フリーター、魔王候補の集まる女子寮の大家になる

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
9 / 47
第二章 フリーター、女子寮を買う!? ~女魔王限定女子寮を作れ!~

第9話 ドラちゃんって言うな!

しおりを挟む
 ドロリィスの格好を見て、オレは首を傾げる。あれは制服……だよな?

「なあ、ベイルさん、ヴィル女って女子校ですよね? あの子、スカートじゃないんだが」

 銀髪少女が穿いているのは、膝上が短いホットパンツである。

「うちは、スカート以外にズボンも採用しているのです。気分でどちらで登校してもいいとしていますの」

「アーシも、たまにズボンを穿くんよ」

 シルヴィアも、気分次第で制服を変えるらしい。

「スカートの中に穿いてる子も、おるのう。防寒に、ちょうどええんじゃ」

「そんなことはどうでもいい! ヴィル女の看板に泥を塗った以上、ワタシが払拭しなければ! いざ尋常に勝負せよ!」

 ドロリィスはレイピアの先を、オレに突きつける。

「ちょいちょい、ドラちゃん。カズヤっちは、まだ食べとる途中じゃ。終わるまで待たんか」

 シルヴィアが、ドロリィスをたしなめた。

「待っているだろうが、シルヴィア! お前はわが校の生徒が男なんかに負けて、くやしくないのか!?」

 オレを指さしながら、ドロリィスが怒鳴り散らす。

「誰も、悔しいとか思うとらんわ。ドラちゃんだけじゃろうが」

「ドラちゃんって言うな! 幼なじみとはいえ、馴れ馴れしすぎる」

 この二人は、学外でも知り合いのようだな。

「幼なじみっちゅーもんは、馴れ馴れしいもんじゃろうが」

「うるさい! それよりお前だ!」

 ああ、二人でやり合ってくれたらよかったのに、また矛先がこっちに向いたよ。 

「タンマタンマ! オレはケンカに弱いんだっての!」

 ラーメン鉢を置いて、オレは自分の顔を手で防ぐ。

「ウソをつくなっ! お前は以前、ウチの生徒を魔物から助けたそうじゃないか! どんなヤツなのか、手合わせしてみたかったのだ!」

「あれはな、火事場のバカ力的なものでだなあ!」

「問答無用。勝負せよ! 食い終わるまで、待ってやったんだ。立て!」

 食後の運動にしては、ハード過ぎる。

「マジで偶然なんだっての。そもそも退治すらできていない」

「やっつけたのは、そこにいるドナ嬢だというのは知っている。しかし、ドナ嬢より先に追い払うとは、ヴィル女の生徒としては情けなく思う! なので、ワタシの手で名誉を回復するのだ!」

 少女の姿が消えて、レイピアがオレの心臓に直進してきた。

「そこまでだ」

 パシ。

 ドナが、ドロリィスの剣を箸でつまんだ。

「八つ当たりも、そこそこにしろ。ドロリィス・テスタロザ」

「しかし、ドナ・ドゥークー。あなただって、元ヴィル女の生徒だろうが。地球人に学友が助けられて、恥だと思わないのか?」

 ドロリィスが、ドナの箸を振り払おうとする。

「思わない」

 逆にドナは、ドロリィスの剣を押し返した。

「地球人をかばうか。ならば、あなたから先に」

 ドロリィスは、ドナにターゲットを変更する。血の気が多い。
 電光のような突きを、ドナは箸だけで捌き切る。途中でラーメンをすすりながら。
 レイピアが、ドナの箸で弾き飛ばされた。切っ先が、地面に突き刺さる。

