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第二章
出会い
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「さあさあ皆さん、お立ち会い! 御用とお急ぎでない方はゆっくりと見てってくださいな」
背後でそんな声が聞こえたものだから、俺たち三人は思わず振り返った。
ギルドでクエスト達成の処理をした直後のことだった。
ギルド全体に呼びかけるようにその少年は言い放った。
少年、と言っても俺と同じくらいの歳だろうが。
しかし、呼びかけがあったにも関わらずその少年の方に意識を向ける者は少ない。
なぜかと言えば、少年のこのような行動は珍しくないからだ。
少年はギルド長の親戚か何かだと噂されていた。
子供の頃からギルドに入り浸り、くだらないイタズラを繰り返していた。
その度にギルド長に叱られる。
このギルドではその光景が日常の一部と化していた。
少年は最近冒険者になったらしいが、パーティーを転々としているようだ。
俺たちも冒険者を始めたのは最近で、少年の噂は耳にしていたのだが、なかなか遭遇する機会がなく、この時は初めてまともに少年の姿を見たのだった。
「ほらほら、そこのお兄さんたちも近くに寄って見てってよ」
急に少年が俺たちに手招きしてきた。
俺たちは互いに顔を見合わせながらも、少年に近寄った。
少年は満足そうに頷くと、カバンから何かを取り出した。
「さて、ここに取り出しましたるは、読んでいるとなんだか頭が良くなりそうな魔導書でございます」
それを見て、隣のウタメが目を見開いた。
そしてウタメは慌てて自分の荷物を確認し始めた。
「あ、あれ? ……ない」
ウタメが小さく声を漏らす
少年はニコニコしながら続ける。
「こちらの魔導書を、布で隠しまして……」
少年はポケットから赤い布を取り出し、手に持った魔導書にかけた。
「布を取り払えば、なんと!」
少年の手には魔導書ではなく、俺の財布が。
「……は?」
俺はポカンと少年の手元を見つめ、それからすぐにハッとして荷物を確認した。
やはり財布がない。
受け取ったばかりの報酬が入った財布がない。
混乱する俺に近づいてきて少年は
「はい、プレゼント」
と言いながら財布を手渡してきた。
「あ、ああ」
俺はぎこちない動きで財布を受け取った。
いつの間に盗られた?
受付で報酬を受け取ってから10歩も歩いていないというのに。
「お兄さぁん。金持ってる時は油断しちゃ駄目だよ? 俺みたいなのにすぐ盗られちゃうから」
少年は笑顔を浮かべながら馴れ馴れしく言ってきた。
「忠告どうもありがとう。危うく姑息な泥棒に給料を盗られるところだった」
「いえいえ~。どういたしまして~」
皮肉を込めたつもりだったが、少年は楽しそうにニコニコしている。
「あ、あの。私の魔導書はどこに?」
ウタメが遠慮がちに少年に訊ねた。
「ああそれなら元に戻しといたよ。お姉さんも不用心だね~。気をつけなよ?」
ウタメは少年の言葉を聞いてすぐに荷物を検めた。
すると魔導書を発見できたようだ。
ウタメは胸を撫で下ろした。
「ちょっと。いきなり人のもん盗って、どういうつもり?」
ポニテノが少年に詰め寄る。
「いや~お兄さんたちがあんまりにも不用心なもんだから、そのことを実際に体験させることで教えてあげただけだよ。いわば親切心。そこでだよ。俺の親切に対して、あなた方は俺にお礼がしたいはずだ。だよね?」
「ハァ?」
ポニテノは完全に喧嘩を売られたと思って好戦的な態度を取っているが、俺は少年に興味が湧いた。
「面白い。俺たちにどうしてほしい?」
俺が訊くと、少年は口角を上げた。
「俺と同時期に冒険者始めたゼオルってのはあんたのことでしょ、お兄さん?」
「ああ。そしてお前は嫌われ者のシラネだろ」
「その通り~。んで、お兄さんにお願いしたいことってのはね」
