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 俺が魔法の才能がないことがわかって三日後に家に初めての来客があった。
 身長は160センチくらいの小柄なおじさんだが、筋骨隆々で腕が丸太みたいに太い、師匠の彼氏だろうか?
 
「お前がアルデンか。ワシは狩人のマーロだ、今日からよろしくな!」
「えっと、アルデンです。今日から? よろしくお願いします」
「なんだ? おい、薬師殿、こいつに話てないのか?」
「言い忘れてただけだよ。ボケてきたかね」

 その顔、絶対に黙ってただけだろ!

「お前さんに狩人のイロハを教えてやってほしいと頼まれてな」
「師匠! 俺、狩人になるんですか?」
「いいから黙って行っておいで、あんこも連れて薬草があったら拾ってくるんだよ」

 よくわからないまま、小袋とナタのような刃物をもたさえて家を追い出された。
 意味がわからないよぉ! 俺は体育の成績は良かった方じゃないのに!

「まぁ、今日は慣らしだ、ついてこれるとこまでついて来い」
「はい、頑張ります」

 なんて回答をしたのはいいが、飛び跳ねるようにして先に進むマーロさんについて行くことすらできない、あんこは飛び跳ねるようにして見事について行っている。日本にいたときは俺の方が足早かったのに!
 異世界に来て召喚獣となった、あんこの基本スペックは上がっているのだろうか。

「全然ダメだな」
「面目ないです」
「まずは基礎となるトレーニングからだな」
「はぃ」

 走れ走れとアップダウンが激しい野山を走り回らせられる。しんどいってもんじゃない、おかしくなりそうだ。
 あのババアは俺をどうしたいのだろうか? イジメか!
 息も絶えだえで、家に到着すると倒れ込む。寝転んでいると、ロームさんはそのまま家に入ってしまった。ババアと今日の内容について色々と共有しているのだろう。

「それじゃあ、薬師殿、また」
「ああ、今日は助かったよ。さて、バカ弟子、お前がそこまで動けないとはね。起き上がって早く入っておいで」
「あい」

 既に身体中が痛いのですが。

「まずは風呂に入っておいで」
「わかりました」

 こんなに走らせるなんて一種の虐待だよぉ。薬草も拾う余裕なんてなかったし。
 それにしても、この世界にきて風呂が当たり前にあるのは嬉しい、シャワーなんてのはないが、水を出せる魔道具もあり、同じく温める魔道具もあるので比較的簡単にお風呂が入れられてしまうのだ。
 城にいた時は俺の住んで屋敷にもあって、メイドさんが基本的に用意をしてくれていた。でも屋敷では水が出る魔道具なんて見たことなかったんだよなぁ、どういう原理で入れていたのだろうか。
 まさかのこの家とは違って人力で入れていたとかな。だとしたらめちゃくちゃ申し訳ないんだけど。

 まぁこの家にある魔道具の利用もタダではないので、魔物から取れる魔石なんてものも必要らしいけど、どのくらいのお値段なのかは師匠からも聞いたことがない。めちゃくちゃ高いってことはないよね?
 
 風呂にゆったりと浸かり、手足を揉んで、リビングスペースへと戻る。
 ダメだ、全然足が筋肉痛で痛い。

「明日からはこれも追加だよ。まずは千回くらいかね」

 やたらと思い鉄の棒を渡される。これを素振りでもしろいうのだろうか? こ、殺されてしまう!

「師匠、これは肉体改造の一環ですか?」
「そうだよ、魔法が使えないのであれば一層、体力面が重要になってくるからね」

 なんてこった。

「食後にはこれを必ず飲むように」

 新しいハーブティーか何かだろうか。うん、美味い。
 ババアはお茶とかの調合も上手いよなぁ、前に教えてくれてって言ってもまだ早いって教えてくれなかったけど。
 ハーブティーを飲んだ後にはトレーニングで時間を消費しすぎてできなかった魔道具の研究を続ける。
 この銀盤のことについても書かれていた。やっぱり、ただの鉄ではないようで、魔法使いが魔力で圧縮した鉄のインゴットを板状にした代物らしい。
 ババアが作成した銀盤なのかな? これ、基礎となる魔法が使えないと魔道具で食って行くとか、生産とか追っ付かなくないか? 
 魔道具を作るのであればそもそもが魔法使い、もしくは魔法使いである人のサポートがないと食って行くのは大変そうだ。なんとか使えるようにならないのかな。
 
「これって、銀盤を作ることができる魔道具を作ればいいんじゃね? 要は圧縮できる魔道具があればいいんだろ」

 まずはババアに圧縮をして作るところを見せてもらわないとな。
 
「--今は魔道具のことは知識のみでいいよ。まずは言われた通りに体を鍛えな」

 即却下されてしまった。なんだよあのババアは!

★★★

 それからは繰り返し、繰り返し、同じことを続けることになる。炊事、洗濯、農作業諸々を午前中に、あんことランニング出て、鉄の棒を握って素振りを繰り返す。
 ババアが出すハーブティーは薬草が混じっているらしく、激痛の筋肉痛を和らげる効果があるらしい、単純な鎮痛効果だけでなくて、精神の安定効果、体力の回復なんかの複合的なお茶っぽい。
 ランニングについてもマーロさんがいない状態で危険な森を駆け回るわけだが、これも持たされたお香の効果か、いわゆる魔物とかと出会ったことはない。

 ババア、意外に配慮してくれてる?
 トレーニングが効率的に行えれば勉強をする時間も増えていき、知識も補填されていく。
 日本にいた時はここまで勉強もトレーニングも継続して行うことはできなかった、ゲームやスマホなどの誘惑がないのもあるけど、片腕失って一回死にかけたおかげなのか、この新しい生活に充実感がある。
 
「俺も変わったな……いい子だな、ビーストにキング。ふふふ、筋肉達が喜んでいるぜ!」

 ババアが不審者を見るような目で見てくる。なんだよ、トレーニングに励めって言ったのはあんただろうが! それにしても筋肉の成長が早い気がする。これもあのお茶の効果なのだろうか。

 勉学系の進捗はいまいちだが、筋肉の進捗は素晴らしい状態で二ヶ月ぶりにマーロさんがやってきた。

「なんだか逞しくなったなぁ! 薬師様のお茶の効果か?」
「あのお茶ってステロイドかなんかですか?」
「すて? なんでも体を徹底的に痛めつけて、超回復? だがする成分が入ってるお茶らしい。下地となる訓練さえしっかりすればしっかりと効果が出るんだよ。お茶だけではなくてアルデンの頑張った成果だな」

 危険な薬とかじゃなくてよかったよ。地球上にあったらバカ売れだろうな、なんなら普通に売り出してもこの世界でバカ売れするんじゃないだろうか。後でババアに聞いてみよう。

「それじゃあ、行くか」
「リベンジマッチってことですね」

 あんことマーロさんと共に森の中を翔る。自分ではかなり走れるようになった自負していたがそれでもまだ追いつけないない。見失わないようについて行くのがやっとだ。
 ある程度進んだタイミングでマーロさんが足を止める。

「まぁまぁ走れるようになった。それじゃあ次はこれだな」
「弓ですか?」

 ロームさんが背負っていた弓を俺に渡す。ちょっと楽しそう。
 弓と一緒にナイフまで渡される。肝心の矢がないんですけど、まさかですよね?

「持ってるナタで適度な大きさの木を切って、矢を作るんだ。最初は作り方を教えてやる、心配するな。まずは千本を目指すか」

 この人たちは頭おかしいよ! なにを満面の笑みで畜生発言してるんだ!
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