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第一章

迷子

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 マーヤさんが暇になるまで、まだまだ時間がある。
俺はヒユネリの花を片手に町を歩き回った。

この国は魔王城から遠い位置にあり、比較的平和で治安も悪くない。

平和が一番だ。
人々の防犯意識が薄いと物を盗るのも簡単だし。

それに人が笑顔でいるのを見ることが俺は好きだ。

俺が今まで冒険してきた中で立ち寄った国では、魔王軍の侵攻に怯え、今日を生きることで精一杯な人を見ることも多かった。

それに比べてこの国は、この町はなんて平和なんだろう。

やっほーい!
平和最高!

そんなことを考えてながら歩いていると、道端で泣いている子供を発見した。

道行く人々はみんな見て見ぬふりをしている。

けしからんな。
誰か声を掛けてやればいいものを。
仕方がないので俺が行くことにした。

「どうしたんだ? なんで泣いてる?」
しゃがみ込んで声を掛けると、子供は顔を上げて腫れた目で俺の顔をじっと見てきた。

「おかあさんとはぐれちゃった。迷子になっちゃったの」
「はーん。迷子ねぇ」

俺は周囲をざっと見渡してみたが、この子の保護者らしき人物は見当たらない。

視線を子供に戻すと、また俯いてシクシク泣いていた。

「なぁ。どこで離れ離れになっちまったんだ? ……おい、男がいつまでも泣いてんじゃねえよ。ってかお前名前は?」
「……ソーヤ」

「ソーヤね。で? どこまで一緒にいたか覚えてるか?」
「……分かんない」

「そっか。じゃあどっちから来たのかは分かるか?」
「あっち」
ソーヤは俺が来た道を指差した。

「じゃああっちに向かって歩いてれば出くわすんじゃねぇの? とりあえず行ってみようぜ」
「え……うん。わかった」

ソーヤは俺の顔をじっと見つめたかと思うと、こくんと頷いて立ち上がった。
そして俺の方に手を差し出してきた。

「ん? なんだよその手は?」
「……また迷子にならないように」

「あー。手繋いでたら迷子にならなくて済むもんな。お前頭良いな」
「へへ」

そうして俺たちはソーヤの母親を探し始めた。
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