家庭菜園物語

コンビニ

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5章

誘拐②

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★エリゼ視点

 もう少しで新年を迎える。沢山の問題があったけど、無事に年を越せそうでなにより。
 
「エリゼさん、少しよいでしょうか」

 何を持ってきたのか、布に包まれた籠のような物を持っているのはわかるが、これから就寝するというのに、皇帝様は何用なんだろうか。
 そこのメイド、別に一緒に過ごしたりしないから、ニヤニヤした顔をやめなさい。
 
「その鳥籠みたいなのはなんなの?」
「まずは中に入れていただけますか」
「淑女の部屋に入りたいだなんて、入れると思ってるの?」

 ハルが他の人には見えない角度で、少しだけ籠の布を捲ると、見覚えのある妖精王がこっちを覗き込んでいた。

「あらー、素敵。お入りになって、ハル様」
「ありがとうございます。少しだけ2人で話すので、外で待機を」

 メイド達にどんな噂を立てられるのだろうか。ものの5分でハルを外に出せば、彼女達が皇帝の床事情に着いて面白い噂は流れるかもしれない。これはよいアイディアじゃないかな。
 
「エリゼー! 死ぬかと思ったわ!」
「若葉、なんでここにいるわけ?」
「妖精の捜索については、権力を握ってから早急に進めていたんですが、マークしていた闇商人が複数の要請を捕まえたと噂になっていたんですが、その中に混じっていたんです」

 言われてみれば少し薄汚れている。ハルが動いてくれていてよかった。

「仲間の妖精さん、5名も手厚く保護してますので安心してください」
「ありがとう、ハル。それで若葉は仲間を探すために外に出たの?」
「違うの! ユウが誘拐されてそれを知らせるために、火の鶏とこっちに来たんだけど、途中で変てこな黒い男に襲われて、離れ離れになっちゃって……」

 変な黒い男って、あの堕天使崩れ? それに父の誘拐ってどういうことなの。
 
「モモにこのことは?」
「まだ話せてません。まずはエリゼさんが同席の上で話してもらえればと」

 私に丸投げするつもりなの。

「言いたいことはわかります。ただモモさんもさくら様も非常にユウさんのことを大事に思っています。わかりますよね? このままでは街が、最悪は国が滅びることになります」
「見境がなくなりそうだものね。わかった、とりあえずはわかってることをまとめたいから、教えて」

 若葉からは事前にハルが聞いていたようで、ハルがまとめた話を聞きながら若葉に補足を入れてもらう。
 彼女も閉じ込められていたため、1ヶ月以上前の話ってこと以外はわからないけど、大阪の恐らくはトヨナカに襲撃があったのであれば報告が上がってきてもいいけど、情報が封鎖されているってこと?

「各国家の重鎮が絡んでる可能性は高いです。兄達が逃げた東部、王国との国境で怪しい動きはあったと聞いています。もしかすると王国の連中と組んで、国境沿いの砦を中心に建国するつもりではないのかと予想しています」
「王坂やビクドからも話が上がってこないなら、どこかで情報を握りつぶしている連中は各国にもいるって話ね」

 東部の件もそうだけど、トヨナカの街やイールのことも心配。
 パスルは私が移動するタイミングで街に無理やり帰したけど、トヨナカとはそこまで距離が離れてないし、森周辺で兵士とかが変な動きがあったなら、あの子なら動いてくれているはずだけど。

「わかったわ、とりあえずはモモとさくらさんを起こして話をしましょう。そうね、杏姉さんやレイヴィにも聞いてほしいから、あっちの屋敷で話ましょう。今更、妊娠がどうとかは些細な問題になり始めるわ」


 モモとさくらさんには緊急事態、父のことで話があると有無を言わさず、サトウ家に人を集める。
 レイヴィ、杏姉さん、さくらさんにモモ、サイラにハル、それに軍部のなんとか将軍って人と、サトウ家のレイチェルさんに、ご主人、お兄さんが2人集まった。

