家庭菜園物語

コンビニ

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3章

ひと段落

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「角煮、恐ろしい食べ物です。フォークだけで簡単に切れてしまいます。卵も味が染みてて、これは良いものです」

 ルルイゼちゃんとの反応は面白かった。下らないとまでは言わないけど、そこまで迫真の顔で驚くほどだろうか。
 美味いあまりに口から光線とか出したりしないよね?
 その後に出した果物についても興奮気味に食べていた。

「これはパーティーの時にモモ様が食べていた果実! 美味しいです!」

 女の子はやっぱり甘いもの好きだよねー。
 モモの誕生日もまともに祝えてなかったし、果物も揃ったから作っちゃうか? ケーキを。

「それにしても、サイラ様はまだそんな下らないことを気にしていたんですか?」

 先程の話を蒸し返す、ルルイゼちゃん。
 サイラ君には貴方が認識している通り、ただの種馬ですと辛辣な解答から。貴族であれば政略結婚も当たり前だし、血を残すために複数の嫁を取ったりするのは当たり前だと言うこと。
 逆に残られても邪魔なんですけど? 貴方のどこがいいのかモモ様の趣味を若干疑いますと言う感想まで付けられた。

「優しいとこ? 素朴で真面目なとことか。一緒に居て落ち着くし。良いとこはいっぱいあるもん」
「はいはい、ご馳走様です。だから、サイラ様はそこまで心配をしなくても問題はないです」
「なはは! 強い女子だな!」

 縁側から笑いながら、さくらさんが顔を出す。

「まさか、しゃがんでずっと聞いてたんですか?」
「楽しそうな話をしてたもんでな!」

 ちょっと、ちゃんと手とか洗って来てくださいよ。
 さくらさんはやっぱり偉い存在のためか、サイラ君もルルイゼちゃんも片膝をついて顔をした向け、目線を合わせないようにしている。

「ここにいる間は無礼講だ。表をあげてゆっくりするがよい」
「ここは俺達の家なんですけど。いいから手を洗って来てください」
「口うるさい。母親かお前は」
「誰が口うるさい、ババアですって! いいから手を洗ってこないとご飯も出さないんだからね!」
「そこまで言っていないだろう」

 渋々手を洗って来た、さくらさんに角煮と白米、焼酎を出す。
 
「これは!」
「新しいお酒ですよ。そこそこ強いので、飲みすぎないようにしてくださいね」

 まずは純粋に味を楽しんでもらえるように、氷だけ入れてロックで出す。
 若い者達のこれからを話していたというのに、これで少しは黙ってくれるだろうか。

「くぅー! 美味い!」
「さくらさんのおかげで雰囲気、ぶち壊しですよ!」
「まぁまぁ。いいじゃないか」

 問題を起こしている本人が言うセリフじゃなねぇよ。
 その後には酔っぱらった、さくらさんの昔話を交えた、モモ達の話が進んでいき夜が更けていく。
 流れ的には、モモもルルイゼちゃんも腹は決まってるみたいだし、サイラ君は種馬兼、短期間の傀儡の王様になる予定が決まってしまった。
 世界ごとに考え方の違いはあるとはいえ、どの世界でも女の子というのは強いな。

 これが日本の基準であればとんでもない話ではあるけど、俺も異世界基準に染まって来ているのかも知れない。最終的にモモが納得していて幸せなら俺が言うことはなにもない。
 サイラ君にイチャモンは付けるものの単なる、娘が大好きな父親の嫌がらせだ。許してね。
 君も娘を持てはこの気持ちがわかるだろうさ。

 ★★★


 さくらさんが何故か加わった、学生達の最後の夏休み。
 川辺でバーベキューをしたり、水遊びをしたり、西瓜を食べたり、最後の夏休みは実に学生っぽい休みだったのではないだろうか。
 イールも思った以上におばあちゃんに慣れたようで、一緒の部屋でさくらさんと寝起きをしている。
 どんなに酔っぱらっても定時で、起こされ、外に連れていかれる姿は少し不憫ではあったが、まだ小さいイールにはさくらさんお得意の言い訳は話術も効くことはなく、さくらさん専用の特効薬となっている。

「私もまたしばらくここには来れないと思う……」

 そんなことをシリアスに話はするが、どうせ仕事が溜まっているとか、ろくな事ではないのだろう。

「ワイン、作れるようになっても知らせない方がいいですか?」
「それは知らせてくれ! 時間を作ろう!」

 やっぱり、絶対に大したことがないことだろう。
 春先に果樹園の拡大をしたので、来年には梅と葡萄が収穫できるようになるし、そう遠くない未来にワインも作ることができるだろう。

 学校に帰る前日には最後、モモが俺の部屋にやってきて布団を敷き始める。
 姉さんや大福も集合して、なんだか懐かしい感じだ。

「卒業後は直ぐにサイラ君と旅にでます」
「そうか」
「帰ってこないのかとか言わないの?」
「もうモモは大人だよ。人として常識を持って行動してくれればもう何も言わないさ」
「もう少し悲しんでくれてもいいんだけど」
「悲しいさ」

 モモの頭をくしゃくしゃと撫で回す。
 
「モモがいてくれてよかったよ。モモがいなければ俺はもう少し自堕落な生活してたと思う。それでたまに姉さんに尻を叩かれて働いてみたいなさ」
「お父さんだったら1人でも真面目に働いてたんじゃない?」
「そうでもないさ、誰かがいるから頑張れるタイプだよ。エリゼやイールがいてくれたことも感謝しないと」
「意外な一面」

 モモの俺に対して評価は思ったよりも高ったようだ。
 そこから昔話に花が咲いた。出会った当初の話、たくさんの初めての体験。
 優しくされて嬉しかった話や、ガンジュさん達との出会いの話。俺とモモが家族になれた話。
 途中姉さんに明日に響くからいい加減寝るように言われて、モモと手を繋いで目を瞑る。


 晴天の中、モモ達とさくらさんも一緒に学園に帰ることになる。
 モモとサイラ君にはそれぞれにハグを。伝えるべきことは既に伝えてある。幸せになってほしい。
 ルルイゼちゃんとは握手をし、モモ達が困った時には力になってほしいと話た。

「そうだ。ルルイゼちゃん、もしもだけどモモの姉っていう子と会う機会があれば、思うところはあるかも知れないけど力を貸してあげてほしい」
「モモ様にはお姉様もいるんですか?」
「いないよ。自称、姉かな」

 モモはまたそんなことを言って。

「そんな機会があればいいからさ。頭の片隅に置いておいてもらえると助かるよ」

 モモの姿が見えなくなるまで、イールと手を降る。
 学園に行く時には1人だったのに、今では横にサイラ君がいる。今度きた時には孫がいて3人とかになるんだろうか。
 
「にゃーん」
「そうですね。子育てがひと段落と言いますか。なんというか。次はイールかな」
「んー? なに?」

 なんでもないと、笑いながら、イールを抱き上げて、家の中に戻る。
 モモ、また帰りを待ってるからな。
 
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