「ああ」
「俺をあんたらのパーティーに入れてくれないかな?」
これが俺たちとシラネの出会いだった。
背後でそんな声が聞こえたものだから、俺たち三人は思わず振り返った。
ギルドでクエスト達成の処理をした直後のことだった。
ギルド全体に呼びかけるようにその少年は言い放った。
少年、と言っても俺と同じくらいの歳だろうが。
しかし、呼びかけがあったにも関わらずその少年の方に意識を向ける者は少ない。
なぜかと言えば、少年のこのような行動は珍しくないからだ。
少年はギルド長の親戚か何かだと噂されていた。
子供の頃からギルドに入り浸り、くだらないイタズラを繰り返していた。
その度にギルド長に叱られる。
このギルドではその光景が日常の一部と化していた。
少年は最近冒険者になったらしいが、パーティーを転々としているようだ。
俺たちも冒険者を始めたのは最近で、少年の噂は耳にしていたのだが、なかなか遭遇する機会がなく、この時は初めてまともに少年の姿を見たのだった。
「ほらほら、そこのお兄さんたちも近くに寄って見てってよ」
急に少年が俺たちに手招きしてきた。
俺たちは互いに顔を見合わせながらも、少年に近寄った。
少年は満足そうに頷くと、カバンから何かを取り出した。
「さて、ここに取り出しましたるは、読んでいるとなんだか頭が良くなりそうな魔導書でございます」
それを見て、隣のウタメが目を見開いた。
そしてウタメは慌てて自分の荷物を確認し始めた。
「あ、あれ? ……ない」
ウタメが小さく声を漏らす
少年はニコニコしながら続ける。
「こちらの魔導書を、布で隠しまして……」
少年はポケットから赤い布を取り出し、手に持った魔導書にかけた。
「布を取り払えば、なんと!」
少年の手には魔導書ではなく、俺の財布が。
「……は?」
俺はポカンと少年の手元を見つめ、それからすぐにハッとして荷物を確認した。
やはり財布がない。
受け取ったばかりの報酬が入った財布がない。
混乱する俺に近づいてきて少年は
「はい、プレゼント」
と言いながら財布を手渡してきた。
「あ、ああ」
俺はぎこちない動きで財布を受け取った。
いつの間に盗られた?
受付で報酬を受け取ってから10歩も歩いていないというのに。
「お兄さぁん。金持ってる時は油断しちゃ駄目だよ? 俺みたいなのにすぐ盗られちゃうから」
少年は笑顔を浮かべながら馴れ馴れしく言ってきた。
「忠告どうもありがとう。危うく姑息な泥棒に給料を盗られるところだった」
「いえいえ~。どういたしまして~」
皮肉を込めたつもりだったが、少年は楽しそうにニコニコしている。
「あ、あの。私の魔導書はどこに?」
ウタメが遠慮がちに少年に訊ねた。
「ああそれなら元に戻しといたよ。お姉さんも不用心だね~。気をつけなよ?」
ウタメは少年の言葉を聞いてすぐに荷物を検めた。
すると魔導書を発見できたようだ。
ウタメは胸を撫で下ろした。
「ちょっと。いきなり人のもん盗って、どういうつもり?」
ポニテノが少年に詰め寄る。
「いや~お兄さんたちがあんまりにも不用心なもんだから、そのことを実際に体験させることで教えてあげただけだよ。いわば親切心。そこでだよ。俺の親切に対して、あなた方は俺にお礼がしたいはずだ。だよね?」
「ハァ?」
ポニテノは完全に喧嘩を売られたと思って好戦的な態度を取っているが、俺は少年に興味が湧いた。
「面白い。俺たちにどうしてほしい?」
俺が訊くと、少年は口角を上げた。
「俺と同時期に冒険者始めたゼオルってのはあんたのことでしょ、お兄さん?」
「ああ。そしてお前は嫌われ者のシラネだろ」
「その通り~。んで、お兄さんにお願いしたいことってのはね」
「ああ」
「俺をあんたらのパーティーに入れてくれないかな?」
これが俺たちとシラネの出会いだった。
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