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第一章 フリーター、魔王とダンジョン経営を目指す。
第2話 代表取締役 魔王
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オレは魔王ドナにつれられて、崖の下に向かう。
「マジかよ。こんな場所に洞窟なんて作って、何をする気なんだ?」
「見ればわかる。よし、来たな」
ずんぐりむっくりした集団が、ワラワラと森から現れる。
あれはドワーフってやつか? ゲームだとおなじみの種族に見えるが、現代日本にこんなのが現れるなんて。
「呼ばれて飛び出てきたぜ。ドナのお嬢ちゃん。これが、新しいダンジョンだな?」
「うむ。トラップの建築、よろしく頼む。空いたスペースは、居住区にしてくれていい」
「ありがてえ。家族が増えて、根城が手狭になっていたところだったんだ」
崖の入り口から、中へ入っていった。
「この【玄室】は?」
ダンジョンの中にある狭小スペースのフロアを、【玄室】という。中国では、「お墓の墓室」をそう呼ぶらしい。ゲームではいわゆる【エンカウント部屋】とも呼ばれ、この部屋に入るとほぼ必ず魔物と遭遇する。レベル上げや、お宝集めなどに利用されるのだ。
「一部屋しか、ないじゃん。ダンジョンだよな?」
ダンジョンと言う割に、通路と部屋が一つしかない。
もっと複雑な通路があると、思っていたのだが。
通路はまだ作成中で、通ることはできない。
「小さすぎないか? こんなところに住みたい魔物なんて、冬眠しに来るクマくらいじゃ……」
「そこはただの、物置だ。作業用の倉庫だな。一番下の階が片付いたら、道具を上のフロアに移すよ」
ドワーフの大将が、そうドナに説明する。
「あとは、ほっといて大丈夫だな」
魔王が、ドワーフになにやら赤い石を渡す。
「ああ、一ヶ月後な」
石を受け取って、ドワーフのボスは洞窟の中に消えていった。
ドワーフと会話を終えて、魔王はその場を後にする。
「あの崖は、どうなるんだ?」
「ダンジョンになる。ダンジョンマスターに売って、モンスターを配置して、冒険者を招き入れるのだ」
ビフォーアフターってのがあるが、いくらなんでもビフォーアフターすぎるだろ。
「カズヤよ。お前がこのダンジョンをマスターに貸して、家賃をもらうってわけだ。別に、難しい知識は必要ない。多少のファンタジー知識があるなら、たいていの専門用語もわかるだろう」
そうかもしれないけど。
「待ってくれ。オレはまだ、引き受けるなんて言っていない。だいたい、どうしてオレなんだ? あんたが管理すればいいじゃんか」
「自社物件を抱えているといって、私は仲介会社の代表に過ぎん。ダンジョンの管理は、別の業者に任せているのだ」
だが、ここ限定で言えば、オレが適任だという。
「他の会社は、でかくて人の集まるダンジョンしか管理したがらない。狭小の方が儲かるというのに」
「オレにそんな素養があるとは思えない」
「私と話ができる時点で、お前はもう素質がある」
たしかに。異世界の住人だもんな。
「不動産業だよな?」
「そうだ。まあ、代表取締役のようなものだ。といってもかしこまることはない。ドナと呼んでくれていいぞ」
魔王って、会社の社長のようなものなのか。呼び捨てでいいとか。
「ダンジョンで不動産ビジネスとか、どうすればいいのか」
「じゃあ、実際にやってみればいい。今から体験してもらう」
「今から?」
「ああ。ちょうどいい顧客がいる」
ガイコツの運転する車で、繁華街へ。
「どこに行くんだ? ていうか、ガイコツが運転してて、誰にも怪しまれないなんて」
「スケルトンは、周りには美人秘書にしか見えておらんよ」
オレのような見える人だけが、スケルトンの正体を知れるらしい。
「ドナさんよお。オレは不動産のノウハウなんて、知らないぜ。まして、ダンジョンなんて。第一、戦うんだよな? 人間と」
「なにも、お前に戦えなんて言わん。ただ、ダンジョンの大家になってもらう。いわゆるオーナーシップだな」
ドナのように迷宮を作るのではなく、かといって、ダンジョンを守るわけでもない。元からあるダンジョンを管理すればいいという。建築の知識などは、特になくていいそうだ。やっていけば、覚えるのだとか。
「ダンジョンマスターとは、違うのか?」
洞窟を拡張したり、侵入してきた冒険者を追っ払うイメージがある。
「マスターは、ダンジョンに直接住む者のことだ。魔王は、ダンジョンマスターの財政を管理する」
つまり不動産投資である、と。単に、家賃を徴収する側だという。
「不動産投資家は、いいぞ。勤めなくていい。多少は知識やダンジョンの維持・管理は必要だが、それくらいだ。なにより、不労所得が手に入る」
人と会うのも、たいてい異世界の住人だけらしい。
「モンスターや異世界人の方が、お前にとっては話しやすいだろう」
「どうしてわかるんだよ?」
「私とは、気軽に話せている」
あー。
「よし、わかった。あんたの部下になります」
「ありがとう。詳しい契約などは後日するとして、ダンジョンに向かおう」
