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常識はそんなに悪いもんじゃない

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 泡雲あわぐも冴月さつきは子供の頃から常識が嫌いだった。

常識を鵜呑みにしている人間のことを下に見ていたし、自分だけはそんな奴らとは違うのだと思っていた。

そんな泡雲は豪落ごうらく高校に通っている。
一年生である。


 その日は泡雲にとって人生の転機になったと言ってもいい。

泡雲が幼い頃から持っていた価値観が大きく揺らいだのだ。

始まりは月写つきうつし水面みなもと小野寺けいの会話に割って入ったことだった。

泡雲の席は一番前の左から二番目で、月写の席は左から三番目。
つまり泡雲の右隣りの席の生徒が月写だ。

それは三限と四限の間の休み時間のことだった。
先に述べたように月写と小野寺が話していた。

座って頬杖をついている月写に対して、小野寺はその正面にしゃがみ込んで月写の顔を覗き込むような体勢だった。

小野寺が言った。
「みなもんは流行りに疎そうでゴザルよな」
小野寺はゴザル口調で話す。
そして月写のことをみなもんと呼ぶ。

月写は頷いた。
「まぁそうかもな。ネットとかあんま見ないからな」

「へぇ。それはなんとなくでゴザルか? それともなんか特別な理由でもあるでゴザル?」

「んーそうだな。強いて言うなら正確でない情報を見聞きするのが好きじゃないんだ」

「あー。ネットには本当かどうかよく分からんことが溢れてるでゴザルからな」

「国が出してる情報だったりすると、ある程度信用できると思うからたまに見るがな」

そこで泡雲が突っかかった。
「ちょっといいかい? 国が出している情報が信用できるだって?」

「ああ。何かおかしいか?」
月写が訊き返す。

泡雲はわざとらしくため息をついた。
「はぁ。君は優秀だから僕と同じ側の人間かと思っていたんだが、どうやらそうではないみたいだね。常識を鵜呑みにするような愚か者だったとは。国が出してる情報なんて嘘ばっかりだよ。政府は情報統制をして僕たち一般人に様々な真実を隠しているんだ。僕はテレビも新聞も、あらゆるメディアを信用していない。あれは僕たちを洗脳しようとしているのさ。君も早く真実に気づいた方がいい」

小野寺はその言葉を聞いて首を傾げた。
「国が発信してる情報が嘘なのかどうかなんて正直どうでもいいでゴザルが、常識を鵜呑みにするのが愚か者ってのは意味分からんでゴザルな」

「はっ。バカには分からないかもね」
泡雲は小野寺のことを見下していた。

小野寺は食い下がる。
「まあまあそう言わずに。拙者にも分かるように説明してほしいでゴザルよ」

「んー仕方ないな。面倒だが、常識を妄信することが如何に愚かなことか、僕が説明してあげよう」

こんな態度をとっているが、実のところ泡雲は自分の考えを話したくてうずうずしていた。

泡雲がかなり大きな声で喋っていたので、教室にいる生徒たちは自然と泡雲の方に意識を向けていた。

泡雲は
「何から説明すればいいかな。そうだな……」
と言って顎に手をやった。

数秒そうした後に、泡雲は教室後方を振り返って口を開いた。

「佐々木。君は天動説というものを知っているかな?」
「……え? なんで僕……?」

泡雲に突然訊ねられた佐々木ささき恭介きょうすけは驚きながらも答えた。

「地球が宇宙の中心って考え方するやつでしょ?」
「そうだね。すべての天体は地球を中心としてその周りを回っているというアレだ」
泡雲は満足そうに頷いた。

泡雲が急に佐々木に振ったのは、小野寺が一番親しくしているのが佐々木だからというのと、佐々木がどの程度の人間かテストしたのだ。

何故そんなことをするのかといえば佐々木は最近転入してきたばかりで、まだどのくらいの能力を持った人間なのか測りきれていなかったからだ。

泡雲には無意識に人を評価して決めつける癖があった。

ちなみに同じ日に佐々木と一緒に転入してきた小野寺については、泡雲の中ではすでに評価が定まっていた。

泡雲は話を続けた。
「信じられないかもしれないが、昔はこの考えが当たり前だったんだ。ところで小野寺。君はジョルダーノ・ブルーノやガリレオ・ガリレイを知っているかな?」
「知ってるでゴザルよ」
小野寺は頷く。

