音痴なせいで追放された旅芸人、吟遊詩人に転職して神ギタリストに

椎名 富比路

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音痴歌姫追放!

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「はあ、クビかぁ……」

 冒険者の酒場で、セラ・ジェガンはなけなしの金でノンアルレモネードを飲んでいた。

 歌手になることを夢見て、セラ・ジェガンは一四歳で田舎を飛び出す。
 王国で、吟遊詩人が奏でるギターの調律師と、テストプレイヤーの職を得た。
 一六歳にして旅芸人一座にスカウトされる。
 
 しかし、彼女に与えられた役職は踊り子だ。
 ルックスよし、スタイル抜群というだけあって、あっという間に人気者に。ゆくゆくは、トップグラビアアイドルの道まっしぐらになる……はずだった。

 しかし、彼女の夢はあくまで歌手である。なんとか歌う機会を伺っていた。


 あるとき、酔った客が彼女に魔法使いの杖状のマイクを持たせる。英雄譚ムード歌謡をデュエットしろと。

 これがいけなかった。


 大ボリュームで放たれた彼女の歌声は、ステージを汚物まみれに変える。
 赤ん坊ですら、二日酔いに似た症状を訴える始末だった。

 店を破壊した責任を取らされ、セラは旅芸人一座を追放される。

 残ったのは、莫大な借金だけ。

 その歌声は、「耳にへばりつく地獄」と形容された。

 このまま金を返さなければ、「触手のAV監督」とのカラミが待っている。「まだ自分は、成人にも満たない」と訴えると、「闇で売り払う」とまで言われてしまった。そっちの方が、カネになるのだと。
 
 借用書を見て、セラ・ジェガンはため息をつく。

 いや、まだ冒険者という道が。
 ダンジョンに潜って、レアアイテムを取ってこられれば、一攫千金も夢ではない。
 
 しかし、問題はダンジョンに挑むほどの戦闘力がセラにはないことだ。効率や確実性を考えれば、マグロ漁船よりキツイ。

 詰んだ。完全に詰みである。
 このまま、体を売るしかないのか?

「ちょっとあんた、ウチのバンドに加入しないか? ギターを探しているんだけれど?」

 ボーイシュな女性が、セラに語りかけてきた。
 男の子のようなショートカットで、ノースリーブのシャツ、ローライズのデニムホットパンツからは、黒い下着がはみ出ている。なのに、ちっともエッチな感じがしない。

 天啓とは、まさにこのこと!

 セラをスカウトしてきたのは、なんと名うての吟遊グループではないか。

 しかし、声をかけてきた女性を見て、セラは落胆する。

「え、でもわたしにはムリですよ」
「でもあんた、弾き語りできるじゃん。歌はヤバいけれど、ギターはその辺の吟遊を遥かに超えていた」
「だけど、あなたは【ナオ・セニーゼ】さんですよね?」

 ナオ・セニーゼは、吟遊詩人ユニット【なんだ、あのでっかいモノ】のボーカルでリードギターだ。
 吟遊詩人バンド界隈で、ナオを知らない人はいない。

「そんな大物アーティストが、どうしてわたしなんかを?」
「実は、エアギターだったのがバレちゃいそうでね……」
「マジですか!? 神ギタリストがエアだったなんて!」

 しかし、セラは一つの可能性に気づく。

「もしかして、神すぎてギターを持ってなくても音が出せるとか!? だったら余計にすごいです! カリスマすぎる!」
「いやいや、ウチ器用とかそんなレベルじゃなくなるよ。化けもんじゃん。ていうか、昔さ、あんたに調律とか頼んだじゃん」

 そこでようやく、セラもハッとなる。たしか何年も前に、ナオはウチにギターを直しに来たのである。

「あんた、気づいていたよね? ウチがあのギターを弾いてないって」
「はい。たしかナオさんは左利きのはずです。でも、修理に出してきたのは右利き用のギターでした!」

 おかしいとは思っていたが。

「どうして、聞いてこなかったの? 手にとった瞬間で、あんたはあのギターがあたしのではないってわかっていたよね?」
「両手利きなんだろうと、脳内で解釈していました」
「優しいね、あんたは。実は、本物のギタリストは別にいたの」

 実は、ナオは実際にはギターを弾いておらず、影武者がいたという。ところが、その影武者が冒険者組に引き抜かれてしまった。その女性もプロ意識が高く、引き止めるわけにはいかなかったとか。

「まさか、秘密をバラすとか脅されたんじゃ……」
「いやいや、あの子はそんな薄情な子じゃないよ。ウチとは円満解決だ。しかし、このまま代わりのギターがいないとなると、ウチも存続できなくなる」
「それで、わたしを」

 旅芸人の講演も、見に来ていたらしい。ただ一人、ナオはあの場でセラをずっと見ていたという。あの地獄に、ナオは耐えたのだ。

「ウチなら、あんたを光らせられる。ダメかな?」
「でも、わたし借金まみれで……」

 気持ちはありがたい。しかし、バンドに迷惑を掛けるワケには。

「肩代わりしてきた」

 うそだ。一〇〇〇万キャンドなんて払えっこない。
 大物の貴族でさえ、返済に一〇年はかかる額なのに。

「これが返済の証明書ね」

 一枚の紙切れを、ナオはセラに見せた。

「あんな大金、どうして……」
「大金? ポケットマネーで払える金額だったから、気にしないで」
「気にしますよ!」

 これで、触手AV監督なんかとイケない関係にならなくて済む。しかし、これでは。

「勝手なことしてゴメン。でもどうしても、あんたの力が必要なんだ! 頼むよ!」
「そんな! 頭を上げてください!」

 ここまでされて、「イヤです」なんて断れなかった。

「やります。わたしは、何をすれば?」
「今日、ライブがある。弾いてくれたらあとは全部こっちでやるから。あんたは舞台でギターを弾いてくれたらいい!」
「わかりました!」
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