7 / 10
ライブで婚約宣言!
しおりを挟む
会場には、東の大陸覇者グァルディーニ王国の国王夫妻が来賓していた。ムロの両親である。
「大陸でも流しれているって、すごいバンドですね!」
「最初にウチに目をつけてくれたのは、ムロだったのよ」
セッティングしながら、セラはレティと語り合う。
「当初は、ウチらにムロが色々と都合をつけてくれてたんだ。ホテルのグレードとか、ファンを避ける抜け道とか」
そのうちにバンドが全世界で知られるようになってからは、レティが全部仕切るようになった。
「マネジメントを外注せずに身内がしているのは、ムロさんの存在を隠すためだったんですね?」
「それもある。けれど一番の理由は、外の力が入ることでウチらの持ち味が死んでしまうことかな?」
音楽性や民族性など、「もっと売るために」という圧がどうしても入ってくる。
下手に従うと、彼らの方がバンドを当てにしてしまう。それでは、彼らを設けさせるためのバンドに成り下がる。ナオはそれを恐れたのだ。
「最初、セラを入れるのも色々と揉めた。でも、あんたの人柄を見て全員が採用で一致したんだよ」
こんな最高のバンドに拾ってもらって、セラは幸せだ。
だから、ムロにも幸せになってほしい。
セラの提案は、そんな気持ちからである。
「みなさま、本日はお越しくださってありがとうございます」
一人の少女がステージに上った瞬間、会場のボルテージがマックスになった。
アンブロジア王女が、数年ぶりに姿を見せたのである。アンブロジアことムロは、いつもの乱暴な口調を控え、おしとやかな話し方をしていた。衣装もキグルミではない。黄色いドレスである。
当然、これに驚かない国王夫妻ではない。
「お父様、お母様、今まで姿を見せなくてごめんなさい!」
ステージ上で、国王に頭を下げる。
「今日は、ストポ半島領主である、セプコネ王子のプロポーズにお返事したいと思います」
地響きがするほど、会場がどよめいた。
「王子、こちらへ」
ムロが、ステージ最前列にいる王子をステージに上げた。
褐色天パの王子が、照れくさそうに舞台に上がる。
「セプコネ王子、今までお返事を先送りにして、申し訳ありませんでした。私は、世界中を回って、我が国が今こそ何をなすべきが、見聞を広めてきたのです」
面白いように、ムロが口からでまかせを言う。
「私は彼女らによって、保護してもらっていました。バンド活動のかたわら、魔物や悪漢共から私を守ってくれていたのです。私もバンドのメンバーを仮の姿として、身を潜めていました」
嬉々としてモンスターを大剣で叩き潰しているのは、王女の方なのだが。
周りはそんなこと、思ってもいないだろう。
「あなたのプロポーズ、謹んでお受け致します。ぜひとも、私を妻にしてください」
王子は、喜びを噛み締めつつお辞儀をする。
国王夫妻もうれしそうだ。
「ですが、我が国には帰りません!」
さっきまで喜んでいた国王夫妻が、凍りつく。
「待ってくれアンブロジア! これは、いったいどういうことだ?」
「国に帰らず、こちらでお世話になると言ったのです。それでよろしければ、王子の求婚をお受け致します」
さらに驚愕する両親たち。
さしもの王子も、困惑していた。
「それでは意味がないだろ! このままだと、我が国力が維持できなくなる! アンブロジアが王子を連れてくることが頼みの綱だったのに!」
国王が、本音らしい言葉を漏らす。
悲しげな表情で、王子がうつむく。
「あーもう! いいかげんにしろよなーオヤジはよぉ!」
とうとう、ムロが本性を表した。
「そういうところがダメなんだよ! あんたはもう限界なんだ。国が傾いているのは、あんたのせいだろうが! 民主化しちまえってんだ! 国民が信用できねえのかよ?」
ガニ股で、ステージからムロが国王にガンをたれる。
「あたしは信じるぜ! いろんな世界を見てきて、やっぱあたしの国は地べたにいようが立ち直れるっての!」
なぜかムロが、ナオからマイクを取り上げる。
「今日は、あたしが歌うぜ! 母国のために! ミュージックスタート!」
セラが、ギターをかき鳴らす。
地獄の亡者の如き声を、ムロが発した。
「え、デスメタル!?」
リハーサルと違う!
全部アドリブじゃないか!
ぶっ壊れている!
曲もメロディも芸風も全部が!
もっとブルースっぽかった歌にする予定だったのに!
