15 / 16
最後くらい
しおりを挟む
学校が終わって下校していた時、桜子が走って追いかけてきた。
俺たちはいつも一緒に登校して、別々に下校している。
登校が一緒なのは桜子が起こしに来るから仕方なくだ。
一緒に帰る理由はない。
いつもと違うことが起こるときは、必ずなにかしらのイベントが発生するというサインだ。
俺は逃げた。
迫りくる毒舌ヒロインから全速力で逃げた。
どうせ逃げ切っても家に訪ねてこられるだろうからあまり意味はないのだが、せめてもの抵抗だ。
前にも言ったが、俺は結構運動できる設定だし、桜子は運動が苦手な設定であるため、本来俺が走力で桜子に負けるわけがない。
……本来はね。
全力で足を動かしているというのに、桜子を引き離すことができない。
作者は好き勝手にキャラの能力をいじることができる。
この作品は特にそういうことが多い傾向があるのだ。
時々キャラ設定に反して、桜子はあり得ない身体能力を発揮する。
今がまさにそうだ。
作者によって一時的に凄まじい脚力を与えられた桜子は風のように走り、とうとう俺に追い付いて肩を掴んできた。
頼むから設定を遵守してくれよ作者ァ……。
「……はぁ、はぁ。ちょっと。なんで逃げるのよ」
「追いかけられたら、普通、逃げるだろ、はぁ……はぁ……。あー疲れた。で、なんなんだよ」
俺が訊くと、桜子は顔を背けた。
「……えっと。その……」
「なんだよモジモジして。小便ならそこの公園のトイレにでも行ってこいよ。俺は帰るからさ」
「違うわよボケ! ……そ、そういえば来週花火大会があるらしいわね」
……。
俺は桜子のその言葉を聞いた瞬間、直感的に悟った。
きっとこれが最後のイベントになる。
なぜなのかは分からないが、そういう確信があった。
俺は酷く動揺しながら焦点の定まらない目で桜子を見つめた。
「……桜子」
「な、なによ」
「花火大会、一緒に行こう」
自分でも信じられない言葉が口から飛び出た。
桜子は宇宙人でも見るような目で俺のことを見てきた。
「へ、へぇー。あんたがどうしても私と一緒に行きたいなら」
「どうしてもだ」
「え……あ、うん。わかった」
桜子はこくりと頷いた。
俺から桜子のことをなにかしらのイベントに誘ったのは初めてだ。
でも今回はどうしても自分からが良かった。
いつもみたいに受動的な、不可抗力で巻き込まれるだけっていうのが嫌だったのだ。
最後くらい本当の意味で自分の意思によって物語に関わりたい。
作者がどう考えているのかは知らないが、多分次回が最終回だ。
俺たちはいつも一緒に登校して、別々に下校している。
登校が一緒なのは桜子が起こしに来るから仕方なくだ。
一緒に帰る理由はない。
いつもと違うことが起こるときは、必ずなにかしらのイベントが発生するというサインだ。
俺は逃げた。
迫りくる毒舌ヒロインから全速力で逃げた。
どうせ逃げ切っても家に訪ねてこられるだろうからあまり意味はないのだが、せめてもの抵抗だ。
前にも言ったが、俺は結構運動できる設定だし、桜子は運動が苦手な設定であるため、本来俺が走力で桜子に負けるわけがない。
……本来はね。
全力で足を動かしているというのに、桜子を引き離すことができない。
作者は好き勝手にキャラの能力をいじることができる。
この作品は特にそういうことが多い傾向があるのだ。
時々キャラ設定に反して、桜子はあり得ない身体能力を発揮する。
今がまさにそうだ。
作者によって一時的に凄まじい脚力を与えられた桜子は風のように走り、とうとう俺に追い付いて肩を掴んできた。
頼むから設定を遵守してくれよ作者ァ……。
「……はぁ、はぁ。ちょっと。なんで逃げるのよ」
「追いかけられたら、普通、逃げるだろ、はぁ……はぁ……。あー疲れた。で、なんなんだよ」
俺が訊くと、桜子は顔を背けた。
「……えっと。その……」
「なんだよモジモジして。小便ならそこの公園のトイレにでも行ってこいよ。俺は帰るからさ」
「違うわよボケ! ……そ、そういえば来週花火大会があるらしいわね」
……。
俺は桜子のその言葉を聞いた瞬間、直感的に悟った。
きっとこれが最後のイベントになる。
なぜなのかは分からないが、そういう確信があった。
俺は酷く動揺しながら焦点の定まらない目で桜子を見つめた。
「……桜子」
「な、なによ」
「花火大会、一緒に行こう」
自分でも信じられない言葉が口から飛び出た。
桜子は宇宙人でも見るような目で俺のことを見てきた。
「へ、へぇー。あんたがどうしても私と一緒に行きたいなら」
「どうしてもだ」
「え……あ、うん。わかった」
桜子はこくりと頷いた。
俺から桜子のことをなにかしらのイベントに誘ったのは初めてだ。
でも今回はどうしても自分からが良かった。
いつもみたいに受動的な、不可抗力で巻き込まれるだけっていうのが嫌だったのだ。
最後くらい本当の意味で自分の意思によって物語に関わりたい。
作者がどう考えているのかは知らないが、多分次回が最終回だ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。



とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる