フリーター、魔王候補の集まる女子寮の大家になる

椎名 富比路

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第一章 フリーター、魔王とダンジョン経営を目指す。

第4話 寿司で祝勝会

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 善子姉さんが、冒険者だったとは。

「あいつはこの一帯を管理する冒険者ギルドの、会長だぞ? ちゃらんぽらんだが、腕は確かだ」

 どうしてあの飲んだくれに、魔王のような友人がいるのか不思議だったが。

「全然、知らなかった」

 しかしなんでまた、異世界の住人が、地球なんかに。

「データ取りが目的だ、って言っていたよな? 自分たちの世界じゃなく、地球を選んだ理由は?」

 過酷な環境にいる冒険者のほうが、明らかに強いだろう。いいデータが取れるはずなんだが。

「地球人は冒険者こそ弱いが、珍しい武器を持っている。ボクの仕事は、それを我が陣営に反映させ、魔物に対策させることだ」

「この場で冒険者を、殺害したりはしないんだな?」

 せっかくダンジョンを手に入れたのに、殺人の犯行現場にされたらたまらん。

「冒険者は、たしかに危険を伴う。とはいえ、我々も殺害はしない」

 ダンジョンは相手が深手を追えば、自動的に冒険者を排出するという。
 そのための装置が、【ダンジョンマスター】らしい。
 オレはちょっとだけ、ホッとした。

「とはいえ、治療は冒険者自らがせねばならんから、大変だぞ」と、ドナが付け加える。

「こちらに冒険者がいるように、異世界に地球から召喚される者もいるからな」

 異世界転移って、フィクションだけの世界だけだと思っていたが、本当にあるんだな。

「どうも、魔王ドナ。ここなら、いいデータが取れそうだ」

「ここなら、魔王城にアタック予定の冒険者も来る。研究には、ちょうどいいだろう」

 オレは、「ちょい待った」と、手を上げた。

「あんた、魔王の配下なんだよな? こっちにいるドナが、あんたのボスか?」

「ドナ・ドゥークー嬢は、我々の管轄ではない」

 召喚士は、ドナとは違う世界にいる魔王の配下らしい。

「ああ、あの魔王か。彼は珍しいもの好きだから、おおかた地球の文明に目をつけたか」

「軍事力を目当てに地球に使者を送り込んで、現地で戦争でもやらかすってのか?」

「いや。どうせ新型のiPhoneが目当てだろう」

『地球でこんなの買っちゃった』ってのが、魔王にとってのステータスなのだという。

 どんな価値観だよ? 