「な、なんという……これがドゥークー家の秘蔵っ子か。恐れ入った」

「茶番はそのくらいにしておけ。お前の目的がカズヤではなく、私なのだろう?」

 ドナに指摘され、ドロリィスの顔が引きつった。

「参った。実はそうなのだ。ドナ・ドゥークーが男を雇ったと聞いてな。どんなやつか確かめるとともに、魔王ドナという存在にも興味があった」

 ドロリィスが、レイピアを鞘に収める。オレの前に来て、頭を下げた。

「申し訳ない、地球人殿。ワタシはドロリィス・テスタロザ。スートツという世界から来た、魔王だ」

「不動産投資家のカズヤだ。といっても、バイトの身だけど」

 オレがいうと、ドナが「何を言う?」と反論してくる。

「お前は正社員だぞ、カズヤ。お前ほどの適任者はいない」

 そこまで期待されても。

「ふむ。地球人にそこまで入れ込むとは。カズヤ殿は、ただならぬ存在なのかも知れんな」

 なんか、ドロリィスまでオレに興味を持ち始めたし。

「もう、ケンカを売ってこなくていいのか?」

「うむ。実力を隠している感じではない。だいたい、カズヤ殿のポテンシャルはわかったつもりだ。腕ではなく、目で殺すタイプなのかもな」

「いやいや。そんなジゴロ的な才能こそ、オレにはねえよ」

「しかし貴公を慕って、人がこうして集まっている。性根の悪い男に、ここまでの人材は集まらん。きっと、なにか特別な要素が備わっていると思うぞ」

 そうかねえ? 実感ねえけど。

「それにしても、シルヴィアだが……」

 あんな遠くにいた人影を、ドロリィスだと見抜いたのか。オレは、全然気づかなかったのに。気配すら、感じ取ることができなかった。

 シルヴィアって子は、案外腕が立つのかも。

「あいつは、ケンカをしたらヴィル女でも最強かもな」

「そうなのか? でも、本人は屋台を引いているときが最高だと」

「だろうな」

 やや切なげな表情を、ドロリィスが浮かべた。
 あまり、語りたくない過去があるのだろう。

「ドロリィス、でいいのか?」

「学業関係者でないものに呼び捨てされるなら、抵抗はあるが」

 寮の大家になるんだから、オレは別にいいってわけか。

「いいか、間違ってもあいつみたいにドラちゃん呼びはやめろ。いいな?」

「お、おう」

 ドロリィスから、キツめに強調されてしまった。

「耳元でささやいたれ。クラってなるよってに」

 ニヤニヤ笑いながら、シルヴィアが告げる。

「バカ! そんなわけあるか!」

 顔のパーツすべてを赤く染めながら、ドロリィスが抗議した。

「ドロリィスは、どういう魔王を目指しているんだ?」

「強い魔王だな」

「抽象的すぎるな。具体的に、強いってなんだ?」

「うーん」とうなりながら、ドロリィスは考え込んでしまう。

「腕っぷしが強いだけでは、ダメか?」

「それでは、手下がついてこないぜ。恐怖政治になって、反乱も起きるだろう」

「反対勢力なんて、ぶっ潰せば」

「世界が滅びるぞ」

 反乱分子を根絶やしにしてしまっては、ディストピア化待ったなしだ。

「希望のダンジョンはあるか?」

「そうだな。構造は単純な方がいい」

 要望としては、四天王などの敵を配置していき、そいつらを倒していくうちにドンドン敵も強くなっていくシステムだという。

「あれだな。カンフー映画であったわ。それ」

「うん。その感じがいい。塔のようなダンジョンで、階層ごとに強いモンスターを配置するのだ」

 ああ。こいつはわかりやすいな。

「ドナ。ドロリィスが買えそうな塔とか、あるか?」

「問題なかろう。手頃な砦跡をリフォームして、見繕えばいい」

 なら、問題は解決だな。 

「ドラちゃんの場合、卒業できるかの方が怪しいんじゃが」

「お前は黙ってろ、シルヴィア!」

 なんでも、ドロリィスは学科の単位が少し足りないらしい。テストも赤点ばかりだとか。

「実技だけは、ワタシの方が上だ! 今に見ていろ。必ず卒業してみせるからな!」

「アーシはもう、卒業単位を取っとる。じゃから、もう学校に行かんでもええもーん」

 もうシルヴィアは、学校の催し以外は参加しないらしい。

「くっ。あいつはああ見えて、学年トップなのだ。絶対世界は間違っている!」

 ドロリィスは、焼きラーメンを六杯もおかわりした。



「あっ。こんなところにいたんですね? ふたりとも」

 三つ編みおさげの少女が、シルヴィアのキッチンカーにチョコチョコと歩み寄る。

 シルヴィアとドロリィスと、同じ制服を着ていた。が、胸のリボンの色が違う。二人は赤だが、お下げっ子は黄色だ。

「フィーラちゃんやんけ。なんの用じゃ? ラーメンいるんか?」

「お昼は、済ませました。文化祭の件で、生徒会長がお呼びです」

「あー。あいつかー。めんどいのう」

 あれだけ笑顔を振りまいていたシルヴィアが、露骨に嫌な顔をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

処理中です...