上 下
19 / 29
第一章

説教

しおりを挟む
 ギルドに帰り着くと、思った通り受付の周りに人が集まっていて騒がしかった。

人混みをかき分けるように進むと、ランが受付担当に必死に訴える声が聞こえてきた。

「あの男は化け物よ! 絶対野放しにしておいたらダメ!」

リサも一緒になって説明しているようだ。
「私もランと同意見です。あの人は危険ですよ! どうしてあんな人を放置しているんですか?」

「あー、ちょっといいか?」
俺の声に反応して二人がぎょっとした目でこちらを見た。
周囲の視線も一斉に俺に集まる。

ランが絶望を顔に滲ませながら訊いてきた。
「な、なんでもうここにいるの……?」
「どうせこんなことだろうと思ってな。急いで帰ってきた」
「ぼ、僕もいるよー……」
リーダーが今にも倒れそうな様子で声を上げた。

なるべく揺れないようにしたつもりだったが、リーダーは今乗り物酔いみたいな状態になっているらしい。
なんか申し訳ない。

「なんで……馬車もないのに……」
リサが呟く。

「走った。いや、そんなことより。今お前ら何してた?」

「え、あ。それは、その……」
二人とも気まずそうに視線を漂わせた。

俺はため息をついた。
「前にもこんなことがあったんだよ。あれは俺が冒険者始めたばっかの時だったかな。ゼオルたちのパーティーに入る前、今回みたいな感じでいくつかのパーティーにお試しで同行させてもらってた時期があったんだけど、そん時も今みたいな感じで帰ってきたら受付さんにパーティーの人が俺の悪口言ってたことがあったんだよ。受付さんもそのこと憶えてるでしょ? 騒ぎになったし」

「はい。ありましたね」
受付担当のツキヨさんはいつもと変わらず淡々と答えた。

この人、美人なんだけど信じられないほど愛想がないんだよなぁ。
まぁどうでもいいけど。

「他の方のご迷惑になりますので、どこか別の場所で話し合ってください。結論が出たら受付窓口までどうぞ」
ツキヨさんに注意されて、リサとランはしょぼんとした。

「じゃ、その辺適当に座って話し合おうぜ」
俺がそう言うと、二人ともすごく嫌そうな顔をしながら小さく頷いた。

「ほら、みんなも解散! シッシ」
俺が手で追い払うような仕草をすると、野次馬共も散っていった。


 ギルド内の適当な席に四人で腰かけた。
俺はちょっと叱りつけるような口調でリサたちに言った。

「正直営業妨害なんだよね、ああいうことされると」
「……」
リサもランも黙って俯いたままだ。

「なんだよさっきあんなに威勢良かったのに。本人がいない時でないと威張れないのかよ。別にいいけどさ」

「あ、あのシラネさん」
リーダーが遠慮がちに申し出た。

「なに?」
「まずは僕から謝罪をさせてください。たくさん失礼な態度を取ってすみませんでした。それに隠しダンジョン内で宝箱を前にした時、僕がすぐに帰ろうって言っていれば危険な目に遭わなかったかもしれません」

「ちょっと。あれはあたしが勝手な行動をしたからであって、別にあんたが悪いわけじゃないじゃん」
ランがリーダーを庇うように言った。

「いや、私が悪いのよ。私が隠しダンジョンに入るようにランをそそのかしたの」
リサもそんなことを言い出した。

俺は意外に思った。
互いのことを庇い合うような精神がこいつらにあるとは。

「へぇー。もっと罪をお互いになすりつけるような展開になると思ってたわ」

リーダーが苦笑いした。
「僕たちは結構長い付き合いでして。なんだかんだ言いつつも仲はいいんですよ」

「ふーん。まぁそんなことどうでもいいんだけど。ちゃんと自分たちの悪いとこが分かってるならいいや。あ、言っとくけどお前らがいくら自分を責めるようなこと言っても、そんなことないよ~とか言ってやらないからな? リーダーが宝を前にして目が眩んでもうちょっと探索しないかとか言い出したのはちゃんと判断ミスだし、ランが勝手な行動をしたっていうのも、それをリサがそそのかしたっていうのも事実だ」

三人ともしょんぼりした顔で俺を見た。

「いいか。冒険者ってのは先輩の意見をよく聞くもんだ。なんでかっていうと自分より経験を積んでるから。トライアンドエラーって言葉があるじゃん? たくさん失敗して学んでいくみたいなやつ。あれ、冒険者向きの言葉じゃないと思うんだよ。ほんとに危険な仕事だからな。一度のエラーで次のトライが一生できなくなるかもしれない。だから自分の代わりに失敗してきた先人に学ぶのが大事なの。俺からのアドバイスね」