泡雲は鼻で笑った。
「ふん。見栄を張るといいことないよ。まぁいいけど。この人たちは地動説といって地球が回っているという説を唱えた。これは天動説を否定するものだね。そして処罰されてしまったのさ」

そのタイミングでチャイムが鳴り、授業をするために山川先生が入ってきた。

「はーい。授業始めますよ~ってあれ。なんかあった?」

クラスメイトが全員泡雲の話に耳を傾けていることに気づいた山川先生が誰にともなく訊いた。

「冴月殿が常識についてご高説垂れてくださっているんでゴザルよ」
小野寺が皮肉っぽく答える。

「へぇ~面白そう。じゃあいい感じに話が決着してから授業しよっか」

「え、いいんですか?」
泡雲が訊き返すと、山川先生は欠伸をしながら
「まぁたまにはいいんじゃない?」
と適当に答えた。

「じゃあ続けさせてもらいますね」
泡雲はそう言って話を再開した。

「ガリレオたちは正しいことを言ったのに処罰されてしまった。これは実に馬鹿馬鹿しいと思わないかい?」

「あ、もしかして天動説やら地動説やらの話? それで常識についてか。なるほどね。あ、ごめん。続けて」
山川先生が独り言のように言ってから、慌てて謝った。

泡雲は咳払いしてから続けた。
「このことから分かるように、常識を何も考えずに信じるというのは危うくて愚かな行為なのさ。僕はガリレオのように常識に囚われず真実を追求したい。だからこそ僕は常識が嫌いだし、常識を鵜呑みにするのは愚かだと言うのさ。しかし世の中の多くの人は常識を信用しすぎている。僕から言わせれば常識の奴隷だね。そんな風に間違ったことを信じないようにするためには常識を疑うことが何より大切なんだ。僕は常識を疑って生きていく。たとえガリレオのように処罰を受けたとしても真実を叫んでいくつもりだ」

泡雲が演説を終えると、クラスメイトの何人かが
「おぉ……」
と感心したような声を上げた。

しかし全員が泡雲の言葉に感銘を受けたわけではなかった。

月写は興味なさそうに呆然と目の前の黒板を眺めているし、小野寺や佐々木は退屈そうな表情を浮かべている。

やがてゆっくりと小野寺が口を開いた。
「話し終わった感じでゴザルよな? じゃあそろそろ反論してもいいでゴザルか?」

その言葉を聞いて泡雲は一瞬きょとんとしたが、すぐにニヤリと笑った。
「ああ。いいとも。聞こうじゃないか」
そんなことを言って余裕の笑みを見せる。

小野寺は頷いてから話し始めた。
「じゃあ最初に質問でゴザル。冴月殿はさっき常識を疑うことが大切だと言ったでゴザルな。まぁそれについては同意するでゴザルが、じゃあどうして大事なんでゴザル?」

「さっき言っただろう? 間違ったことを信じないようにするためさ」

「別にその答えが間違いとも言わんでゴザルがな。でもちょっと違うでゴザルよ」
「なんだって?」
泡雲は眉をひそめた。

「常識を疑わなければならない一番の理由は、先入観を持たないようにするためでゴザル」

「あ~なるほど。先入観ね。確かにその通りだ。常識は正しいっていう先入観を持たないことは大事だと僕も思うよ。なかなかいいこと言うじゃないか」

「多分分かってないでゴザルよ」
「え?」

「拙者は、正しい正しくないに関わらず先入観を持つべきではないって言ってるんでゴザル」
「……どういうことだい?」

「さっきの冴月殿の話の中では常識を否定するようなことばかり言ってたでゴザろう? それでは駄目って話でゴザル。つまり冴月殿は『常識は間違っているという先入観』を持っているんでゴザルよ。それは常識を鵜呑みにするのと本質的に何も変わらないことでゴザル。肯定しているか否定しているかの違いしかないでゴザルからな。どちらも常識を判断基準にしてしまっているという点において共通しているでゴザろう?」

