フリーター、魔王候補の集まる女子寮の大家になる

椎名 富比路

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第二章 フリーター、女子寮を買う!? ~女魔王限定女子寮を作れ!~

第10話 民間人魔王 フィーラ

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「ご飯はいらない」というフィーラの言葉を聞き、シルヴィアはメロンソーダをあげる。

「ところで、ベイル校長の隣にいらっしゃるのは?」

「あの、えっと、オレはカズヤ。あんたらが住む女子寮を担当することになった。物件が見つかったら、オレが大家になる。よろしくな」

「ありがとうございますっ。わたしはフィーラといいます」

 フィーラが頭を下げると、三つ編みおさげが弾む。

「ベイル校長から聞いていらっしゃるかもしれませんが、わたしは民間人でして」

「ああ。それ以上はもう話さなくていいから」

 なんか、フィーラの言葉に遠慮を感じた。

「わたしにはなんの要望もありませんので、他の寮生の意見をいっぱい取り入れてあげてくださいね」

 元気に答えて入るが、どうも控えめな性格が引っかかる。

「あんただって、ジャンジャン要望を出していいんだ。こちらにいる魔王ドナだって、そう言ってるんだ。どーんと構えなよ」

「ありがとうございます」

 フィーラは「それはそうと」と、シルヴィアに向き直った。 

「シルヴィア先輩。できるだけ、生徒会長のお話を聞いてあげてください」

「どうせ、文化祭にブヒートくんは連れてくんな、っちゅう話じゃろ?」

「ええ。そうです、ね」

「だったら直接言いに来んかいよ、生徒会長さんはよぉ」

「わたしをフィルターにしないと、角が立つから、と」

「よおわかっとるところが、逆にムカつくのう」

 どうも、シルヴィアと生徒会長とやらは、相当に仲が悪いらしい。

「なんで、このイノシシ……ブヒートくんだっけか。文化祭に入れちゃダメなんだ?」

 召喚獣だから、特に問題はなさそうだが。ニオイなどもしないし。

「部外者だからです。盗撮などの疑いも」

「アーシが生徒を盗撮して、どないするつもりじゃと?」

「先輩にその気がなくても、他の生徒がマネをして行為に及ぶことを、会長は懸念しておりまして」

「めんどくさいのう……」

 洗い物をしながら、シルヴィアはため息をつく。

「なあ、ドロリィス。生徒会って、評判が悪いのか?」

「いいところだ。民間人を、魔族と平等に雇うくらいだからな」

 陰湿ないじめなども、聞かないらしい。

「だが、厳格じゃぞ」

「お前がフリーダムすぎるだけだろうが」

 ドロリィスが言うと、シルヴィアは笑った。

「風のように生きられんで、なにが魔族じゃ。どっかに帰属せんと生きられんとか、アーシから見たらそっちの方がひよっとるわい」

「シルヴィア!」

 テーブルを叩き、フォロリィスが立ち上がる。

「下々を率いてやるのも、魔王の仕事だ。もっと魔王としての自覚は持てないのか?」

「単位がヤバいあんたには、言われとうないもんっ」

 カチャン、と強い音が、洗い場から聞こえた。

「ケンカはやめてください。とにかくシルヴィア先輩は、会長と話し合ってください」

「……こっちの用事が済んだら、顔を出すけん」

 きまりが悪いと思ったのか、シルヴィアはやけにおとなしく従う。

「ありがとうございます。メロンソーダごちそうさまでした」

 金を払おうとしたフィーラの手を、シルヴィアは返した。

「そんな。わたしなんかにジュースを」

「あんた、未だに自分を下げるクセが治らんのか?」

 シルヴィアが、フィーラに金を握らせる。

「ラーメンの代金も、みんなからもろうておらん。あんたは大変なんじゃから、遠慮せんでええ」

「すいません」

「ほら、おかわりじゃ」

 シルヴィアはもう一杯、メロンソーダを差し出す。

「あんたは、生徒会にいるのか?」

 オレは、フィーラに声をかけた。

「はい。わたしは民間人なので、様々な権限がないのです。それを心配した今の生徒会長が、雑用係として雇ってくださっています」

