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第一章
説教
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ギルドに帰り着くと、思った通り受付の周りに人が集まっていて騒がしかった。
人混みをかき分けるように進むと、ランが受付担当に必死に訴える声が聞こえてきた。
「あの男は化け物よ! 絶対野放しにしておいたらダメ!」
リサも一緒になって説明しているようだ。
「私もランと同意見です。あの人は危険ですよ! どうしてあんな人を放置しているんですか?」
「あー、ちょっといいか?」
俺の声に反応して二人がぎょっとした目でこちらを見た。
周囲の視線も一斉に俺に集まる。
ランが絶望を顔に滲ませながら訊いてきた。
「な、なんでもうここにいるの……?」
「どうせこんなことだろうと思ってな。急いで帰ってきた」
「ぼ、僕もいるよー……」
リーダーが今にも倒れそうな様子で声を上げた。
なるべく揺れないようにしたつもりだったが、リーダーは今乗り物酔いみたいな状態になっているらしい。
なんか申し訳ない。
「なんで……馬車もないのに……」
リサが呟く。
「走った。いや、そんなことより。今お前ら何してた?」
「え、あ。それは、その……」
二人とも気まずそうに視線を漂わせた。
俺はため息をついた。
「前にもこんなことがあったんだよ。あれは俺が冒険者始めたばっかの時だったかな。ゼオルたちのパーティーに入る前、今回みたいな感じでいくつかのパーティーにお試しで同行させてもらってた時期があったんだけど、そん時も今みたいな感じで帰ってきたら受付さんにパーティーの人が俺の悪口言ってたことがあったんだよ。受付さんもそのこと憶えてるでしょ? 騒ぎになったし」
「はい。ありましたね」
受付担当のツキヨさんはいつもと変わらず淡々と答えた。
この人、美人なんだけど信じられないほど愛想がないんだよなぁ。
まぁどうでもいいけど。
「他の方のご迷惑になりますので、どこか別の場所で話し合ってください。結論が出たら受付窓口までどうぞ」
ツキヨさんに注意されて、リサとランはしょぼんとした。
「じゃ、その辺適当に座って話し合おうぜ」
俺がそう言うと、二人ともすごく嫌そうな顔をしながら小さく頷いた。
「ほら、みんなも解散! シッシ」
俺が手で追い払うような仕草をすると、野次馬共も散っていった。
ギルド内の適当な席に四人で腰かけた。
俺はちょっと叱りつけるような口調でリサたちに言った。
「正直営業妨害なんだよね、ああいうことされると」
「……」
リサもランも黙って俯いたままだ。
「なんだよさっきあんなに威勢良かったのに。本人がいない時でないと威張れないのかよ。別にいいけどさ」
「あ、あのシラネさん」
リーダーが遠慮がちに申し出た。
「なに?」
「まずは僕から謝罪をさせてください。たくさん失礼な態度を取ってすみませんでした。それに隠しダンジョン内で宝箱を前にした時、僕がすぐに帰ろうって言っていれば危険な目に遭わなかったかもしれません」
「ちょっと。あれはあたしが勝手な行動をしたからであって、別にあんたが悪いわけじゃないじゃん」
ランがリーダーを庇うように言った。
「いや、私が悪いのよ。私が隠しダンジョンに入るようにランをそそのかしたの」
リサもそんなことを言い出した。
俺は意外に思った。
互いのことを庇い合うような精神がこいつらにあるとは。
「へぇー。もっと罪をお互いになすりつけるような展開になると思ってたわ」
リーダーが苦笑いした。
「僕たちは結構長い付き合いでして。なんだかんだ言いつつも仲はいいんですよ」
「ふーん。まぁそんなことどうでもいいんだけど。ちゃんと自分たちの悪いとこが分かってるならいいや。あ、言っとくけどお前らがいくら自分を責めるようなこと言っても、そんなことないよ~とか言ってやらないからな? リーダーが宝を前にして目が眩んでもうちょっと探索しないかとか言い出したのはちゃんと判断ミスだし、ランが勝手な行動をしたっていうのも、それをリサがそそのかしたっていうのも事実だ」
三人ともしょんぼりした顔で俺を見た。
「いいか。冒険者ってのは先輩の意見をよく聞くもんだ。なんでかっていうと自分より経験を積んでるから。トライアンドエラーって言葉があるじゃん? たくさん失敗して学んでいくみたいなやつ。あれ、冒険者向きの言葉じゃないと思うんだよ。ほんとに危険な仕事だからな。一度のエラーで次のトライが一生できなくなるかもしれない。だから自分の代わりに失敗してきた先人に学ぶのが大事なの。俺からのアドバイスね」
