フリーター、魔王候補の集まる女子寮の大家になる

椎名 富比路

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第三章 フリーター、美少女魔王たちと寮の候補地を視察をする

第13話 入寮者五人で予定地視察、時々水着回

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 山奥の廃校に、オレたちのバスが停まった。

「昭和の割に、でけえのう」

 シルヴィアが、ため息をつく。
 三階建ての木造建築だ。建て直したのか、香りもいい。

「耐震基準は満たしている」

 ヴィル女からの連絡がなければ、小さいサーバー管理会社に渡る予定だったらしい。

「取っといてくれたんか。それは、申し訳ないのう」

「別に構わない。そちらは結局、別の場所がいいと言ってきた」

 つまり、買い手がつかなかったと。

「グラウンドや、畑もあるかいね。これなら、ブヒートくんも走り回れる」

 打ち捨てられた中庭の土を、シルヴィアはすくい取った。

「気に入ってもらえたか?」

「満足じゃ」

 外の様子を見て、シルヴィアはかなり満足した様子である。

「うむ。グラウンドもあって、トレーニングには申し分ないな。フィーラ、日頃の成果を見てやろう」

 ロドリィスが、さっそくひとっ走りした。

「はい。お供しますっ」

 フィーラも続く。

「おお、すげえ」

 ドロリィスのスピードに、フィーラも追いついている。

「やるなあ!」

「でも、限界ですぅ」

 並走はここまで。一周回ったあたりで、徐々にフィーラのスピードが落ちていった。

「はあ、はあ。とにかく、先輩としての威厳は保ったな」

「ぜえぜえ、さすがですドロリィス先輩」

 駐車場にするか迷ったが、一旦そのままにしてあるそうだ。 

「ドナさん。たしか運動場の土は、畑には適さないんじゃね?」

 続いてシルヴィアは、ドロリィスが踏みしめた後の土を指でつまむ。

「ああ。雨が降っても地盤が緩まないように、吸水率を悪くしているらしい」

 同じ原理で、甲子園の土でも作物は育たない。

「まあ、こんだけ広くても持て余すけん」

「山に囲まれていますから、覗きなどの心配もいりませんわね」

「ほうじゃね」

 シルヴィアとアンが、うなずき合う。
 外回りの様子は、こんな感じだ。
 さっそく、中に入ってみる。
 最も気になる部分だったのか、アンは共同トイレに直行した。

「お手洗いだけが、妙に新しいですわ」

 共用トイレに入ったアンが、感想を述べる。

「カビ臭さもありません。ニオイなども気になりませんわね」

 清潔感のあるトイレに、アンは満足げだ。

「水回りは、念を入れてリフォームした。今どき汲み取り式のトイレなんぞ、誰も使わんからな」

 再び廊下に出て、みんなで探索を始める。

「なんだか、いつも利用している教室より、やや狭く感じますわ」

「教室の壁を壊して、廊下を広くした」

 車椅子同士でも、すれ違えるようにしたらしい。バリアフリーというやつだ。

「だから、エレベーターも設置なさったんですわね?」

 エレベーターで、三階へ上がった。

「うむ。高齢者が相手になる場合もあるからな」

 どんな利用者にも、対応できるようにしている。

「フィーラ、今のところどんな感じがした?」

 オレは、最年少のフィーラに尋ねてみた。

「家というより、旅館や会社に近いですね」

 フィーラが、正直な感想を述べる。

「一言でいうと、落ち着きません。ここにいると、なんだか、みんなのお世話がしたくなってきますよ」

 たしかに様々な用途に使える反面、居住感がない。

「空調も、添えつけなのですわね?」

 天井に直接、エアコンが取り付けられている。このあたりも、オフィス気分が満載だ。

「図書館が、一番涼しい」

「本を保存するため、一定の温度を保っているのだ」

 シノブが部屋の探索そっちのけで、分厚い学術書を読みふけっている。ずっと根を張ってしまう勢いだ。

「立ってください、シノブちゃん。他の部屋も、見て回らないと」

 地べたにあぐらをかいているシノブの両脇を、フィーラが抱えあげる。

「わたしは、この部屋に住む。紙を直接指で触る感触、久しく忘れていた」

「そこは共有スペースであって、自分の部屋じゃありませんっ」