「……はい。今回の件で身に沁みました」
リーダーが神妙な面持ちで頷いた。

「お前らも分かった?」
「……はい」
「すみませんでした」
リサとランも反省しているようだ。

俺は満足して大きく伸びをした。
「ん~。説教すんの気持ちぃ~」

「……は? え?」
リサが首を傾げた。

「今俺が言ったこと、昔どっかの誰かから聞いたんだよ。なんかいい感じの説教だよな~。ま、俺はお前らがどうなろうと知ったこっちゃないから真に受けても無視してもいいよ」

「えぇ……」
三人ともなんとも言えない表情を浮かべた。

ははは。
おもろ。

「まぁそんなことより、報酬の話だ。今回のクエストの報酬だけは何がなんでも受け取るからな。いくら今回限りの関係とは言っても、俺はボランティアじゃないからな」

「あぁはい。そうですよね。具体的にはどうしましょうか」
リーダーが訊いてくる。

「つってもあんまりモンスターと出くわしてないからなぁ。ヘドロの落とした素材についてはもちろんあんたらの取り分だ。俺なんもしてないし。宝箱に入ってた剣についても、見つけたのはリサとランだからあんたらのもんだな。牛肉戦士の角は、まぁ四本あるし一人一本でいいか」

「え、僕たちは受け取れませんよ。シラネさんが倒したんですし」
リーダーは渋ったが、俺は押し付けるようにして渡した。

「まあまあ受け取っとけよ。結構高く売れるぞ。大体一本1万ゴールドくらいかな」

「はぁ!? これそんなにするの!?」
ランが飛び出るくらい目を大きく開けた。

「武器を買うなり装備を買うなり好きにすりゃいい」

「な、なにが目的なんですか? まさか私たち!?」
「ひぃ!」
リサもランも自分の身を抱くようにして警戒心むき出しで俺を睨んできた。

「ガキのくせに何言ってんだ。特に意味はねぇよ。強いて言うなら先輩から後輩に対してのプレゼント。そんなことより、そろそろ隠しダンジョン見つけたってことを報告しに行かないとな。どうせその角を買い取ってもらう時に訊かれると思うけど」

それから受付のツキヨさんに諸々説明した。
ツキヨさんはまた面倒事を持ってきやがってという顔をしていた。

「私の手には余る事態なので、ギルド長に直接説明していただけますか?」

「オッケーです。あ、これ今回のクエストの戦利品です。ほら、お前らも出せよ」
俺はツキヨさんに牛肉戦士の角を差し出した。

リーダーたちもフラスコに入れたヘドロの粘液と牛肉戦士の角を出したのだが
「おそらく発見した隠しダンジョンについて説明するときにギルド長から証拠として要求されると思いますので、そちらのカウボーイの角は持っていてください」
と断られた。


 その後、俺たち四人はマーヤさんに呼び出されて色々質問された。
マーヤさんは頭を抱えていた。

「ハァ……。面倒なことになったな。調査団に来てもらわないといけない」
「そっすねー」
俺は適当に相槌を打った。

マーヤさんはリーダたちの方を向いて微笑んだ。
「まぁ君たちが無事で良かった」
「はい。シラネさんに助けていただいたので」
リーダーが気恥ずかしそうに答える。

マーヤさんは呆れたように俺を見た。
「まったく、そもそもお前がちゃんと止めていれば危険な目に遭うこともなかっただろ。しっかりしろ」
「はいごめんなさい」
俺は食い気味に謝った。

「調査団の方には私から連絡を入れておく。今日は解散。ご苦労だったな」
「はーい」
ギルド長室を出た後、受付に戻ってもう一度ツキヨさんに戦利品を差し出した。

「マーヤさんからもう売っていいって言われました」
「承知しました」
ツキヨさんは戦利品と交換で報酬を渡してくれた。

ランは震える手で1万ゴールドを受け取っていた。
「ほ、ほんとにいいの?」

「おう。じゃ、俺帰るから。お疲れ~。もう関わることないかもだけど、頑張れよ~」
俺は返事も待たずに早足でギルドを出た。

すっかり暗くなっている。
精神的に色々疲れたから帰って寝たい。
しかし、すぐにリーダーが追いかけてきた。

「シラネさん。帰ったら話の続きを聞かせてくれるって言ったじゃないですか」

「あー……。そうだったな。うん。分かった。いいよ。どこで話す?」
俺は渋々了承した。
自分から言い出したことだし仕方ない。

「近くにちょっとした公園があります。この時間は滅多に人もいません」
「オッケー。じゃあそこで」
ということで、俺とリーダーは公園に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「そうじ」の力で異世界は救えるか?

掃除屋さん
ファンタジー
 ただの掃除屋が異世界に転移してしまった。力無きゆえ処分されるかと思いきや1人の王女に引き取られる。  魔物と人間が争う世界で、人間の主人公は掃除を通じて魔物達との距離を縮める。  果たして人間と魔物が分かり合える日は来るのか。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...