「……はい。今回の件で身に沁みました」
リーダーが神妙な面持ちで頷いた。
「お前らも分かった?」
「……はい」
「すみませんでした」
リサとランも反省しているようだ。
俺は満足して大きく伸びをした。
「ん~。説教すんの気持ちぃ~」
「……は? え?」
リサが首を傾げた。
「今俺が言ったこと、昔どっかの誰かから聞いたんだよ。なんかいい感じの説教だよな~。ま、俺はお前らがどうなろうと知ったこっちゃないから真に受けても無視してもいいよ」
「えぇ……」
三人ともなんとも言えない表情を浮かべた。
ははは。
おもろ。
「まぁそんなことより、報酬の話だ。今回のクエストの報酬だけは何がなんでも受け取るからな。いくら今回限りの関係とは言っても、俺はボランティアじゃないからな」
「あぁはい。そうですよね。具体的にはどうしましょうか」
リーダーが訊いてくる。
「つってもあんまりモンスターと出くわしてないからなぁ。ヘドロの落とした素材についてはもちろんあんたらの取り分だ。俺なんもしてないし。宝箱に入ってた剣についても、見つけたのはリサとランだからあんたらのもんだな。牛肉戦士の角は、まぁ四本あるし一人一本でいいか」
「え、僕たちは受け取れませんよ。シラネさんが倒したんですし」
リーダーは渋ったが、俺は押し付けるようにして渡した。
「まあまあ受け取っとけよ。結構高く売れるぞ。大体一本1万ゴールドくらいかな」
「はぁ!? これそんなにするの!?」
ランが飛び出るくらい目を大きく開けた。
「武器を買うなり装備を買うなり好きにすりゃいい」
「な、なにが目的なんですか? まさか私たち!?」
「ひぃ!」
リサもランも自分の身を抱くようにして警戒心むき出しで俺を睨んできた。
「ガキのくせに何言ってんだ。特に意味はねぇよ。強いて言うなら先輩から後輩に対してのプレゼント。そんなことより、そろそろ隠しダンジョン見つけたってことを報告しに行かないとな。どうせその角を買い取ってもらう時に訊かれると思うけど」
それから受付のツキヨさんに諸々説明した。
ツキヨさんはまた面倒事を持ってきやがってという顔をしていた。
「私の手には余る事態なので、ギルド長に直接説明していただけますか?」
「オッケーです。あ、これ今回のクエストの戦利品です。ほら、お前らも出せよ」
俺はツキヨさんに牛肉戦士の角を差し出した。
リーダーたちもフラスコに入れたヘドロの粘液と牛肉戦士の角を出したのだが
「おそらく発見した隠しダンジョンについて説明するときにギルド長から証拠として要求されると思いますので、そちらのカウボーイの角は持っていてください」
と断られた。
その後、俺たち四人はマーヤさんに呼び出されて色々質問された。
マーヤさんは頭を抱えていた。
「ハァ……。面倒なことになったな。調査団に来てもらわないといけない」
「そっすねー」
俺は適当に相槌を打った。
マーヤさんはリーダたちの方を向いて微笑んだ。
「まぁ君たちが無事で良かった」
「はい。シラネさんに助けていただいたので」
リーダーが気恥ずかしそうに答える。
マーヤさんは呆れたように俺を見た。
「まったく、そもそもお前がちゃんと止めていれば危険な目に遭うこともなかっただろ。しっかりしろ」
「はいごめんなさい」
俺は食い気味に謝った。
「調査団の方には私から連絡を入れておく。今日は解散。ご苦労だったな」
「はーい」
ギルド長室を出た後、受付に戻ってもう一度ツキヨさんに戦利品を差し出した。
「マーヤさんからもう売っていいって言われました」
「承知しました」
ツキヨさんは戦利品と交換で報酬を渡してくれた。
ランは震える手で1万ゴールドを受け取っていた。
「ほ、ほんとにいいの?」
「おう。じゃ、俺帰るから。お疲れ~。もう関わることないかもだけど、頑張れよ~」
俺は返事も待たずに早足でギルドを出た。
すっかり暗くなっている。
精神的に色々疲れたから帰って寝たい。
しかし、すぐにリーダーが追いかけてきた。
「シラネさん。帰ったら話の続きを聞かせてくれるって言ったじゃないですか」
「あー……。そうだったな。うん。分かった。いいよ。どこで話す?」
俺は渋々了承した。
自分から言い出したことだし仕方ない。
「近くにちょっとした公園があります。この時間は滅多に人もいません」
「オッケー。じゃあそこで」
ということで、俺とリーダーは公園に向かった。
人混みをかき分けるように進むと、ランが受付担当に必死に訴える声が聞こえてきた。
「あの男は化け物よ! 絶対野放しにしておいたらダメ!」
リサも一緒になって説明しているようだ。
「私もランと同意見です。あの人は危険ですよ! どうしてあんな人を放置しているんですか?」
「あー、ちょっといいか?」
俺の声に反応して二人がぎょっとした目でこちらを見た。
周囲の視線も一斉に俺に集まる。
ランが絶望を顔に滲ませながら訊いてきた。
「な、なんでもうここにいるの……?」
「どうせこんなことだろうと思ってな。急いで帰ってきた」
「ぼ、僕もいるよー……」
リーダーが今にも倒れそうな様子で声を上げた。
なるべく揺れないようにしたつもりだったが、リーダーは今乗り物酔いみたいな状態になっているらしい。
なんか申し訳ない。
「なんで……馬車もないのに……」
リサが呟く。
「走った。いや、そんなことより。今お前ら何してた?」
「え、あ。それは、その……」
二人とも気まずそうに視線を漂わせた。
俺はため息をついた。
「前にもこんなことがあったんだよ。あれは俺が冒険者始めたばっかの時だったかな。ゼオルたちのパーティーに入る前、今回みたいな感じでいくつかのパーティーにお試しで同行させてもらってた時期があったんだけど、そん時も今みたいな感じで帰ってきたら受付さんにパーティーの人が俺の悪口言ってたことがあったんだよ。受付さんもそのこと憶えてるでしょ? 騒ぎになったし」
「はい。ありましたね」
受付担当のツキヨさんはいつもと変わらず淡々と答えた。
この人、美人なんだけど信じられないほど愛想がないんだよなぁ。
まぁどうでもいいけど。
「他の方のご迷惑になりますので、どこか別の場所で話し合ってください。結論が出たら受付窓口までどうぞ」
ツキヨさんに注意されて、リサとランはしょぼんとした。
「じゃ、その辺適当に座って話し合おうぜ」
俺がそう言うと、二人ともすごく嫌そうな顔をしながら小さく頷いた。
「ほら、みんなも解散! シッシ」
俺が手で追い払うような仕草をすると、野次馬共も散っていった。
ギルド内の適当な席に四人で腰かけた。
俺はちょっと叱りつけるような口調でリサたちに言った。
「正直営業妨害なんだよね、ああいうことされると」
「……」
リサもランも黙って俯いたままだ。
「なんだよさっきあんなに威勢良かったのに。本人がいない時でないと威張れないのかよ。別にいいけどさ」
「あ、あのシラネさん」
リーダーが遠慮がちに申し出た。
「なに?」
「まずは僕から謝罪をさせてください。たくさん失礼な態度を取ってすみませんでした。それに隠しダンジョン内で宝箱を前にした時、僕がすぐに帰ろうって言っていれば危険な目に遭わなかったかもしれません」
「ちょっと。あれはあたしが勝手な行動をしたからであって、別にあんたが悪いわけじゃないじゃん」
ランがリーダーを庇うように言った。
「いや、私が悪いのよ。私が隠しダンジョンに入るようにランをそそのかしたの」
リサもそんなことを言い出した。
俺は意外に思った。
互いのことを庇い合うような精神がこいつらにあるとは。
「へぇー。もっと罪をお互いになすりつけるような展開になると思ってたわ」
リーダーが苦笑いした。
「僕たちは結構長い付き合いでして。なんだかんだ言いつつも仲はいいんですよ」
「ふーん。まぁそんなことどうでもいいんだけど。ちゃんと自分たちの悪いとこが分かってるならいいや。あ、言っとくけどお前らがいくら自分を責めるようなこと言っても、そんなことないよ~とか言ってやらないからな? リーダーが宝を前にして目が眩んでもうちょっと探索しないかとか言い出したのはちゃんと判断ミスだし、ランが勝手な行動をしたっていうのも、それをリサがそそのかしたっていうのも事実だ」
三人ともしょんぼりした顔で俺を見た。
「いいか。冒険者ってのは先輩の意見をよく聞くもんだ。なんでかっていうと自分より経験を積んでるから。トライアンドエラーって言葉があるじゃん? たくさん失敗して学んでいくみたいなやつ。あれ、冒険者向きの言葉じゃないと思うんだよ。ほんとに危険な仕事だからな。一度のエラーで次のトライが一生できなくなるかもしれない。だから自分の代わりに失敗してきた先人に学ぶのが大事なの。俺からのアドバイスね」
「……はい。今回の件で身に沁みました」