で、オレが監督するというダンジョンを見せてもらう。
「でかいな」
オレが管理していいと言われたダンジョンは、それなりの大きさがあった。
「こんなの、オレ一人で管理できるかな?」
「慣れれば、大丈夫だ。おっ、さっそくお客さんが来たぞ」
パーカーを被った男性が、ダンジョンを訪ねてきた。
「こんにちは……」
彼が買い手だろうか。
「いらっしゃい。このダンジョンに用事があっていらしたのか?」
先程の魔王然とした態度がなりを潜め、ドナは営業スマイルを披露する。
「魔物専門ギルドの張り紙を見てきた。このダンジョンを所有したい」
買い手だったよ。マジで、買いに来るヤツがいるのか。こんなダンジョンを。
ドナが、ダンジョンの空室の壁に手を添えた。人間一人が生活できる、最低限のスペースが。ダンジョンのマップって、たまに黒く塗りつぶされている場所があるが、ダンジョンマスターの部屋だったのか。
「いかがか? 生活スペースはもちろん、生活用品も完備、口調においても万全を喫しており」
「ダメだ」
「は?」
アピールしていたドナの、動きが止まる。
「大きすぎる。これでは予算と釣り合わない」
「お客様の提示された金額では、我々が所持している物件の中でもこれが最も小さいお部屋で」
だが、男は首を振った。
「もっと小さくていい。こちらの生活空間など、考慮しなくていいと言ったはずだ」
男性は研究職で、研究費のために住居予算を抑えたいそうだ。
「これ以上は、お客殿の予算だと難しい」
「では、他を当たるとしよう」
おいおい、せっかくのお客を逃してしまう。
なにもできずに、終わるのか? ただ、見ているしかないなんて。初仕事だよな? こんな、ほろ苦デビューでいいのかよ? いいわけねえだろ!
待てよ。狭小スペース……あるじゃねえか! あそこにあった!
だったら、やるしかねえ!
「待った待った! いい物件がある!」
帰ろうとするローブの男の進路を、オレは身を挺して遮った。
「人間が、何の用だ?」
「オレは今さっき、魔王に雇われたんだよ。あんたにピッタリの物件を、オレは知っている!」
ドナの車に男性客も同行してもらう。
オレが提示したのは、さっきのダンジョンだった。出来上がっているのも、一部屋だけ。
「おう嬢ちゃん、用事か? ダンジョンの生成はまだだぜ?」
ドワーフの大将が、ドナの気配に気づいて振り返る。
「カズヤが用事があると」
「そうなんだ。玄室ってあっただろ? もう空いているか?」
オレは、ここの玄室に住んでもらうことを提案した。
「冗談だろ、カズヤ。ここは物置だぞ? そんな部屋に住んでもらえるわけが」
「気に入った」
「え!?」
ドナが、変な声を上げる。
「マジかよ。こんな場所に洞窟なんて作って、何をする気なんだ?」
「見ればわかる。よし、来たな」
ずんぐりむっくりした集団が、ワラワラと森から現れる。
あれはドワーフってやつか? ゲームだとおなじみの種族に見えるが、現代日本にこんなのが現れるなんて。
「呼ばれて飛び出てきたぜ。ドナのお嬢ちゃん。これが、新しいダンジョンだな?」
「うむ。トラップの建築、よろしく頼む。空いたスペースは、居住区にしてくれていい」
「ありがてえ。家族が増えて、根城が手狭になっていたところだったんだ」
崖の入り口から、中へ入っていった。
「この【玄室】は?」
ダンジョンの中にある狭小スペースのフロアを、【玄室】という。中国では、「お墓の墓室」をそう呼ぶらしい。ゲームではいわゆる【エンカウント部屋】とも呼ばれ、この部屋に入るとほぼ必ず魔物と遭遇する。レベル上げや、お宝集めなどに利用されるのだ。
「一部屋しか、ないじゃん。ダンジョンだよな?」
ダンジョンと言う割に、通路と部屋が一つしかない。
もっと複雑な通路があると、思っていたのだが。
通路はまだ作成中で、通ることはできない。
「小さすぎないか? こんなところに住みたい魔物なんて、冬眠しに来るクマくらいじゃ……」
「そこはただの、物置だ。作業用の倉庫だな。一番下の階が片付いたら、道具を上のフロアに移すよ」
ドワーフの大将が、そうドナに説明する。
「あとは、ほっといて大丈夫だな」
魔王が、ドワーフになにやら赤い石を渡す。
「ああ、一ヶ月後な」
石を受け取って、ドワーフのボスは洞窟の中に消えていった。
ドワーフと会話を終えて、魔王はその場を後にする。
「あの崖は、どうなるんだ?」
「ダンジョンになる。ダンジョンマスターに売って、モンスターを配置して、冒険者を招き入れるのだ」
ビフォーアフターってのがあるが、いくらなんでもビフォーアフターすぎるだろ。
「カズヤよ。お前がこのダンジョンをマスターに貸して、家賃をもらうってわけだ。別に、難しい知識は必要ない。多少のファンタジー知識があるなら、たいていの専門用語もわかるだろう」
そうかもしれないけど。
「待ってくれ。オレはまだ、引き受けるなんて言っていない。だいたい、どうしてオレなんだ? あんたが管理すればいいじゃんか」
「自社物件を抱えているといって、私は仲介会社の代表に過ぎん。ダンジョンの管理は、別の業者に任せているのだ」
だが、ここ限定で言えば、オレが適任だという。
