家庭菜園物語

コンビニ

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モモ②

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 資金稼ぎは順調である。石材や木材もガンジュさん達の協力があってこれまた順調だ。目標資金は集まっているが、より多くの種を持ち帰ってもらうためと、俺の解体技術がまだまだということもあってぎりぎりまでガンジュさん達には残ってもらっている。
 問題があるとすればモモの元気がないということだ。大丈夫かどうか聞いても、薄く笑って大丈夫ですと返してくるだけだった。
 一日休むか聞いてみた時には、泣きながら働かせてほしいと言われてしまった。熱もないし、どこか痛そうにしている気配もないから、精神的なものなのかもしれない。俺は人の親、兄になるなんて向いていないのかもしれない。

 大福が狩ってきた猪のような魔物を吊るして、血抜きをし、毛皮を剥ぐ。解体した時に、製品加工場がアンロックされ、綿花もリストに掲載され、衣服も作成が可能となるようだ。それに合わせて花壇や花の種もアンロックされて作れるようになっているが、綿花って花扱いなの?

「ガンジュさん、俺って人を育てたり親には向いてないのかもしれない」

 解体途中にガンジュ人生相談室に投稿してみたところ、なぜかガンジュさんには大爆笑された。

「ガンジュさん、俺は真面目に相談してるんですけど」
「いや、すまんな。俺も昔、長男が生まれた時に同じようなことを言った」
「ガンジュさんが? 信じられないんですけど」
「俺は結婚した時には部下もいたしな、人の育成については不安はなかった。だが子供となれば別物でな、悪戦苦闘したよ」

 ガンジュさんにもそんな時代があったのか。でも4人、子供がいるって言ってたし、結局は子育てに向いていたんだろうな。

「いいか、悠。真面目な話だ」

 笑顔だったガンジュさんが真顔になる。どんな話が飛びてくるんだろうか、唾を飲み込み、身構える。

「その言葉はお前が将来、嫁をもらっても絶対に言ってはならない。そしてこの話は杏殿にもしない方がよいだろう」
「それはどうしてですか?」
「あれは長男が生まれて1週間経過した日だ。夜泣きが酷い子でな、俺にもなかなか慣れてくれなくてな、子供の接し方もわからず、困惑していた。そんな時にお前と同じように愚痴ったさ、俺は子育ては向いていないとな」

 俺とは違うけど似たようなシチュエーションってことか。

「翌日には息子ともども嫁が家にはいなかった」
「え……ガンジュさんは離婚経験があるってことですか?」
「いや、離婚はしていないので心配するな。その時は実家にでも帰ったんだろうと、思っていてな。母が面倒を見てくれるなら嫁の負担も減るし、久しぶりに1人でゆっくりできるとその時間を謳歌していたよ。その夜に姉上が来るまではな」
「ガンジュさんのお姉さんにはもしかして怒られたんですか?」
「ボコボコにされた。何故、嫁を迎えにこないのかとな。俺も反論した、子供に慣れていない俺が構うよりも子育てに慣れた父や母と一緒にいた方が、嫁も楽であろうと」

 まぁ、家族に助けを求めることは悪いことではない。

「子育てなんて嫁も初めての中、不安なのに夫であるお前が放棄してどうすると。俺は放棄したつもりはなかったが愚痴みたいなつもりで吐いた言葉が嫁を困らせ傷つけていたんだ。嫁も初めての子育てだったのに俺だけが心無い言葉を言ってしまった。今でも事あるごと言われるがな頭が上がらんよ」

  大人だなって思うガンジュさんにもボコボコにされるような経験があったのか、相談した相手が姉さんだったら確かにボコボコにされていたかもしれない。

「俺にはそれでも、親なんて」
「親になることは誰だって初めてはある、それが向いていないなんて言葉はないのだ。子育ては日々努力と勉強だ、悠はモモをしっかりと愛し育てていると思う。モモのことについて悩んでいるのがその証拠だ。向いてる、向いてないではないのだよ。愛せるかどうかだ」