「じゃあ選挙や投票で選ばれた役員ではない、庶務って言えばいいのかな?」

「その感じでいいです」

 フィーラは、メロンソーダを少量だけ吸う。

「アーシが雇ってやるけん、生徒会なんてやめんかい」

「またお前は、そういうことを」

「ええんじゃ。あの堅物は好かん」

 シルヴィアが、オレたちの分のコーヒーを淹れてくれた。

「もしかして、生徒会長ってアンネローゼか?」

 写真からして、アンネローゼからそんなに厳格な印象を受けないが。

「違う。アンネローゼは副会長だ。会長は、ワタシたちと同じ三年だ」

「どんなヤツなんだ?」

「まあ、フィーラを気にかけているくらいだから、悪いやつではない。勉強や、魔王としての心構えも教えている」

 アンネローゼは、厳格な会長の緩衝材らしい。

「そのアンネローゼは、来ないんだな」

「はい。今日はどうしても、バイトを抜けられないらしく」

 フィーラによると、アンネローゼはバイトに行ってしまったそうだ。

 カネに困っていないはずのお嬢様が、バイトか。フリーターのオレとは、違う理由からだろうな。

「週に二、三度、アンネローゼ先輩はバイトへ向かいます」

「彼女からすれば、社会勉強らしい」

 会社の社長が部下になりすまして、従業員の仕事ぶりを視察する、って番組があった気がする。

 アンネローゼも、そんな感じなのかもしれない。

「バイトならウチでやらんね、って誘ったこともあるんよ。けど、誰にも頼らない場所がええんじゃと」

 シルヴィアと一緒だと、どうしても甘えが出てしまうからだとか。

「わたしはたまに、シルヴィア先輩のお手伝いをします。まかないのお食事も出してもらえるので、助かっています」

「よかったなあ。あんたは本当に、ダンジョンに要望とかはないのか?」

 オレはもう一度、それとなく尋ねてみた。

「ウチは女子寮の他に、あんたら生徒が利用したい魔王城も吟味する予定だ」

「ご要望があれば、それに見合ったダンジョンを用意しよう」

 ドナも、オレの言葉に続く。

「本当に、わたしはいいんです。ダンジョンなど、おこがましくて。ましてや魔王城なんて、夢のまた夢で」

「誰かの魔王城に便乗するつもりか?」

「参謀とか、それこそ責任重大じゃないですか。わたしにはとても」

 シルヴィアやドロリィスとは違った意味で、この娘は問題がある。自己肯定感が、著しく低い。こっちをなんとかしてあげたいところだな。

「フィーラの学業ってどうなんだ?」

「中の上、ってところだな。だが、ワタシは納得していない。彼女は、本気になれば我々より強いと断言できる」

 さすがドロリィス、某漫画の戦闘民族よろしく、強い相手を察知する能力は高いようだ。

「わたしなんて……みなさん伏せて!」

 突如、フィーラがテーブルから飛び出す。

「はっ!」

 フィーラが、天に両手を突き出した。



 当時に、巨大な隕石のような塊が降ってくる。



 いや、違う。あれは。

「腕だ! ロボットの!」

 巨大ロボットの腕が、振り下ろされたのだ。

 だが、フィーラはその両腕をバリアで受け止めたのである。

 なんてパワーだ。

「な、ワタシの言ったとおりだろ?」

 一四杯目の焼きラーメンをモチャモチャ食べながら、ドロリィスはケラケラ笑った。

「いや、笑い事じゃないっしょあんなの!」

「笑い事じゃ。あれはどっちも本気じゃないけん」

 シルヴィアまでも、のんきに観察している。

 なんだってんだ、魔王ってのは。

 だがよく見ると、ドナやベイルさんを含め全員が、この付近一帯に魔法障壁を張っていた。近隣に被害は及ぶと判断したのだろう。


「シノブさん、悪ふざけはやめてください!」

 フィーラが障壁を前へ突き出し、ロボットの腕を弾き飛ばした。

 のけぞりながら、ロボットは後退する。

「……ネタだってのは、あんただってわかっているはず」


 低いトーンの声が、ロボットから聞こえた。

 胸のハッチが開き、黒い髪の少女が姿を表す。

 彼女が、シノブ・アマギか。
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