泡雲の顔が曇り始めた。
クラスメイトたちは固唾を呑んで事の成り行きを見守っている。

小野寺は淡々と続けた。
「冴月殿は常識が嫌いだと言ったでゴザルな。それは立派な先入観だと思うでゴザルよ。公平な視点で物事を見るのなら好き嫌いなんて考えるべきではないし、それを誇らしげに公言するのもどうかと思うでゴザル。どうやら冴月殿は常識を否定している自分の方が、常識を鵜呑みにしている人よりも優れていると勘違いしているようでゴザルが、それは違うでゴザルよ。同レベルでゴザル。冴月殿がやっているのはあくまでも何も考えずに常識を否定することであって、常識を疑うことなどでは決してないでゴザルからな。鵜呑みにしているのと何も変わらない思考停止でゴザルよ。どうでゴザル? 見下していた奴らと自分が何も変わらないということを知った気分は?」

泡雲はもはや何も言わずに俯いていたが、突然感情をあらわにしながら叫ぶように言った。

「世の中には常識を隠れ蓑にして悪いことをしている者がたくさんいる! それを許せないという僕の気持ちが間違っているとでも言うのか!?」

「は? いきなり何を言ってるんでゴザル? 話聞いてたでゴザルか? まぁ理解できてないからそんなこと言ってるんでゴザろうけど……。とりあえずそこについてはあんまツッコまないでおくことにするでゴザル。んで、常識を隠れ蓑にしてる悪者って例えば?」

「政府やメディアなんかさ!  僕は真実を知っている! あいつらは僕たちを騙しているんだ!」

「へぇ。意味分からんでゴザルな。そんなこと言ってるの世界で冴月殿くらいのものだと思うでゴザルよ」

「違う! 僕は一人なんかじゃない! 世の中にはすでに真実に気づいている人がたくさんいるんだ!」
その時、佐々木が噴き出した。

泡雲がさっと振り返って睨みつける。

「何がおかしい!」

佐々木は涼しい顔をして答える。
「気づいてないかもしれないけど、今の誘導されてるよ。けいは泡雲からその言葉を引き出すために煽ったんだよ」

小野寺はそれを聞いて肩をすくめた。
「まぁ恭介殿の言う通りでゴザルよ。流石にちょっと大人げなかったでゴザルな。んー。じゃあこっからは恭介殿に任せるでゴザル。拙者ちょっと喋り疲れた」
「えぇ……。まぁいいけど」

佐々木は渋々といった様子で小野寺から引き継いで話を再開した。

「えーっと。じゃあけいが泡雲からその言葉を引き出すことでどういう風に話を展開しようとしてたかってことを僕なりに想像しながら喋るね。……泡雲が今言った、真実に気づいてるたくさんの人っていうのは泡雲の知り合い?」

泡雲は警戒しながら答えた。
「知り合いってわけじゃないが、実際そういう人はたくさんいるんだ」

「別にそれが嘘だって言ってるわけじゃないよ。ただ、そのたくさんの人っていうのはさ、多分だけどネットの中でしか会えないでしょ? 現実で見かけたことある?」
「……あるさ」

「そっか。まぁそれの真偽については今はあえて問わないことにするよ。でもね、ネットにたくさんいるお仲間さんたちなんて信用ならないよ? それこそ常識くらいね。本気で言ってるのか判断するのがなかなか難しいし、ネットのお仲間さんたちも同じようにネットのお仲間さんたちを頼りにしてると思う。ネットなんてある程度好き勝手無責任に適当なこと言えるんだからね。それにSNSや動画投稿サイトは泡雲がよく見るものを勧めてくる。それによって世の中に泡雲みたいな考えのやつが溢れているように思うかもしれないけど、それは勘違いだからね。ネットにはいつでも仲間がいるかもしれないけど、今みたいに真実に気づいてる俺カッケー! してたら現実では泡雲の周りからどんどん人がいなくなるよ。そしたら多分もっとネットのお仲間に縋るようになる。悪循環だね。今泡雲が属しているコミュニティーはそういう風に形成されて拡大したものだと思うよ」

