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ひよこ鑑定士になりたい

クジラ

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 私は購入した紙に『海を渡る方法を考えよ』と大きく書きました。

そしてそれを掲示板の空いたスペースに貼り付けました。
完璧です。
つまり、私の作戦はこういうものです。

掲示板でこの張り紙を見た人はきっと足を止め、反射的に頭の中で海を渡る方法を考えることでしょう。

それを私が心を読み取ることで教えてもらうのです。
天才ですね。

私は物陰に隠れ、掲示板の方をじっと観察し始めました。

バウワウが三回あくびした頃に、私の張り紙に目を留める人物が現れました。
真面目そうな青年でした。

「来た! 来たわよ!」
「んー? はいはい分かった分かった」
バウワウの気の抜けた返事を聞きながら、私はその人物の心の声に集中しました。

「ふむ。海を渡る方法、か。まず始めに思い浮かぶのは当然船だな。しかし、そんな分かり切った答えを求めてこんなものをわざわざ掲示する者はいないだろう。これを見た人になるべく多くの方法を考えることを出題者は望んでいると考えるべきだ。では船以外にどのような方法が考えられるだろうか。……現実的ではないかもしれないが、泳ぐというのも一つの方法だ。その他には……ん? いや待てよ。これは、はたして肉体が海を渡る方法だけを考える問題なのか? もしかすると、精神的な意味合いかもしれない。例えば、海の向こうにある遠い異国の地について書かれた本を読めば、心が海を越えたと言うこともできるのではないか?」

あ、これはまずいですね。
面倒臭い人だったみたいです。
そんな深い意味ではないのに。

結局その人は、延々と私の求める答えから遠ざかっていきました。
失敗です。

私はその人がどこかへ立ち去った後、さっと掲示板に近づき、『深く考えないでください』と書き足しました。

ネクストチャレンジです。
私はまた物陰から様子を伺いました。

今度はすぐに人が来ました。
二人組の可愛らしいお嬢さんたちです。

「ねぇ見て見てー。これ、なんか面白そう!」
元気な子がそう言うと、
「ん? なんだろうね、これ」
もう一人の冷静そうな子が首を傾げました。

私は心を読むのではなく、普通に二人の会話を盗み聞きしました。

「海を渡る方法……やっぱり船かな~」
元気ちゃんが少し考えてから言いました。

「深く考えないでくださいって書いてあるね」
冷静ちゃんが注意書きに気づいたようです。

「お、ほんとだ。ってことは……水の上を走る、とかでもいいのかな?」

「深く考えないって言ってもそれは流石に適当すぎるでしょ」
二人はクスクスと楽しそうに笑いました。

「ん~。……あ! あれはどうだろう」
元気ちゃんが何か思いついたようです。

「あれって?」
「ほら、例のクジラだよ。今、ちょうど隣町の港に接近してるって話じゃない」
「あー。アリかもね」

私は何のことだと一瞬考えましたが、すぐに思い至りました。

彼女たちの言うクジラとは、きっと世界で一番大きなクジラのことです。
ただのクジラではありません。
本当に巨大なクジラなのです。

そのクジラは常に背を海面に出しながら大洋を縦横無尽に泳ぎます。

クジラの背には国があります。
ありました、という方が正確かもしれませんが。

今はその国には誰も住んでおらず、廃墟と化しているという噂を聞いたことがあります。
有名な話なのです。

どこかの人々はそのクジラのことを神聖視しているとかなんとか。
とにかく、デカいクジラなのです。

そのクジラに乗って海上を移動するというのは思いつきませんでした。

もちろんクジラにどうやって乗るのか、などの問題はあるのですが、私は元気ちゃんがクジラと言った瞬間、これしかないと思いました。

私がクジラに乗って海を渡るということがとても自然なことに感じられたというか、それが運命だと感じたというか。
何故だかそうするべきだと思ったのです。

私がそんなことを考えているうちに、いつの間にかお嬢さんたちはどこかに去っていました。

「タイミング良く隣町に近づいて来てるのか……。ねぇバウワウ。どう思う?」

「んー。クジラってあの有名なクジラのことでしょ? どうだろうねぇ。クジラの背にある国は滅んでるんじゃなかったっけ。食べ物とか確保できるのかなぁ」
確かにそれは重要な問題です。

「そうねぇ……。魚を釣ったりしてどうにかできないかしら」

「魚釣りか。んー。……まぁ食料調達が上手くいくかは一旦置いておいて、クジラを海上移動の方法の一つとして考えるのはアリかもしれないね。デンジャラ熱帯林に行く前にサバイバル経験を積んでた方がいいと思うし」

「なるほど。確かにそうね。バウワウさえいればどうにかなると思ってたけど、私自身のスキルも上げておくに越したことはないわ」

「そうそう。あんまり僕を当てにしないで。じゃあ今からはクジラに乗る方法を考えてみようか」
私たちはまた考え始めました。
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