「他の会社は、でかくて人の集まるダンジョンしか管理したがらない。狭小の方が儲かるというのに」
「オレにそんな素養があるとは思えない」
「私と話ができる時点で、お前はもう素質がある」
たしかに。異世界の住人だもんな。
「不動産業だよな?」
「そうだ。まあ、代表取締役のようなものだ。といってもかしこまることはない。ドナと呼んでくれていいぞ」
魔王って、会社の社長のようなものなのか。呼び捨てでいいとか。
「ダンジョンで不動産ビジネスとか、どうすればいいのか」
「じゃあ、実際にやってみればいい。今から体験してもらう」
「今から?」
「ああ。ちょうどいい顧客がいる」
ガイコツの運転する車で、繁華街へ。
「どこに行くんだ? ていうか、ガイコツが運転してて、誰にも怪しまれないなんて」
「スケルトンは、周りには美人秘書にしか見えておらんよ」
オレのような見える人だけが、スケルトンの正体を知れるらしい。
「ドナさんよお。オレは不動産のノウハウなんて、知らないぜ。まして、ダンジョンなんて。第一、戦うんだよな? 人間と」
「なにも、お前に戦えなんて言わん。ただ、ダンジョンの大家になってもらう。いわゆるオーナーシップだな」
ドナのように迷宮を作るのではなく、かといって、ダンジョンを守るわけでもない。元からあるダンジョンを管理すればいいという。建築の知識などは、特になくていいそうだ。やっていけば、覚えるのだとか。
「ダンジョンマスターとは、違うのか?」
洞窟を拡張したり、侵入してきた冒険者を追っ払うイメージがある。
「マスターは、ダンジョンに直接住む者のことだ。魔王は、ダンジョンマスターの財政を管理する」
つまり不動産投資である、と。単に、家賃を徴収する側だという。
「不動産投資家は、いいぞ。勤めなくていい。多少は知識やダンジョンの維持・管理は必要だが、それくらいだ。なにより、不労所得が手に入る」
人と会うのも、たいてい異世界の住人だけらしい。
「モンスターや異世界人の方が、お前にとっては話しやすいだろう」
「どうしてわかるんだよ?」
「私とは、気軽に話せている」
あー。
「よし、わかった。あんたの部下になります」
「ありがとう。詳しい契約などは後日するとして、ダンジョンに向かおう」
で、オレが監督するというダンジョンを見せてもらう。
「でかいな」
オレが管理していいと言われたダンジョンは、それなりの大きさがあった。
「こんなの、オレ一人で管理できるかな?」
「慣れれば、大丈夫だ。おっ、さっそくお客さんが来たぞ」
パーカーを被った男性が、ダンジョンを訪ねてきた。
「こんにちは……」
彼が買い手だろうか。
「いらっしゃい。このダンジョンに用事があっていらしたのか?」
先程の魔王然とした態度がなりを潜め、ドナは営業スマイルを披露する。
「魔物専門ギルドの張り紙を見てきた。このダンジョンを所有したい」
買い手だったよ。マジで、買いに来るヤツがいるのか。こんなダンジョンを。
ドナが、ダンジョンの空室の壁に手を添えた。人間一人が生活できる、最低限のスペースが。ダンジョンのマップって、たまに黒く塗りつぶされている場所があるが、ダンジョンマスターの部屋だったのか。
「いかがか? 生活スペースはもちろん、生活用品も完備、口調においても万全を喫しており」
「ダメだ」
「は?」
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「大きすぎる。これでは予算と釣り合わない」
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だが、男は首を振った。
「もっと小さくていい。こちらの生活空間など、考慮しなくていいと言ったはずだ」
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「これ以上は、お客殿の予算だと難しい」
「では、他を当たるとしよう」
おいおい、せっかくのお客を逃してしまう。
なにもできずに、終わるのか? ただ、見ているしかないなんて。初仕事だよな? こんな、ほろ苦デビューでいいのかよ? いいわけねえだろ!
待てよ。狭小スペース……あるじゃねえか! あそこにあった!
だったら、やるしかねえ!
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「オレは今さっき、魔王に雇われたんだよ。あんたにピッタリの物件を、オレは知っている!」
ドナの車に男性客も同行してもらう。
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「おう嬢ちゃん、用事か? ダンジョンの生成はまだだぜ?」
ドワーフの大将が、ドナの気配に気づいて振り返る。
「カズヤが用事があると」
「そうなんだ。玄室ってあっただろ? もう空いているか?」
オレは、ここの玄室に住んでもらうことを提案した。
「冗談だろ、カズヤ。ここは物置だぞ? そんな部屋に住んでもらえるわけが」
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