「では、研究に没頭したいので、この辺で」

「ああ。カズヤの参考になっただろう。邪魔をした」

 ドナから話を振られて、オレはダンジョンマスターの召喚士に頭を下げた。

「お買い上げ、ありがとうございます」

「いや。こちらもいい物件をありがとう」

 購入者が、いい人でよかったなあ。

「さて、就職祝いとして、ごちそうしようではないか」

 気がつくと、もう夕方じゃないか。どおりで腹も減るわけだ。

「寿司にしよう。行くぞ、カズヤ」

 社長なんだ、きっと回らない寿司に入るのだろう。
 そう思っていた。
 しかし連れて行かれたのは、バリバリ回転寿司である。

「うまい。この塩〆カレイとやらは、実にさっぱりしていていいではないか。実によい」

 しかも魔王にもかかわらず、ドナは一二〇円の一番安いネタばかり頼んだ。

「高級な寿司屋とかには、行かないんだな?」

「私はコスパが良くて、うまい店が好きなんだ。値段が書いていないネタなんて食えるか」

 庶民派で、親しみやすい発言だ。
 やけに貧乏性だな。その姿勢は、仕事にも現れている。

「ボロいダンジョンでも、売れるんだな?」

「逆だ。さっきも言ったぞ。ボロいダンジョンほど、手入れすれば売れると」

 新築のダンジョンの場合、まずは土地から買う必要がある。
 オレから崖を買ったように、新設するケースもあるが、条件が悪いほどいいらしい。

「どうしてだ?」

「競合しないからだ」

 競争相手・ライバルがいないなら、その土地は独占し放題なわけだ。

「特に地球物件は、他の異世界と違って魔素が少ない。需要がないのだ」

 弱い魔物が住むには、ちょうどいい物件が大量にあるらしい。

「とかく他の魔王共は、条件がよく、強固な物件を求めたがる。価格が高価で、維持費も大変だというのに」

 魔王の世界は、見栄っ張りが多いという。

「私はプライドを捨て、管理はお前のようなものに任せてもOKな物件しか求めないことにした。スモールビジネスというやつだ」

 ドカンと高いものを買って、デカく儲けるのではない。小さく始めてリスクを最小限に留めることが秘訣だと、ドナは考えている。

「だが、父に理解されなくてな。コンパクトに攻め込むのはいいが、ビジネスはでかくというのが、父の考えなんだ。スモールビジネスは、商売したての者がすることだと」

 なので、ドナは父親の会社から独立して、自分で生計を立てていると。

「地球には、安くて使われていないダンジョンが多い。しかし他の魔王共は、それを取り壊して若者受けのダンジョンばかり作ろうとする。元々あったものをリフォームしたほうが、安上がりなのに」

 ドナの口調が、ヒートアップしてきた。

「あんたが地球でビジネスをしているのは、親父さんに認めてもらうためなんだな?」

「それもあるな。しかし、地球はあまり魔物に対する環境に乏しい。魔素が少ないからな。私が整えてやりたいという気持ちもある。しかし、予算は最低限でいいだろう」

「わかるぜ。大金稼いでも、しょうがねえもんな」

 デカく儲けて会社を大きくすると、その分だけ責任が伴う。負担も大きい。

「理解してもらえるか?」

「オレがいいかげんなだけだよ。自分が食えるだけ稼げればいいって思っているし」

「それでいい。まずは生活基盤を見直すところだな」

 これで、ドナと意見は一致した。

「地球と異世界は、繋がっているんだよな?」

「ある程度は」

「異世界人にとって、地球に住むメリットは?」

 ドナはハマチを食いながら、「そうだな」と天井を見上げる。

「情報集めだ」

「侵略とか、言わないんだな?」

「そういうヤツもいた。こちらの人間が、神話と呼んでいる時代にな」

 あれって、マジの話だったのか。

「で、侵略はあきらめて、せめて文明だけでも手にできないかと、模索しているところだ」

 中には、地球とのパイプが繋がらない国もある。土地を発達させたくても、現地人の反対を食らってしまうこともあるとか。
 異世界が中世ヨーロッパ風にとどまっている国が多いのは、そういう関係らしい。

「神が与えし魔素が強くて魔法が使える中で、どうして科学文明なんかを崇拝しなけ
ればならないのかと」

 まるで、「宗教上の理由」みたいだな。結局利権、政治的理由かよ。

「冒険者と、こっちで戦争になったりは?」

「魔物側も、いさかいなどは起こしたくないんだ。地球から出禁を食らうからな」

 ヘタに戦争なんてすると、土地が荒れる。そうなると、土地の価値が下がるのだ。

「善子姉さんも、冒険者だって」

「あいつは今でも、最強クラスの冒険者だぞ」

 たしか、ギルドの会長だって言っていたっけ。


「旅人だとばかり思っていたぜ」

「あいつのウソを、真に受けていたのか。それも一般人の思考なら、仕方あるまい」

 どおりで、働いている気配もないのに、やたらと高いお土産を買ってくると思っていたけど。

「善子はカズヤのことを、ずっと気にかけていた。お前が子どもの頃からな」

 たしかに、オレはガキの頃から「見える」系の人間だった。それでからかわれたりして、人付き合いが苦手になったのである。気がつけば、フリーター以外に生きる道がなくなっていた。まともな仕事につけないのだ。

「かといって、腕っぷしもなく、善子はお前を鍛えようがなかったそうだ。魔物を積極的に倒すような性格でもない、と。そこで、ダンジョン不動産業はどうかと提案してきた」

 そうだったのか。

 たしかにオレは、ゲームでも魔物を味方につけるほうが好きだったな。

「できるかどうか、わからないぜ」

「構わない。しかし、どの仕事よりもお前に向いていると、私は確信しているぞ」

 そこまで買われているなら、やってやろうじゃないか。

「では、今後ともよろしく。魔王ドナ」

「うむ。こちらこそ。では帰ろう」

 再び、ガイコツが運転する車に乗った。
 オレのアパートに、車が到着した。
 なぜか、ドナまで一緒に降りる。

「今日はありがとう。じゃあ」

「なにを言っているんだ? 私もここに住むのだぞ」

「え?」

「今日からここが、仮拠点だ」

 ドナの所有する魔王城は、オレのアパートらしい。どこまで倹約家なんだと。

(第一章 完)
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