もはや、ついていくのがやっとである。
こちらもアドリブで、即興メタルを披露した。
盛り上がっているから、正解なのだろう。
ムロに置いていかれないように、レティは首をブンブンと振りながらスティックを打つ。
どうして今日はレティがドラムに回っているのか、その謎がようやく解けた。このためだったのか。
ムロが盛大にシャウトしては、ナオがメロディアスな歌声で場を浄化する。
なんにせよ、恐るべきはムロだ。よくもまあ、あれだけ舌が回る。早口でデタラメな歌詞をまくし立て、会場を沸かす。
ステージは置いてけぼりどころか、王女がヒートアップするたびに手拍子が鳴る。
一曲を終えると、怒涛のような歓声が上がった。
「大陸でも流しれているって、すごいバンドですね!」
「最初にウチに目をつけてくれたのは、ムロだったのよ」
セッティングしながら、セラはレティと語り合う。
「当初は、ウチらにムロが色々と都合をつけてくれてたんだ。ホテルのグレードとか、ファンを避ける抜け道とか」
そのうちにバンドが全世界で知られるようになってからは、レティが全部仕切るようになった。
「マネジメントを外注せずに身内がしているのは、ムロさんの存在を隠すためだったんですね?」
「それもある。けれど一番の理由は、外の力が入ることでウチらの持ち味が死んでしまうことかな?」
音楽性や民族性など、「もっと売るために」という圧がどうしても入ってくる。
下手に従うと、彼らの方がバンドを当てにしてしまう。それでは、彼らを設けさせるためのバンドに成り下がる。ナオはそれを恐れたのだ。
「最初、セラを入れるのも色々と揉めた。でも、あんたの人柄を見て全員が採用で一致したんだよ」
こんな最高のバンドに拾ってもらって、セラは幸せだ。
だから、ムロにも幸せになってほしい。
セラの提案は、そんな気持ちからである。
「みなさま、本日はお越しくださってありがとうございます」
一人の少女がステージに上った瞬間、会場のボルテージがマックスになった。
アンブロジア王女が、数年ぶりに姿を見せたのである。アンブロジアことムロは、いつもの乱暴な口調を控え、おしとやかな話し方をしていた。衣装もキグルミではない。黄色いドレスである。
当然、これに驚かない国王夫妻ではない。
「お父様、お母様、今まで姿を見せなくてごめんなさい!」
ステージ上で、国王に頭を下げる。
「今日は、ストポ半島領主である、セプコネ王子のプロポーズにお返事したいと思います」
地響きがするほど、会場がどよめいた。
「王子、こちらへ」
ムロが、ステージ最前列にいる王子をステージに上げた。
褐色天パの王子が、照れくさそうに舞台に上がる。
「セプコネ王子、今までお返事を先送りにして、申し訳ありませんでした。私は、世界中を回って、我が国が今こそ何をなすべきが、見聞を広めてきたのです」
面白いように、ムロが口からでまかせを言う。
「私は彼女らによって、保護してもらっていました。バンド活動のかたわら、魔物や悪漢共から私を守ってくれていたのです。私もバンドのメンバーを仮の姿として、身を潜めていました」
嬉々としてモンスターを大剣で叩き潰しているのは、王女の方なのだが。
周りはそんなこと、思ってもいないだろう。
「あなたのプロポーズ、謹んでお受け致します。ぜひとも、私を妻にしてください」
王子は、喜びを噛み締めつつお辞儀をする。
国王夫妻もうれしそうだ。
「ですが、我が国には帰りません!」
さっきまで喜んでいた国王夫妻が、凍りつく。
「待ってくれアンブロジア! これは、いったいどういうことだ?」
「国に帰らず、こちらでお世話になると言ったのです。それでよろしければ、王子の求婚をお受け致します」
さらに驚愕する両親たち。
さしもの王子も、困惑していた。
「それでは意味がないだろ! このままだと、我が国力が維持できなくなる! アンブロジアが王子を連れてくることが頼みの綱だったのに!」
国王が、本音らしい言葉を漏らす。
悲しげな表情で、王子がうつむく。
「あーもう! いいかげんにしろよなーオヤジはよぉ!」
とうとう、ムロが本性を表した。
「そういうところがダメなんだよ! あんたはもう限界なんだ。国が傾いているのは、あんたのせいだろうが! 民主化しちまえってんだ! 国民が信用できねえのかよ?」
ガニ股で、ステージからムロが国王にガンをたれる。
「あたしは信じるぜ! いろんな世界を見てきて、やっぱあたしの国は地べたにいようが立ち直れるっての!」
なぜかムロが、ナオからマイクを取り上げる。
「今日は、あたしが歌うぜ! 母国のために! ミュージックスタート!」
セラが、ギターをかき鳴らす。
地獄の亡者の如き声を、ムロが発した。
「え、デスメタル!?」
リハーサルと違う!
全部アドリブじゃないか!
ぶっ壊れている!
曲もメロディも芸風も全部が!
もっとブルースっぽかった歌にする予定だったのに!
もはや、ついていくのがやっとである。
こちらもアドリブで、即興メタルを披露した。
盛り上がっているから、正解なのだろう。
ムロに置いていかれないように、レティは首をブンブンと振りながらスティックを打つ。
どうして今日はレティがドラムに回っているのか、その謎がようやく解けた。このためだったのか。
ムロが盛大にシャウトしては、ナオがメロディアスな歌声で場を浄化する。
なんにせよ、恐るべきはムロだ。よくもまあ、あれだけ舌が回る。早口でデタラメな歌詞をまくし立て、会場を沸かす。
ステージは置いてけぼりどころか、王女がヒートアップするたびに手拍子が鳴る。
一曲を終えると、怒涛のような歓声が上がった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる