ですが、カズヤさん。わたくしはファイーファンを背負って立つ魔王にならねば」
「気負い過ぎだっての。シルヴィアのダンジョンを見て、色々盗んでいこうぜ」
「そんなにうまくいくでしょうか?」
まだ、アンは自信なさげだ。
「もう今では、わたくしなんかが魔王になってもいいのかと思うくらいになりまして」
「あんたに魔王をやってもらいたいって人は、多いはずだぜ」
「ですが、それはわたくしがファイーファンだからであって」
「あんたは、あんたがなりたい魔王になればいいんだよ」
偉そうに語っているが、オレだって魔王としてのビジョンはない。ドナから学んでいるつもりだが、未だにビジネスの話は頭が沸騰する。
いよいよ、ダンジョンを見せてもらう。
「おお、本格的だな」
迷いの森のダンジョンは、遺跡風になっていた。新築のダンジョンなのに、まるで何千年も前からそこにあったような佇まいである。
「大樹にツリーハウスを作ったけん、上から覗いてみんじゃい」
オレたちはシルヴィアに促され、ツリーハウスへ。
ツリーハウスと言っても、内部は最先端機材に囲まれていた。モニターが何台も配置され、コンソールもある。株のトレードでもするのか、というくらいに。
「監視カメラか」
「初期投資じゃ。これだけで結構、予算は張ったんじゃけんど。それでも、やる価値はあるけん」
データ取りをするなら、これくらいはすべきだと、シルヴィアは判断したようだ。
ドロリィスたちも、必死でメモを取る。
「団体様が来おったでな」
ぞろぞろと、剣や銃を持った団体が森に入っていく。
冒険者の一団が遺跡に入っていくのを、カメラが捉えた。
『分かれ道が多いな』
『よし、お前は向こうへ回れ。お前たちはあっち。オレたちはこっちへ行く』
三分割して、一団は遺跡を回ることにしたようである。
「愚策じゃのう……ポチッとな」
シルヴィアが、コンソールのボタンを押す。
壁や床が一部崩壊し、すべり台に。
分割された一団が、壁のトラップによってさらに戦力を削がれた。
『しまった! 玄室だ!』
すべり台の先は、大型のクモが待ちかねている。
「もう遅いわい」
あわれ、戦力を分散された冒険者ご一行は、大ダメージを受けて全員強制ご帰宅となった。
現在彼らは、仮設した道の駅で入浴をした後、自販機のラーメンをすすっている。
「くそうくそう」と言いながら。
「シルヴィア、どうやったんだ?」
ドロリィスが、シルヴィアに尋ねた。
「ランチェスター戦略じゃ。二年生のとき、中間に出てきたじゃろうが」
「なんだ、それは?」
「ビジネス用語じゃ。相手が一に対して、常に三倍の戦力で戦うんじゃろうが。もう忘れたんか?」
ふむ。ランチェスター戦略か。
「それだ!」
「え、なんですか。カズヤさん?」
「おっと、すまん」
オレは思わず、アンの肩を掴んでしまっていた。慌てて、手をどけようとする。
「いいえ。このままで、お話をお聞かせ願えますか?」
「わ、わかった」
「で、『これです』というのは?」
「これだよ。ランチェスター戦略! いける!」
おそらく、これで勝てる。
「だが、アン自身の成績は悪いんだ。アンネローゼはそれを、コンプレックスに感じている」
「そうなのか? 優等生だって聞いているぜ?」
ヴィル女の校長であるベイルさんは、そう言っていた。
「座学と、授業態度はな。でも、実戦ではあんな感じだよ。生徒会で副会長の座にいるのも、会長の方が強いからだ。カズヤが校長からどこまで聞いているかは知らないが、ベイル校長の見込みは、過大評価というものだ」
そんな背景があったとは。
実際、アンの状況は芳しくない。圧倒されるほどではないが、押されている。
アンはオオカミ型召喚獣とともに、フィーラとシノブを同時に相手をしていた。
「器用ではあるんだ。召喚獣を連れて、自分も戦うスタイルだからな。あんなマネは、天才のシノブにもできん」
召喚士は普通、自分も戦闘には参加しない。しかしアンは、召喚獣を気にかけつつ自分でも戦う。「ながら」では操作できないからだ。召喚獣も、自分で思考している。自身とは別の個体なのだ。自分のコピーに授業を受けさせるのとは、理屈が違う。
シノブはロボに指示を出すだけで精一杯で、本人は生身の人間だ。
一方、フィーラは格闘にかけては、先輩魔王にすら遅れを取らない。
「あうっ!」
アンがまた、フィーラに転がされた。
「どうします? 一旦休みますか?」
フィーラが、アンを気遣う。
「もう一本、お願いします! なにか、見えてきそうなのですわ!」
泥だらけになりながら、なおもアンは立ち上がった。
「一年生でありながら、フィーラはフィジカル面において、三年生であるワタシにさえ迫る勢いだ」
アンが魔法を打とうとすると、フィーラは至近距離に詰める。魔法を繰り出そうとする手首を掴み、柔道の要領でアンを転がした。詠唱を止めるのに、あんな戦闘法があったとは。
「フィーラの戦闘スタイルは、地球の軍隊で用いる、武器を持たない近接戦闘を参考にしている」
「学習しているんだな」
「飲み込みが早くて、ワタシが考案した戦い方をすぐに吸収する」
「末恐ろしいな。フィーラは」
「悲しい戦闘スタイルだけどな」
軍隊式近接戦闘は、武器を携帯できない状況下で威力を発揮する。無力な状態で、いかに相手を無力化できるか。
どんな人生を歩んでいれば、あんな戦闘法を身につけられるのだろう。
