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第三章 一月、最初の一週間
放送部
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木曜日。
けいが妖風と飯を食っている時、僕は狐酔酒と二人、教室で昼飯を食べていた。
僕はずっと気になっていたことを狐酔酒に訊いてみることにした。
「昼休みにさ、校内放送があるけどアレは放送部の仕業だよね?」
「そうだぜ。放送部も大変だよな~」
狐酔酒が頷くと同時にチャイムが鳴った。
「こ~な~いほ~そ~」
ピンポンパンポーンのイントネーションでスピーカーから放送部の男子生徒の声が聞こえてくる。
「こんにちは。一月十二日木曜日お昼になりました。放送部二年茶獅谷行人です。皆様はどのようなお昼をお過ごしでしょうか。……今日の桜倉町は晴れましたね。火曜は雪が降っていましたが、昨日には天気も回復して今日も気持ち良く晴れ渡っています。えーではさっそくですが、迷子のお知らせです。わんぱくクラブの月写水面さ……いえ、失礼いたしました。わんぱくクラブ、冷酷な錬金術師、月写水面。放課後部室に来てください」
そんな感じで放送が始まった。
みなもんの方に一瞬視線をやってみたが、みなもんは黙々とご飯を食べているだけで特に気にした様子もない。
「今更だけど、この町の名前面白いよね。桜倉町って」
僕がそう言うと狐酔酒はニッコリと笑って頷いた。
「オレ、この町の出身だからそう言ってもらえるとなんか嬉しいわ」
放送は続く。
「では本日のメッセージテーマですが、購買に追加して欲しいもの、です。たくさんのメッセージ届いております。まずは……えー、二年一組コーヒーを飲んだ羊さんから頂きました。……私が購買に追加して欲しいものは、万年筆用のインクです。はぁーなるほど。万年筆、いいですよね。……元々は勉強の気分転換のつもりで使い始めた万年筆ですが、今ではすっかり相棒となってしまい授業中にノートをとる時などにも使うため、学校でインクを補充出来たら便利だなと思います、ということです。んー万年筆ですかー。僕は使ったことがありませんが、なんだか大人な感じがして憧れがあります。かっこいいですよね。えーそうですねー。……実は僕の小学生時代の同級生に万年筆を使っていた子がいたんですよ。ほら、小学校の時って鉛筆を使うじゃないですか。シャーペンは駄目、みたいな。あれなんなんですかね。鉛筆を使うことでペンを握る力を鍛える? みたいな目的があるんですか? ちょっと僕には分からないんですけど。まぁそれはともかく、なんかね。いたんですよ。シャーペンが駄目なら万年筆を使えばいいじゃないみたいな子が。ははは。その子結構面白い子だったんですけどね。ルールの穴をつく、みたいなことが大好きな感じの。まぁ結論から言えば、それは担任の先生から許可が下りなかったんですけどね。なんでかっていうと万年筆って高級な筆記用具じゃないですか。だからそれを子供に買い与えられる家庭と買い与えることができない家庭というものがあるわけで、そうなってくると子供たちに差が生まれてしまいますよね。そういうところからいじめが起こったりするといけない、という理由だったと思います。でもその子は諦めなかったんですよ。じゃあ全員分の万年筆を買い集めて配ればみんな平等だしいいじゃないか、とかなんとか言って食い下がったんです。どんだけ鉛筆が嫌いなんだよってね。ははは。それからその子は校長先生に手紙を書いたり、クラスの子たちの家庭を回って保護者を説得しようとしたり色々してました。行動力すごいですよね。僕も手伝わされたんで覚えてます。でも結局それらの行動は実を結ばなかったんですけどね。校長は言葉を尽くしてその子を諭して、保護者たちは苦笑いするだけで誰も本気にしませんでした。それでも諦めなかったあの子は、資金集めを大人の力を借りることなく自分の手でやってやると言い出してクラウドファンディングをやろうとしたりとか、なんか色々やってました。……この話が最終的にどうなったのかというと、その子は道半ばで転校することになっちゃったので、話はうやむやになりました。その後その子がどうなったのかは知らないですけど、きっと転校先の学校でも面白いことをやってたんじゃないですかね。……というオチのないお話しだったわけですが、えー、喋りすぎましたね。ではここでリクエスト曲です。一年三組ホエイプロテインさんからのリクエストで、三番街のボス猫」
そこで音楽が流れ始めた。
「よく喋るよなー。感心だぜ」
狐酔酒がスピーカーの方を眺めながら言った。
「楽しそうだけどね」
僕の言葉に狐酔酒は苦笑いした。
「オレにゃ無理だな。一人で喋り続けるとか絶対無理。誰かと話しながらならなんとかなるかもだけど」
「確かに」
