音痴なせいで追放された旅芸人、吟遊詩人に転職して神ギタリストに

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
8 / 10

音痴歌姫の本音!

しおりを挟む
 その後もムロはラップで場を唸らせ、鬼神のようなシャウトで会場をどよめかせた。

 大盛りあがりのまま、ステージは終わる。

 ライブの後、本格的な話し合いがなされた。

 決まったのは、
「ムロがあと数年で、結婚のために抜ける。それまでバンドは続けていい」
「グァルディーニは民主国家に生まれ変わる」
 の二点だ。

 最初こそ抵抗していたが、ムロの両親は最終的に渋々承諾した。

「お前のおかげだぞ。ありがとなーセラ」

 婚約披露パーティで、ムロがセラの肩をバシバシと叩く。もう片方の手には、大きな骨付き肉を持っていた。

「いえいえ! ムロさんの勇気のおかげです」

 最終的に、なんでも解決したのはムロである。自分は知恵を出しただけ。セラを信じて実践したのはムロだ。

「結婚したら、あたしはお前を大使に任命するぞー」
「ムリムリ! 胃に穴が空きますよ!」

 どこまで出世してしまうのか、自分は。

「よかっったなムロのやつ。バンドを続けていてよかったよ」

 ナオも、自分のことのように喜んでいる。

「本当ですね」
「ようやくウチも、人の役に立てたんだなって思ったよ」

 はしゃぐムロを見ながら、ナオガため息をつく。

「そんな。ナオさんは立派です。色んな人を助けているじゃないですか」
「誰も助けてないよ。ウチは。ただやりたいことをやっているだけ。結果的に、みんなが喜んでいるだけだって、あんたを引き入れたときにわかった」
「どういうことですか?」

 問いかけようとしたとき、ムロがアコースティックギターを持ってやってきた。

「ナオー、悪いんだけど一曲頼めるか?」
「うん、任せろ」

 ナオはステージに上がる。ムロのコンガに合わせて歌声を響かせた。ギターを「それなりにうまく」弾きながら。コード進行のみで、特に凝ったアレンジなどはしない。しかし、心に突き刺さるサウンドだった。

 一曲終えると、しみじみとした拍手を送られる。観客にも、ナオの誠実さが伝わったに違いない。

「ごめんね。下手くそだったでしょ?」
「素敵でした。ギター弾けたんですね?」
「違うんだ。アコースティックは、死ぬほど練習した。させられたって、言えばいいかな……」

 レティが側について首を横に振った。

 だが、ナオは話を続ける。

「ウチさ、吟遊詩人一家に生まれたんだけど、特に落ちこぼれで。魔法は使えたんだけれど、楽器が何もできなかった」

 魔法と演奏の両立は、特に難しい。
 特に歌いながらの楽器演奏は、口と手でまったく違う音を出す必要がある。調節が困難で、挫折する人が多い。

 音痴なセラは、演奏だけに集中できる。しかしナオは、歌だけはできるが演奏は難しい。

 ナオも凡人、いや、それ以下だったのだ。
 才能が、なかったのだと……。

「姉が楽器音痴について詳しいのは、そのためさ。結局ウチは、使えないって烙印を押されて家族から追い出された」
「お姉さんは?」
「妹を外すなら自分も外れる、って言ってさ。知ってた? レティ姉さんって昔はガリガリだったんだよ? ウチの服の大半は、姉が着られなくなった服なの。このドレスだってさ」

 ブルーのミニスカートをつまみながら、ナオはクスっと笑った。

 ジョークで笑わせるつもりだったのだろう。

 しかし、セラは表情を変えることができない。

「妹もついてきてくれたんだけれど、凄腕の冒険者パーティにスカウトされてさ。やっぱり才能のある子は違うなって、思い知らされた。『行けば?』って、強がっちゃった」

 決して、円満ではなかったのだ。

 ナオにも、こんなに重い一面があったなんて。

「でも、本当にバカだったのは、ウチだった。歌だけでも認められているんだから、そっちで頑張ればよかったんだ。『ギターはセラが弾いてます』って暴露してさ」

 こんなにも卑屈なナオは、初めて見た。

「わたしは、日陰者で構いません。みんな、あなたを見に来ているんですよ? 誰が弾いているとか、関係ないじゃないですか」

 ちっともうれしくない。ギターが上手いって言われたって。

「セラ、でもあんただって、歌手になりたくて遠出してきたんだろ?」
「最初だけです。みなさんと旅をして、自分の目標がいかに小さかったかわかったんです。わたしが目立ったところで、観客のみなさんは共感できないんだろうなって」

 セラとナオでは、背負っているものが違う。

「たしかにわたしも最初は、ナオさんに裏切られた気分でした」

 とはいえ、セラはナオと決定的な差があることに気づいた。

 自分はギターを「ちゃんと」弾けるだけ。魂までこもっていたかどうか怪しい。独り立ちするにも、そんな度胸があるかどうか。

 けれど、ナオは弾いていないにもかかわらず、会場をアレだけ沸かせるのだ。ナオの人柄が、観客に浸透しているせいだろう。

「あんたのほうが、ウチからするとうらやましいんだけど?」
「ご冗談を! ほらナオさん、もう一曲頼むって言われてしますよ! 早く早く」

 セラは、ナオの背中を押す。

 自分は脇役の、ギター弾きで十分なのだ。  

 しかし、バンドが存続の危機に陥ってしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】追放された実は最強道士だった俺、異国の元勇者の美剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどまで成り上がる

岡崎 剛柔
ファンタジー
【あらすじ】 「龍信、貴様は今日限りで解雇だ。この屋敷から出ていけ」  孫龍信(そん・りゅうしん)にそう告げたのは、先代当主の弟の孫笑山(そん・しょうざん)だった。  数年前に先代当主とその息子を盗賊団たちの魔の手から救った龍信は、自分の名前と道士であること以外の記憶を無くしていたにもかかわらず、大富豪の孫家の屋敷に食客として迎え入れられていた。  それは人柄だけでなく、常人をはるかに超える武術の腕前ゆえにであった。  ところが先代当主とその息子が事故で亡くなったことにより、龍信はこの屋敷に置いておく理由は無いと新たに当主となった笑山に追放されてしまう。  その後、野良道士となった龍信は異国からきた金毛剣女ことアリシアと出会うことで人生が一変する。  とある目的のためにこの華秦国へとやってきたアリシア。  そんなアリシアの道士としての試験に付き添ったりすることで、龍信はアリシアの正体やこの国に来た理由を知って感銘を受け、その目的を達成させるために龍信はアリシアと一緒に旅をすることを決意する。  またアリシアと出会ったことで龍信も自分の記憶を取り戻し、自分の長剣が普通の剣ではないことと、自分自身もまた普通の人間ではないことを思い出す。  そして龍信とアリシアは旅先で薬士の春花も仲間に加え、様々な人間に感謝されるような行動をする反面、悪意ある人間からの妨害なども受けるが、それらの人物はすべて相応の報いを受けることとなる。  笑山もまた同じだった。  それどころか自分の欲望のために龍信を屋敷から追放した笑山は、落ちぶれるどころか人間として最悪の末路を辿ることとなる。  一方の龍信はアリシアのこの国に来た目的に心から協力することで、巡り巡って皇帝にすらも認められるほど成り上がっていく。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...