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第一章 転生した身体は、木でできていた

第6話 冒険者と遭遇

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「キミ、大丈夫!?」

 パロンが、冒険者らしき少女に駆け寄った。

「はい。なんとか」

 少女の装備は、緑色のベストと短パン、薬草の入ったカゴの他には、弓がある。しかし、武器は真っ二つに折れちゃっていた。

「ワタシは、パロン。この子は、コーキだよ。あなたは? 見た感じだと、【レンジャー】だね?」

「アザレアです」

「毒をもらっているね。これを」

 まずパロンが、自前のポーションをアザレアに分け与える。

「ありがとうございます。いただきます」

「何があったの?」

「仲間とはぐれた際に、魔物に襲われまして」

「魔物って、イノシシの?」

 ボクはとっさに、さっき現れたキングボアを想像した。

 しかし、は首を振る。

「違います。わたしを襲ったのは、ウルフです」

 ウルフは比較的弱く、一人でも対処しやすい。ただ、それは一体だけの場合だ。集団になったら、並の冒険者だと結構手こずるという。

「今でも、わたしの持っている薬草を狙っています」

 気がつくと、ボクたちはウルフに囲まれていた。

「シドの森は、森の賢人たちによる結界で、比較的安全なんだ。しかし、魔物に襲われないって意味じゃない。魔物だって、相手を自分たちの縄張りにおびき寄せることだってある」

 どうやら少女は、魔物の狡猾な作戦にひっかかってしまったようである。

「心配しないで。ウルフくらい、どうってことないから」

 そう言ってパロンは、カゴから溢れていた薬草を掴み取った。

「この薬草は、売り物だね。どこまでが?」

「はい。これとこれが、依頼品です」

 売り物の薬草以外は、自分でポーション作りのために保存するのだとか。

「じゃあ、依頼品以外を使わせてもらうよ。こっちで、買い取るからね」

「はい」

「次は、コーキにお願いするよ」

 続いてパロンは、ボクの身体から生えているツタから、果物を借り受けた。

「キミの身体から生えているフルーツも、いただくから」

「わかった」

 ブドウをむしって、パロンは手をあわせた。両手のひらの中で、薬草といっしょにブドウをすり潰す。

 紫色の霧が、パロンの手から立ち込めはじめた。

「大地の精霊よ、我らの前に立ちふさがる悪しき魂に、眠りを……【ヒュプノス・デュー】!」

 パロンが、【眠りの露ヒュプノス・デュー】という魔法を放つ。

 あれだけ殺気立っていたモンスターたちが、霧を吸っただけで眠りにつく。

「この魔法は?」

「神経毒の一種だよ。弱い魔物は、この毒霧を吸っただけで、眠ってしまう」

 すごい。これが、パロンの力か。

「数が多かったからね。これで片付けさせてもらった」

 ウルフをすべて眠らせて、パロンは必要な分の素材だけを手に入れた。自分たちに向かってきたウルフに限定して、肉や爪などをもらっていく。

「ありがとうございます」

「いえいえ。アザレア。キミを見つけたのは、コーキだから」

 ウルフの身体から、パロンが白い石を取り出す。換金アイテムかな? もしかすると、あれがパロンの言っていた【魔法石】かも。

「はい。コーキさん、ありがとうございました」

 アザレアが、ボクにお礼を言ってきた。

「無事で何よりだった。それより、仲間がいるんだよね? あっちの方角から、地面を踏む気配があるんだけど」

 大急ぎで、こちらに走ってくる振動がする。

「そんなこともわかるの、コーキ?」

「ボクも、たまたまわかっただけだよ」

 足音が、だんだんと大きくなった。

「無事か、アザレア!」

 革製のヨロイを来た中年男性が、アザレアに声をかける。ボクとパロンの顔を見て、男性が一瞬剣に手を伸ばす。が、すぐにひっこめた。 

「大丈夫だよ、父さん。この人たちが助けてくれたの」

「そうか……オレはガルバ。あんたたちが、娘を助けてくれたようだな。ありがとう」

 どうやらガルバという男性は、アザレアのお父さんみたい。

「ワタシはパロンだよ。こっちが、コーキ。よろしくね」

「パロン……錬金術師の魔女様か。感謝する」

「まあまあ。困ったときは、お互い様だから」

 ガルバが、辺りを見回す。

「これは、パロン殿がやったのか?」

 相手をしていた魔物が急に眠りだしたので、ガルバは何が起きたのかを確認に来たのだという。

「まあね。大勢を無力化するなら、戦うよりいいかなって」

「凄まじいな。あなたが敵でなくてよかった」

「敬称は必要ないよ。ささ、街へ戻ろう」

「うむ。こっちだ」

 ガルバに案内されて、街に行く道へと進む。

 途中、オウルベアが襲ってきた。

「夜行性だからね、コイツに眠りは効かないか」

「任せろ」

 ガルバが、盾を構える。オウルベアの爪攻撃を、強靭な鉄の盾で受け止めた。

「おおお!」

 ショートソードで、ガルバがオウルベアの腹を斬る。

 オウルベアは、力尽きて倒れた。

 魔物が目の位置から、石のようなものを落とす。

 こぼれた石を、ガルバが回収する。

「強いですね」

「たいしたことはないさ。おそらくパロンのほうが、スマートに倒してしまうだろう」

 ガルバが、剣を収めた。ナイフを使って、オウルベアの素材を剥ぎ取る。

「うわ、まって!」

 もう一体のオウルベアが、真上から降ってきた。無防備のガルバに向かって。

「しまった!」

「任せて、ガルバ!」

 オウルベアの存在に気づいていたボクは、全身からツタを伸ばして魔物を締め上げる。

 どうにか、オウルベアを気絶させた。 
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