戦い方を見ただけで、ドロリィスはフィーラの過去を想像できてしまったそうだ。
「彼女には、大きくなれる器がある」
ドロリィスは、フィーラの戦い振りを見て感心していた。これでメンタルが強ければ、それこそ世界制覇も狙える、と。
「問題は、アンの方だ」
フィーラの猛攻に対して、アンは防戦一方だ。一度も、攻撃を出せていない。
「いくら魔獣召喚にリソースを割かれているとはいえ、だらしないぞ」
相手がフィーラでなければ、タコ殴りに近いそうだ。
「ファイーファン一族の戦闘力は、ヴィル女の魔王の中でも群を抜いている。アンだけが、その血を受け継いでいないんだ」
「どうして?」
「そういうものだ。名のある魔王の力を、子どもが引き継がないなんてよくあることだ」
地球人と、一緒だな。
「優しい性格が、災いしているのだろう。人間や他の魔族相手に、本気になれないんだ。相手を傷つけてしまうんじゃないかって」
たしかに、アンはフィーラたちに手加減しているように思えた。
フィーラにダウンさせられ、アンは動かなくなる。
「ドロリィスさん、今日はもうダメ」
シノブが、ドロリィスに対して首を振った。
「今日は、ここまでにしよう」
「あ、ありがとうございました……」
悔しげに、アンはブルマーの砂を払う。
「気の毒だ。本人の怠慢ではないのに、周りからはそう見られてしまう」
なんとかしてやりたいが……。
「カズヤさん、みんな。ちょいとええか」
ドナとしゃべっていたはずのシルヴィアが、オレたちに声をかけてきた。
「ダンジョンを作ってみたんで、人を呼ぼうと思うちょるんじゃ」
シルヴィアに連れられて、道の駅へ。
「道の駅に、もう施設を設けたんだな」
まだ仮設とはいえ、軽食も入浴も可能になっている。ちょっとした、ドライブインだ。
「本格始動はこれからじゃが、使える施設は使うことにしたんじゃ。ダンジョンが、先にできてしもうとるけん」
まず冒険者を取り込み、そこから一般客に利用してもらうわけか。
「すごいですね、シルヴィアさんは。なのにわたくしは……」
アンが、落ち込んでいる。
「これからだろ。あんたは」
「ですが、カズヤさん。わたくしはファイーファンを背負って立つ魔王にならねば」
「気負い過ぎだっての。シルヴィアのダンジョンを見て、色々盗んでいこうぜ」
「そんなにうまくいくでしょうか?」
まだ、アンは自信なさげだ。
「もう今では、わたくしなんかが魔王になってもいいのかと思うくらいになりまして」
「あんたに魔王をやってもらいたいって人は、多いはずだぜ」
「ですが、それはわたくしがファイーファンだからであって」
「あんたは、あんたがなりたい魔王になればいいんだよ」
偉そうに語っているが、オレだって魔王としてのビジョンはない。ドナから学んでいるつもりだが、未だにビジネスの話は頭が沸騰する。
いよいよ、ダンジョンを見せてもらう。
「おお、本格的だな」
迷いの森のダンジョンは、遺跡風になっていた。新築のダンジョンなのに、まるで何千年も前からそこにあったような佇まいである。
「大樹にツリーハウスを作ったけん、上から覗いてみんじゃい」
オレたちはシルヴィアに促され、ツリーハウスへ。
ツリーハウスと言っても、内部は最先端機材に囲まれていた。モニターが何台も配置され、コンソールもある。株のトレードでもするのか、というくらいに。
「監視カメラか」
「初期投資じゃ。これだけで結構、予算は張ったんじゃけんど。それでも、やる価値はあるけん」
データ取りをするなら、これくらいはすべきだと、シルヴィアは判断したようだ。
ドロリィスたちも、必死でメモを取る。
「団体様が来おったでな」
ぞろぞろと、剣や銃を持った団体が森に入っていく。
冒険者の一団が遺跡に入っていくのを、カメラが捉えた。
『分かれ道が多いな』
『よし、お前は向こうへ回れ。お前たちはあっち。オレたちはこっちへ行く』
三分割して、一団は遺跡を回ることにしたようである。
「愚策じゃのう……ポチッとな」
シルヴィアが、コンソールのボタンを押す。
壁や床が一部崩壊し、すべり台に。
分割された一団が、壁のトラップによってさらに戦力を削がれた。
『しまった! 玄室だ!』
すべり台の先は、大型のクモが待ちかねている。
「もう遅いわい」
あわれ、戦力を分散された冒険者ご一行は、大ダメージを受けて全員強制ご帰宅となった。
現在彼らは、仮設した道の駅で入浴をした後、自販機のラーメンをすすっている。
「くそうくそう」と言いながら。
「シルヴィア、どうやったんだ?」
ドロリィスが、シルヴィアに尋ねた。
「ランチェスター戦略じゃ。二年生のとき、中間に出てきたじゃろうが」
「なんだ、それは?」
「ビジネス用語じゃ。相手が一に対して、常に三倍の戦力で戦うんじゃろうが。もう忘れたんか?」
ふむ。ランチェスター戦略か。
「それだ!」
「え、なんですか。カズヤさん?」
「おっと、すまん」
オレは思わず、アンの肩を掴んでしまっていた。慌てて、手をどけようとする。
「いいえ。このままで、お話をお聞かせ願えますか?」
「わ、わかった」
「で、『これです』というのは?」
「これだよ。ランチェスター戦略! いける!」
おそらく、これで勝てる。
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