「緊急の招集に答えてくれて感謝をします」

 ハルが一番最初に挨拶をする。
 戸惑っているのは将軍で、ハイエルフ様が2名にレイヴィの妊娠のことも知らなかったのか、チラチラとみている。

「帝国の東側、王国との国境線にある砦に、各国の不穏分子が集まって、新しい国を作ろうとしています。それぞれの国に協力を依頼し、対応の必要があると考えています」
「私達にも力を貸せとでも言うの?」

 モモが随分と不満げだ。さくらさんなんて、眠そうにあくびをしている。

「これが人同士の争いだけであれば、モモさんやさくら様を呼んだりしません……その、ここから先についてはエリゼさん、お願いします」
「ああ、モモも、さくらさんも落ち着いて聞いて欲しい。今回の件にはサイゼ様の元彼が絡んでいる」
「にゃーん」
「杏お姉ちゃん、それが本題ではないはずって、エリゼは何か隠しているの?」

 杏姉さんは感が鋭い。ハルに向けていた睨むような視線を私に方向が変わった。

「そうだよ。元彼が絡んでいるってのは本題ではない。若葉が来てくれたんだけど、父がユウさんが誘拐されたらしい。彼らは新しい国家の旗印に父を利用するつもりだ」

 モモとさくらさんが殺気立つ。モモは当然としてもさくらさんもここまで怒るとはね。何だかんだでお酒の件以外でも父を可愛がってはいたし、許せないのだろう。
 私だって怒ってはいないわけではない。ただ全員が怒りに任せて行動するわけにはいかないし、私にだってソード家を含めて町の皆んなや背負うがある。感情に任せて行動なんてできない。

「にゃーん」

 杏姉さんは思った以上に冷静で、何を言っているかはわからないけど、後悔の気持ちもあるのか少し残念そうにしている。
 ただ杏姉さんの一声で、モモやさくらさんの殺気が消えたので、何か話してくれたんだろう。

「にゃーん」
「レイヴィ、顔が真っ青だよ、大丈夫?」

 モモと杏姉さんが駆け寄るが、今にもレイヴィは倒れてしまいそうだ。

「大丈夫だ。ユウが……私が残っていれば、杏さんがこっちにいることもなかったのに」
「にゃーん」
「レイヴィのせいではないよ。心配しないで、全力で父のことは助けるから。だからモモもさくらさんも手を貸してほしい」

 2人は渋々ではあったけど、首を縦に振ってくれた。
 
「だったら、本丸に最初から攻めてしまおうではないか。私とモモ、杏さんにエリゼ、レイチェル辺りを連れて行けば十分だろう」

 さくらさんらしい力押しの考え方だ。

「僕は反対です。ユウさんが誘拐された背景が人質を取られたためとあります。彼は平和的な解決を望んでいると考えています。多少なりとも被害は出るとしても、強引に動けば被害は拡大します。まずは外堀を埋めて最小限の被害で解決に当たりましょう」
「にゃーん」

 ハルの意見に杏姉さんが賛同してくれたらしく、さくらさんも不貞腐れながらも黙ってくれた。
 杏姉さんがいてくれて本当によかった。

「将軍、レイチェルと協力して精鋭の部隊を東に移して。聖国についてはさくらさんに、大坂についてはエリゼさんに任せたいですがよいですか?」
「ああ、まずは情報を封鎖されてることの解決をしたい。私は一度、王坂の首都とトヨナカを経由しながらソード家、王国の方に戻る。モモは途中まで同行して、その後にはイールや家の様子を見てきてくれるか?」
「わかった。杏お姉ちゃんは、残るつもり?」
「にゃーん」
「そっか。杏お姉ちゃんがいてくれるなら安心。悪いんだけど、旦那の面倒も見てくれる?」
「にゃーん」
「また留守番か……義父さんとモモの無事を祈ってるね」
「うん、ありがとう」

 夫婦か、少し羨ましい。

「エリゼさん、僕らもこの戦いが無事に終わったら、結婚しましょう」
「嫌だけど」

 そんなフラグ紛いなことに同意なんてできるはずがない。
 ハルが非常にショックを受けて、項垂れてしまった。

「無事に帰ってきたら、デートくらいならしてあげる」
「エリゼさん! 無事を祈っています!」

 
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