血のない家族

夜桜紅葉

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第三章 一月、最初の一週間

天才

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 三学期の始業式の日。
ボクのクラスに転校生が二人来た。

片方は佐々木恭介。
もう片方は小野寺けい。

ボクは二人が初めて教室に入ってきた瞬間、眉をひそめた。

アーメン。
絶対アレだこの二人。

ボクはずり落ちてきた遮光眼鏡を押し上げた。
そして転校生の方を見ないように視線を下げた。

また面倒なのが来たものだ。
こんなのを見ていたらボクの脳に負担がかかる。

はぁ。

ボクの席は一番前の左から三番目。
転校生を視界に入れないためには結構下を向かなければならない。

押し上げたばかりの遮光眼鏡がまたずり落ちた。
アーメン。

転校生たちが自己紹介している間もボクはずっと下を向いていた。

結局小野寺はボクの二つ隣の席になり、佐々木は小野寺の列の一番後ろの席になった。

一番前の席であることが幸いして、授業中に転校生たちが視界に入る心配はあまりなさそうだ。

まぁそこまで気にしなくてもいいだろう。
どうせ関わることなんてない。
そう思っていたのだが……。


 水曜日。
朝、小野寺は妖風と話していた。

アーメン。
小野寺は結構お喋りな人間のようだ。
関わりたくない。

ボクは頬杖をついて片目を閉じた。
そして大きく息を吸ってゆっくりと吐き出した。

アーメンな予感がした。

ホームルームが終わった後、予感が当たり小野寺が話しかけてきた。

「ちょっといいでゴザル?」
「ちょっといいかという質問に対するボクの回答はノーだ」

「昨日の昼休みに校内放送で呼ばれてたのってお主でゴザルよな?」

「話を聞いていたか? 質問には答えないと言ったんだ」

「話を聞いていたかという質問に対する拙者の回答はノーでゴザル」

……。
ちょっと面白いやつだなこいつ。
少しくらい話を聞いてみてもいいかもしれない。

小野寺は構わず話を続けた。
「お主はわんぱくクラブに属しているんでゴザルな」
「ああ。そうだが」

「冷酷な錬金術師って呼ばれてたでゴザルな」
「そうだな」

「あれはどういう風に決まっているんでゴザル?」

「知らない。少なくともボクは自分に錬金術師の要素があるとは考えていない」

「冷酷な要素はあると思うんでゴザルか?」
「どうだろうな」

「名前と関連のある言葉が選ばれていたりはしないでゴザル?」

「ボクの名前は月写つきうつし水面みなもだ。特に関連があるようには思えない」

「なるほどでゴザル。それにしても水面殿でゴザルか。ふーむ。みなもんって呼んでいいでゴザル?」
「好きにすればいい」

「ところで、さっきから拙者の方を見てもくれないのはなんででゴザル?」

ボクは隣に立って話しかけてくる小野寺に対して正面の黒板を見ている。

小野寺は
「おーい、みなもーん」
と言ってボクの正面に立った。

ボクは視線を右に逸らした。
どうでもいいが、ボクの右隣りの席は狐酔酒だ。

あのアホ面がボクを見てニコッと笑った。
愛想だけはいい奴だ。

「全然目合わせてくれんでゴザルな。まぁいいでゴザル。んで、一番訊きたかったことなんでゴザルが、その髪の毛って地毛でゴザルよな?」
小野寺はボクの白い髪を見ながら言った。

「アーメン」
ボクは聞こえないように小さく呟いたつもりだったが、小野寺には聞こえたようで
「アーメンでゴザルか?」
と訊き返してきた。

「気にするな。……お前の言う通り、ボクの髪は染めたわけではない。生まれた時から白いんだ」

「あとその眼鏡、度が入ってないでゴザルな」
「……アーメン」

今度は声にすら出さずに口を動かしただけだったのにも関わらず、小野寺は
「さっきからアーメンってなんでゴザル?」
と訊き返してきた。

なんだこいつ。
ボクはそれに答えずに、眼鏡について答えた。

「これは遮光眼鏡だ。度は入っていない。……アルビノって知ってるか?」

アルビノというのは国の難病にも指定されている病気で、これを患っている人間は生まれつき体の色素が少ない。
ボクの髪が白いのはそのせいだ。

「もちろん知ってるでゴザルよ。なるほど、みなもんは弱視ってやつなんでゴザルな」
「なんで知ってるんだよ……」

「はっはっは」
「誤魔化すんだな。まぁいいが」

「人間以外でもたまにいるでゴザルよな。白いカラスとか。生まれつきメラニン色素が欠乏してるんでゴザったっけ。それとアルビノの方は弱視であることが多いんだったと記憶してるでゴザル。ふーむ。じゃあその片目を閉じる癖も小さい頃からのものでゴザルか?」
「ああ。癖づいてしまっていてな」

「なるほどでゴザルわ~。うむ、色々教えてくれてありがとうでゴザル。またお話しようでゴザルな~」

小野寺は自分の席に戻っていった。
また話しかけてくる気かよ。
アーメン。
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