フリーター、魔王候補の集まる女子寮の大家になる

椎名 富比路

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第三章 フリーター、美少女魔王たちと寮の候補地を視察をする

第14話 借りますか? 借りませんか?

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 なんと、シノブはスク水を脱ぎ捨ててしまった。貞操観念というものがないのか、この女は!
 シノブは仰向けの状態になり、その上にスク水が覆いかぶさった。あれだ、エロいイラストやグラビアとかで見る光景だ。学生証とかを腹の上に乗せるんだよな。

「わーっ! シノブちゃん! なにやってるんですか!」

「スク水、窮屈」

「ダメ!」

 ムリヤリ、フィーラがシノブにスク水を着せ直す。

「はあ、はあ。まったく、油断もスキもありませんね。殿方もいらっしゃるのに」

「このお湯を肌で感じないなんて、日本人としてはありえない」

 たしかに、オレも一人だったら、素っ裸ではいりたいものだ。

「それにしても、ガチの温泉なのか?」

「まあな。天然温泉だ」

 もうリゾートじゃん、ここって。

「温泉が出ると知っていれば、私も寮として考えなかったんだがなぁ」

 廃校になる前は、ここに温泉が湧くなど知りもしなかったらしい。

「いやあ、カズヤはどう思う?」

「どうって言われても」

 ちらっと見たが、一番スタイルがいいのはシルヴィアだ。グラビアアイドル級である。

 その次は、フィーラだ。こちらはアスリートっぽい健康的なセクシーさだ。

 ううん、と思考しながら、どうにか寮生たちの不健全ボディを目に入れないようにしていた。

 しかし、規格外のサイズがオレの目に飛び込んでくる。

 スレンダーな割に、ドロリィスは胸だけが大きい。これは、シルヴィアとどっこいどっこいなのでは?

 ドロリィスの谷間に、オレは釘付けになってしまった。

「普段はドラちゃん、サラシで隠しているんじゃ」

「変なことをカズヤに吹き込むなっ!」

 シルヴィアとドロリィスが、お湯の掛け合いを始める。
 アンは極めて、普通の体型だ。男性ウケしそうなプロポーションである。
 やはりというか、シノブが一番ストーンとしていた。

「私が聞きたいのは、ここを買い取ってもらえるかどうかなんだが」

「そっちかよ!」

 心が読めるのか、ドナは!?

 