 ムリヤリ、フィーラがシノブを立たせる。

「ああーっ。もうちょっとだけー」

 落とした本を、シノブはあたふたと取り返そうとした。

「ドロリィスさんもですっ。マンガ本から手を放してっ」

「七〇年代のマンガは、センセーショナルな内容ばかりだな。巨匠でも、マイナーなジャンルを描いていて、実に興味深い」

 そんな昔から、ここは建っていたのか。

「炊事場は、家庭科室を利用している」

 ガスなどはそちらを通して、各部屋で料理ができるようになっているそうな。共同のくつろぎスペースとして、活用できるという。

「なんか持ってきてやったら、よかったのう。お料理するのに」

「そうですね。お手伝いしましたのに」

 シルヴィアとフィーラが、残念がる。

「いや、いいだろう。使うかどうかわからないんだ」

「まあ、そうじゃのう。スーパーも、近くにないけん」

 手持ち無沙汰になったシルヴィアが、家庭科室から出た。

「飯の話をしていたら、腹が空いたの」

 シルヴィアが、お腹を抑える。

「質問なのですが、デリバリーの所要時間などはわかりますか?」

「頼んでみればわかる」

「わかりました。ではみなさん、ご希望を」


 それぞれが、昼食を注文した。


「かなり時間がかかるそうですわ」

「では風呂でも入るか? うちの最大のポイントだ」

 入浴は、屋外にあるそうだ。

「まあ、露天風呂ですわ」

 三階の窓から外を見たアンが、驚きの声を上げた。

 プールをそのまま、温泉施設に利用している。半分に仕切って、片方は屋内風呂と洗い場に。もう片方は露天の岩風呂だ。木々に囲まれて、目隠しも可能である。

「今から入れるぞ」

 イアロさんが、準備してくれていたらしい。

「入りますわ!」

 アンが、服を脱ぎだす。

「おいおいアンネローゼ、男性もいるんだぞ!」

「あら、そうでしたわ」

 アンは、更衣室へと消えていく。

「替えの服はあるのか?」

「アイテムボックスに、少々」

 さすがにオレの前で全裸とはいかないので、スクール水着を着用するという。

「やたら行動力が高いな」

「今日は視察以外に、なにも予定がございません。みなさんも入りましょう」

 どうもアンは、珍しいものが好きなようである。

「でも、お風呂は入ってみたいかも」

「そうですね」

 シノブとフィーラも、更衣室へ。

「ブヒートくんを入れられるかどうか、チェックせんと」

 シルヴィアまで。

「ドラちゃん、あんたも来んさいな。水着でええけん」

「わかった! 全員水着は持っているな! だったら入ってやる!」

 結局、全員で入ることとなった。

「カズヤ、お前もだ」

「オレも?」

「当然だろう? いざここが買い取られたとき、水回りを管理するのはお前の仕事だ」

「ここを、一人で掃除するのか?」

「そこまでは言わん。ちゃんと業者はいる。だがトラブル時はお前が駆けつけるんだぞ」

 まあ、それもよほどのことらしいが。

 オレは一人、男子更衣室に入って海パンを身につける。

 寮生全員が、スク水で内湯に浸かっていた。

「ああ、カズヤさんもとっとと入らんね。JKとお風呂にはいるっちゅう貴重な経験ができるけん」

 それをやったら、オレは事案で捕まっちまうんじゃ?

「私が保護してやるから、安心するがいい」

 そういうドナは、黒のビキニである。

「ずっとバスの中におったけん、なまっとった身体がほぐれていくわい」

 風呂のヘリに腕を乗せて、シルヴィアが「ほう」と息を吐く。
 浴槽も、ちゃんと木枠になっていた。床も、すべられない素材を使っている。会社や別荘よりは、温泉旅館やスーパー銭湯として売り出したほうがいいかも。

「寮生の裸が、気になるか?」

「いや。ジロジロ見るわけにはいかんだろ」

「ほいじゃ、露天の方へ行こうかね」

 ムッチムチの身体で立ち上がり、シルヴィアは露天風呂の方へ。

「お供します」

 全員で、外にある岩風呂へ。
 乳白色の湯は、入浴剤の白さを出していない。これは、ちゃんとした温泉だ。やっぱり旅館で売り込もうぜ、ドナさんよぉ。 

「もぞもぞ……」

 シノブの眼前に、スク水が浮き上がった。シノブの肩に、スク水のヒモがなくなっている。
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