リーダーが神妙な面持ちで頷いた。
「お前らも分かった?」
「……はい」
「すみませんでした」
リサとランも反省しているようだ。
俺は満足して大きく伸びをした。
「ん~。説教すんの気持ちぃ~」
「……は? え?」
リサが首を傾げた。
「今俺が言ったこと、昔どっかの誰かから聞いたんだよ。なんかいい感じの説教だよな~。ま、俺はお前らがどうなろうと知ったこっちゃないから真に受けても無視してもいいよ」
「えぇ……」
三人ともなんとも言えない表情を浮かべた。
ははは。
おもろ。
「まぁそんなことより、報酬の話だ。今回のクエストの報酬だけは何がなんでも受け取るからな。いくら今回限りの関係とは言っても、俺はボランティアじゃないからな」
「あぁはい。そうですよね。具体的にはどうしましょうか」
リーダーが訊いてくる。
「つってもあんまりモンスターと出くわしてないからなぁ。ヘドロの落とした素材についてはもちろんあんたらの取り分だ。俺なんもしてないし。宝箱に入ってた剣についても、見つけたのはリサとランだからあんたらのもんだな。牛肉戦士の角は、まぁ四本あるし一人一本でいいか」
「え、僕たちは受け取れませんよ。シラネさんが倒したんですし」
リーダーは渋ったが、俺は押し付けるようにして渡した。
「まあまあ受け取っとけよ。結構高く売れるぞ。大体一本1万ゴールドくらいかな」
「はぁ!? これそんなにするの!?」
ランが飛び出るくらい目を大きく開けた。
「武器を買うなり装備を買うなり好きにすりゃいい」
「な、なにが目的なんですか? まさか私たち!?」
「ひぃ!」
リサもランも自分の身を抱くようにして警戒心むき出しで俺を睨んできた。
「ガキのくせに何言ってんだ。特に意味はねぇよ。強いて言うなら先輩から後輩に対してのプレゼント。そんなことより、そろそろ隠しダンジョン見つけたってことを報告しに行かないとな。どうせその角を買い取ってもらう時に訊かれると思うけど」
それから受付のツキヨさんに諸々説明した。
ツキヨさんはまた面倒事を持ってきやがってという顔をしていた。
「私の手には余る事態なので、ギルド長に直接説明していただけますか?」
「オッケーです。あ、これ今回のクエストの戦利品です。ほら、お前らも出せよ」
俺はツキヨさんに牛肉戦士の角を差し出した。
リーダーたちもフラスコに入れたヘドロの粘液と牛肉戦士の角を出したのだが
「おそらく発見した隠しダンジョンについて説明するときにギルド長から証拠として要求されると思いますので、そちらのカウボーイの角は持っていてください」
と断られた。
その後、俺たち四人はマーヤさんに呼び出されて色々質問された。
マーヤさんは頭を抱えていた。
「ハァ……。面倒なことになったな。調査団に来てもらわないといけない」
「そっすねー」
俺は適当に相槌を打った。
マーヤさんはリーダたちの方を向いて微笑んだ。
「まぁ君たちが無事で良かった」
「はい。シラネさんに助けていただいたので」
リーダーが気恥ずかしそうに答える。
マーヤさんは呆れたように俺を見た。
「まったく、そもそもお前がちゃんと止めていれば危険な目に遭うこともなかっただろ。しっかりしろ」
「はいごめんなさい」
俺は食い気味に謝った。
「調査団の方には私から連絡を入れておく。今日は解散。ご苦労だったな」
「はーい」
ギルド長室を出た後、受付に戻ってもう一度ツキヨさんに戦利品を差し出した。
「マーヤさんからもう売っていいって言われました」
「承知しました」
ツキヨさんは戦利品と交換で報酬を渡してくれた。
ランは震える手で1万ゴールドを受け取っていた。
「ほ、ほんとにいいの?」
「おう。じゃ、俺帰るから。お疲れ~。もう関わることないかもだけど、頑張れよ~」
俺は返事も待たずに早足でギルドを出た。
すっかり暗くなっている。
精神的に色々疲れたから帰って寝たい。
しかし、すぐにリーダーが追いかけてきた。
「シラネさん。帰ったら話の続きを聞かせてくれるって言ったじゃないですか」
「あー……。そうだったな。うん。分かった。いいよ。どこで話す?」
俺は渋々了承した。
自分から言い出したことだし仕方ない。
「近くにちょっとした公園があります。この時間は滅多に人もいません」
「オッケー。じゃあそこで」
ということで、俺とリーダーは公園に向かった。
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