 風呂から上がったところで、ようやく出前が到着した。
 家庭科室まで移動して、食べることに。

「いただきます」と、みんなで手を合わせた。

「さあ、つまんでくださいませ」

 アンは、寿司やピザを頼んでいる。みんなで食べられるものばかりだ。

「相変わらず、アンちゃんは女子力が高いのう」

 さっそくシルヴィアが、ハマチをつまむ。

「ご謙遜を。シルヴィア先輩もじゃないですか」

 シルヴィアとフィーラがオーダーしたのは、人数分のギョーザである。自身の分は二人とも、ラーメンと半チャーハンセットだ。

「みなさんも、どうぞ」

「いただこう。三人とも、女子力が高いな」

 ドロリィスとシノブは、カツ丼弁当とおにぎりを頼んでいた。ちなみにオレもである。

「そうでもありませんよ」

 フィーラたちのラーメンは、見事にノビていた。

「ここまでの距離を考えていませんでした」

「計算できなかったなら、仕方ない」

 シノブは自分のカツ丼を、フィーラに半分シェアしてあげる。

「ありがとうございます」

「ん」といい、ノビたラーメンをフィーラから半分すくいあげた。それを一息ですする。 

「悪い。気が利かなくて」

 オレにもう少し、サービス精神があれば。

「お気になさらず。食べたいものを食べることが、一番ですわ」

 たしかに、この弁当はうまそうだったのだ。

「アンも、おにぎりだけは頼んだんだな?」

 弁当屋で売っている昆布のおにぎりも、アンは買っていた。

「そうですの。地球のごはんは、だいたい食べてみたくて」

 上品な見た目に反し、アンは庶民的な娘だな。

「アンよ、開けてやろう」

「ありがとうございます。ですが、自分でできますわ」

 ドロリィスの申し出を断って、アンはおにぎりの袋を開ける。お嬢様に似つかわしくない仕草で。

「器用だな」

「防災訓練で、やったじゃありませんか」

 アンが、おにぎりにパクついた。
 他にも、パウチ型非常食の茹で方なども、学んだという。
 魔王だからな。襲撃や自然災害などは、日本の比ではないのかも。

「避難訓練って、頻繁にやるのか?」

「表向きはな」

 ドナは、バケツみたいな容器に入ったフライドチキンのセットを分け合う。

「訓練と称しているが、実際は地球の食べ物のリサーチが目的だ。コンビニで売っているものを、みんなで食い合うのだ」

 よく考えていやがるぜ。

「一応、うちに買い手がいない物件はこんなところだ。価格も、お手頃である」

 ドナが説明をすると、ほぼ全員が苦い顔をした。

「空気が美味しいですわ。わたくし、ここは気に入りましたわ」

 アン一人を除いて。アンは深呼吸をしながら、ご満悦だ。

「自然に囲まれて、美しい景観ですわ。こんなところで暮らせるなら、それもまたよろしくてよ」

 ギシギシと不気味な音を立てる木造の床にさえ、アンは興味を示していたからな。

「待てアン。たしかに別荘としては、申し分ない。しかしずっと住むとなると、難しいぞ」

 ウキウキしているアンの言葉を、ドロリィスは遮った。

「我々の目的は、寮でのんびり過ごすことではない。地球の調査」

 シノブも、仕事モードに入っている。口にギョーザを詰め込みながらしゃべっているが。

「この自然を調査せずして、地球をどう調べろと?」

 アンも、反論をする。

「お前の言いたいことはわかるよ、アン」

 ピザのチーズが切れるのを待ちながら、ドロリィスが会話を続けた。

「たしかに地球の生態系を調べるなら、ここはうってつけだろう。しかし、ここは我々の世界に近い」

「文明レベルが低すぎる。ぶっちゃけ、ど田舎。近くにコンビニがないのは、ありえない」

 ドロリィスに続いて、シノブも首を振った。ふたりとも、フィーラに寿司を口へと詰め込まれながら。

「都会の喧騒を離れたい人用の、建物だからな」

 ドナが、そう説明する。

「じゃあ、パスで。都会の騒々しいのは嫌いだけど、不便すぎるのはもっとつらい。なにより、コンビニが近所にないのは」

 シノブからも、ダメのサインが出る。

「コンビニ、好きなのか?」 

「アニメの推しのグッズが、コンビニでしか売っていない」

 さいですか。

「わたしも、眠れさえすればそれでいいのですが、買い出しが不便ですね」

 フィーラも、ここは却下だという。

「ですがフィーラさん。転移魔法を使えば、コンビニだってラクラクじゃございませんの?」

「転移魔法は正直言って、バイクの運転より面倒」

 アンの言葉を、シノブが否定する。

 複雑な手順を踏まなければ、転移魔法とやらは発動できないらしい。

「転移魔法は、転移先にも目印が必要です。いちいちコンビニやスーパーなどに設置させてもらうんですか?」

 フィーラからも意見されて、さすがにアンも「そうですわね」と言葉を引っ込める。

「最後に、シルヴィアさんは、どうお考えですの?」

「野菜が採れて動物が飼える場所としては、ええがのう」

 シルヴィアは、自分のラーメンを差し出す。ノビきったラーメンを。

「やはり、わざとやっていたのか」

「実際に見せた方が、わかりやすかろうよ」

 残ったラーメンを、シルヴィアは一気に食べきる。
 なんだ? ドナとシルヴィアの会話が、斜め上すぎて理解できない。

「さっきシノブが、フィーラに言っていただろう? 『店からこちらまでの距離を推測できなかったのか』、と」

「ああ」

 ラーメンがノビるくらい、遠いんだったな。

「ここは、一番近い町中華でも、一時間はかかる。フィーラは、本当にわからなかったのだろう。だがシルヴィアは、飲食業をやっている」

 そんな彼女が、麺のノビる時間を把握できないわけがない。


「申し訳ございませんが、こちらは却下ということで」

 アンは、あっさりと引き下がった。出前好きなのかな?

「答えは出たな。一応聞くが、ここを借りますか? 借りませんか?」

 ドナが、アンに答えを求める。

「はい。借りま……せん」

 第一候補であったこの地は、却下とな……。

「ほいじゃあ、アーシが買うわい」

 却下となりかけたところで、シルヴィアが手を上げた。

「寮としてじゃなく、卒業後の農場兼ダンジョンとして買い取らせてくれい」

 しかも、借りるのではなく「買う」と。
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