「……うるさい。黙れ。いくらお前らがバカにしたとしても、真実に気づいているのは僕たちだ」

「真実……真実ねぇ。確かに泡雲に見えているのは真実なのかもね。泡雲は真実を見つめることで事実と現実から目を逸らしているんだよ。別に真実が悪だとか言うわけじゃないけど、向き合うべきは事実であり現実だ」

「事実さ……現実さ! 僕に見えているのは本当のことだ!」

「んー。泡雲が言ってることってさ、最初は『そうだったら面白いな』だったのにいつの間にか『そうなんじゃないか』に変わってて、それが『そうに違いない』に進化して、最終的に『そうであってくれ、そうでなければ困る』に変わっていったんじゃないかな。そういうものには事実がどうであれ、それが本当のことであると信じていなければならないっていう事情があるからね。さっき天動説とかの例を出してたけどさ、まさにそれに当てはまるんじゃないかな。昔、世界が天動説を否定されることを拒んだように、泡雲は自分の信じているものが否定されることを拒んでいるんだよ。自分がガリレオ側だと思ってたでしょ? 違うよ。むしろ性質的にはガリレオを処罰した側に近い。自分にとっての真実を守るために、異なる考え方を受け入れようとしないって、まさにそうじゃない?」

「……」
泡雲は黙って佐々木を睨んでいる。

「常識を否定して自分にとっての真実は妄信するっていうのは、泡雲の言葉を借りるなら、『非常識の奴隷』ってとこかな。……まぁこのくらいにしとこうか。けいもそうしてたと思うけど僕は今、有益な話し合いにするためにあえて反論できる材料を残しながら話してたんだけど、気づいてた?」

泡雲は佐々木の言葉を聞いて目を見開いた。

佐々木はそんな泡雲にちょっと引きながら言った。
「気づいてなかったのか……。まぁいいけど。それじゃあ今日僕たちが言ったことをよく考えてみて、反論が思いついたらまたかかっておいで。そろそろいい加減にしとかないとね。本来は授業中なわけだし」

泡雲は絶望を顔に滲ませながらガックリと肩を落とした。

「あ、最後にちょっとだけいいでゴザルか?」

小野寺が手を挙げた。
誰も止める者はいなかった。

小野寺は遠慮なくトドメを刺すように言った。
「冴月殿、常識を疑えっていうのは多分天才向けの言葉でゴザル。少なくとも逆張りしてるってだけで真実を知った気になって人のことを見下して悦に浸ってるような奴向けの言葉じゃないでゴザルよ。そもそも現代人はクソ忙しいんでゴザルから、いちいち常識を疑ってる暇なんかないでゴザル。常識を鵜呑みにするのはあまり良くないことでゴザルが、別に最悪なわけでもないでゴザルよ。なんだかんだ便利な指標ではあるでゴザルからな。普通に生きる分には特に支障はないはずでゴザル。偉人になりたいとかってわけじゃないのなら気にする必要はないものなんでゴザルよ。それと、冴月殿はどうやら社会に不満を抱いているとお見受けするでゴザル。もしそうならまずは自分を変えるでゴザルよ。自分一人すら変えられない奴に何十億人という人間が暮らしている社会を変えられるわけがないでゴザろう? 拙者からは以上でゴザル。長々とすまなかったでゴザルな、先生」

突然振られた山川先生は
「え、ああ。別にいいけど。……えーっと。泡雲? 体調悪かったりしないか? 保健室行ってもいいぞ」
と言った。

「……そうします」
泡雲は目元を押さえながら席を立ち、とぼとぼ歩いて教室を出て行った。

教室にいる全員でそれを見送った。

廊下側の生徒が泡雲の姿が見えなくなったことを確認してから声を上げた。

「うおぉおお! 佐々木と小野寺があの泡雲を言い負かしたぞ!」

それを皮切りにクラスメイトが次々に歓声を上げた。

泡雲はこれまで人を見下した態度のせいで反感を買うことが多かったが、言い争いになれば必ず相手を説き伏せていたから、みんな鬱憤が溜まっていたのだ。

クラスメイトが雄叫びを上げて歓喜している時、泡雲は一人ほろりと涙を流していた。
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