 愛せるかどうか。短い期間だけど、俺はモモことは姉さんや大福同様に家族だと思っている。

「だが俺の考えはこの世界では異質だよ」
「そうなんですか? 俺には違和感なく入ってきました」
「悠の価値観は異世界のものだろ。それが違和感がないというのが異質なのだ。上司にはよく馬鹿のガンジュと言われている」
「だったらその上司が見る目ないっすね」
「ククク、そうか上司が見る目がないか。今度はそのような意見があったことを話しておこう。だがな、この世界では子供だけではく、人間を消費することが当たり前になっている。俺やお前のような考えを持つ者は多くなく、異端ではるということは知っておくといい」

 異端である考え方か。皆んなが皆んなガンジュさんのような善人ではないってことか。
 あ、でもさっきの話の中で見る目ないとか啖呵切っちゃったけど、ガンジュさんの上司が怒鳴り込んできたらどうしよう。まぁ、ここには大福の案内もなしに来れるはずないし、問題ないか。ガハハ!

「それでモモの件だがしっかりと話してみろ。モモは赤子というほど幼くもなく、大人というほど分別、理解がある訳でもない。ただ賢い子だ」
「はい。ありがとうございます」
「モモが望むのであれば、その時は王坂に一緒に連れて行こう」
「はい」
「俺から見ればお前達はしっかり家族だと思うよ」

 ガンジュさんが最後にぼっそと呟いた。難聴系主人公であれば聞き逃してしまっていただろう。


★★★


 ガンジュさんに相談した後も、モモと話せるきっかけを掴めなかった。なんとなくギクシャクしてしまっていて、避けらている感がした。
 モモと話せる機会がやってきたのはガンジュさん達がこの森を離れる前日となっていた。姉さんと大福、モモ、家族全員で居間のちゃぶ台を囲む。

「にゃーん」
「いや、1人で話すのが怖いとかそんなわけないですよ?  大事な話なので家族全員で集まって話をですね」
「にゃーん」
「そんなに急かさないでくださいよ! えっと、モモ。今日はモモのことで話があってさ」
「はい」

 モモの体が強張っている。目も合わせてくれる気配はなくジッと下を見ている。
 俺と話たくはないのかもしれないが、今は我慢してもらおう。

「にゃーん」

 姉さんが、モモに人と話す時は目を見なさいと、嗜められる。
 モモの目の端には涙がいっぱいに溜まっていた。

「モモどうした! どこか痛いのか?」

 モモが涙を拭ってブンブンと顔を横に振る。対面からモモの横に移動して、ティッシュで涙を拭き、鼻をかませる。

「私は王坂国に行きます」

 もしかしてガンジュさんとの話を聞かれていたのか?
 モモが行きたいなら俺は止めるつもりはない。でもそれならどうして泣いている。

「えっと、ガンジュさんとの話を聞いてたのかな。俺はモモが行きたいっていうなら止めるつもりはないよ」

 ますますモモが泣いてしまう。ど、どうしよう。

「にゃーん」
 
 泣くのをやめて、最後まで話を聞きなさいと、姉さんは厳しすぎませんかね。
 泣くのを止めることはできていないが、目だけはしっかりと俺の方を見てくれる。

「俺はモモが行きたいなら止めるつもりはないよ。でも俺はモモが嫌でないなら--ごめん、俺はモモにここにいて欲しいって思ってる」

 モモがじゃない。俺がどう思っているかちゃんと伝える。

「俺はさ、本当はモモとは大福や姉さんと同じように家族になりたいなって。今の雇用主とかご主人様って関係じゃない、俺が寝坊したら怒って起こしてくれたり、だらしないとこがあったら注意してくれたりさ」
「にゃーん」
「例え話ですよ! なんだろう、何気ないことで笑って過ごせたらいいなって。だからモモの考えを聞きたいんだ」
「ご主人様は私を食べたいのではないのですか?」
「にゃーん」

 そんな歪んだ性癖を持っていたのかじゃないですよ! 俺はそんなゲームや物語に出てくる部族でゾンビではありません!
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