僕も狐酔酒の意見に同意だった。
この学校ではこんな感じでお昼には放送部が喋りまくる。
けいが妖風と飯を食っている時、僕は狐酔酒と二人、教室で昼飯を食べていた。
僕はずっと気になっていたことを狐酔酒に訊いてみることにした。
「昼休みにさ、校内放送があるけどアレは放送部の仕業だよね?」
「そうだぜ。放送部も大変だよな~」
狐酔酒が頷くと同時にチャイムが鳴った。
「こ~な~いほ~そ~」
ピンポンパンポーンのイントネーションでスピーカーから放送部の男子生徒の声が聞こえてくる。
「こんにちは。一月十二日木曜日お昼になりました。放送部二年茶獅谷行人です。皆様はどのようなお昼をお過ごしでしょうか。……今日の桜倉町は晴れましたね。火曜は雪が降っていましたが、昨日には天気も回復して今日も気持ち良く晴れ渡っています。えーではさっそくですが、迷子のお知らせです。わんぱくクラブの月写水面さ……いえ、失礼いたしました。わんぱくクラブ、冷酷な錬金術師、月写水面。放課後部室に来てください」
そんな感じで放送が始まった。
みなもんの方に一瞬視線をやってみたが、みなもんは黙々とご飯を食べているだけで特に気にした様子もない。
「今更だけど、この町の名前面白いよね。桜倉町って」
僕がそう言うと狐酔酒はニッコリと笑って頷いた。
「オレ、この町の出身だからそう言ってもらえるとなんか嬉しいわ」
放送は続く。
「では本日のメッセージテーマですが、購買に追加して欲しいもの、です。たくさんのメッセージ届いております。まずは……えー、二年一組コーヒーを飲んだ羊さんから頂きました。……私が購買に追加して欲しいものは、万年筆用のインクです。はぁーなるほど。万年筆、いいですよね。……元々は勉強の気分転換のつもりで使い始めた万年筆ですが、今ではすっかり相棒となってしまい授業中にノートをとる時などにも使うため、学校でインクを補充出来たら便利だなと思います、ということです。んー万年筆ですかー。僕は使ったことがありませんが、なんだか大人な感じがして憧れがあります。かっこいいですよね。えーそうですねー。……実は僕の小学生時代の同級生に万年筆を使っていた子がいたんですよ。ほら、小学校の時って鉛筆を使うじゃないですか。シャーペンは駄目、みたいな。あれなんなんですかね。鉛筆を使うことでペンを握る力を鍛える? みたいな目的があるんですか? ちょっと僕には分からないんですけど。まぁそれはともかく、なんかね。いたんですよ。シャーペンが駄目なら万年筆を使えばいいじゃないみたいな子が。ははは。その子結構面白い子だったんですけどね。ルールの穴をつく、みたいなことが大好きな感じの。まぁ結論から言えば、それは担任の先生から許可が下りなかったんですけどね。なんでかっていうと万年筆って高級な筆記用具じゃないですか。だからそれを子供に買い与えられる家庭と買い与えることができない家庭というものがあるわけで、そうなってくると子供たちに差が生まれてしまいますよね。そういうところからいじめが起こったりするといけない、という理由だったと思います。でもその子は諦めなかったんですよ。じゃあ全員分の万年筆を買い集めて配ればみんな平等だしいいじゃないか、とかなんとか言って食い下がったんです。どんだけ鉛筆が嫌いなんだよってね。ははは。それからその子は校長先生に手紙を書いたり、クラスの子たちの家庭を回って保護者を説得しようとしたり色々してました。行動力すごいですよね。僕も手伝わされたんで覚えてます。でも結局それらの行動は実を結ばなかったんですけどね。校長は言葉を尽くしてその子を諭して、保護者たちは苦笑いするだけで誰も本気にしませんでした。それでも諦めなかったあの子は、資金集めを大人の力を借りることなく自分の手でやってやると言い出してクラウドファンディングをやろうとしたりとか、なんか色々やってました。……この話が最終的にどうなったのかというと、その子は道半ばで転校することになっちゃったので、話はうやむやになりました。その後その子がどうなったのかは知らないですけど、きっと転校先の学校でも面白いことをやってたんじゃないですかね。……というオチのないお話しだったわけですが、えー、喋りすぎましたね。ではここでリクエスト曲です。一年三組ホエイプロテインさんからのリクエストで、三番街のボス猫」
そこで音楽が流れ始めた。
「よく喋るよなー。感心だぜ」
狐酔酒がスピーカーの方を眺めながら言った。
「楽しそうだけどね」
僕の言葉に狐酔酒は苦笑いした。
「オレにゃ無理だな。一人で喋り続けるとか絶対無理。誰かと話しながらならなんとかなるかもだけど」
「確かに」
僕も狐酔酒の意見に同意だった。
この学校ではこんな感じでお昼には放送部が喋りまくる。
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