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第三章 一月、最初の一週間
妖風緋彗
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アタシは妖風緋彗。
自分で言うことなのかは分からないが、新キャラだ。
アタシは今いわゆる地雷系メイクにハマっている。
ギャルである。
見た目は地雷、中身はギャル。
それがアタシ、妖風緋彗なのだ。
そんなアタシの前の席に転校生がやってきた。
語尾になぜかゴザルとつける変な奴、小野寺けいである。
月曜の始業式の日に転校してきて、今日は水曜日。
三日しか経っていないのにというべきか、三日も経ったからというべきか、登校してきた小野寺は手慣れた感じで自分の席に着いた。
そして振り返ってアタシに話しかけてきた。
「なんだかんだまだちゃんと挨拶してなかったでゴザルな。これからよろしくでゴザル」
「んー。よろ~」
アタシはスマホをいじりながら視線を合わせることもなく適当に答えた。
小野寺はアタシの顔を観察するようにジロジロと見てきたかと思ったら、
「つかぬことをお聞きするでゴザルが」
と、前置きして質問してきた。
「なに?」
「お主、もしや地雷系とかいうジャンルの人間でゴザル?」
「なんか失礼な訊き方じゃない? ジャンルの人間って……」
アタシはスマホから視線を上げて小野寺をジトっとした目で睨んだ。
「嫌な訊き方だったでゴザルか。それはすまないでゴザル。ところで目の下にナメクジ、ついてるでゴザルよ」
小野寺はウインクしながら言ってきた。
「髪に芋けんぴみたいに言われても。喧嘩売ってんの?」
「うぅ。そんな……そんな言い方しなくてもいいではゴザらんか……。拙者はただ、お主の目の下にナメクジがついてるってことを教えてあげようと思っただけでゴザルのに……」
「な、なんでそんな悲しそうな顔すんのよ……。やめてよ。なんかアタシが悪いことしてるみたいじゃん」
「謝ってくれたら許してあげるでゴザル」
「なんでアタシが謝んないといけないのよ」
「謝ってもらえないのなら拙者はお主を許すことができないんでゴザルよ! それでもいいんでゴザルか! ほんとに? それで本当に後悔しないんでゴザルか? 数年後に今日という日のことを思い出して後悔しているかもしれな」
「ああもう分かったわよ! 謝りゃいいんでしょ。ごめんって」
小野寺はアタシが謝った瞬間にスマホを取り出していじり始めた。
「ちょ! あんたふざけてんの!?」
「んぁ? なんのことでゴザル?」
小野寺は不思議そうに首を傾げてアタシを見てきた。
この野郎っ!
「なんのことって、今謝ったじゃん!」
「はぁ」
「え、なんなのその態度……。あんたが謝れってしつこく言ってきたから、今謝ったじゃんって言ってんの!」
小野寺はリズムに乗るように手拍子をしながら
「短気は損気! 短気は損気!」
と言ってきた。
「あんよが上手みたいに言うな」
「ナイスツッコミでゴザル。ってか名前聞いてなかったでゴザルな。なんていうんでゴザル?」
「どのタイミングで聞いてんのよ。……妖風緋彗だけど」
「緋彗殿でゴザルな。了解でゴザル。あ、そういえば風の便りに聞いたんでゴザルが、最近の女の子は蛙になれるというのは本当でゴザルか?」
「藪から棒になによ。それは、多分蛙化現象のこと言ってるんだろうけど」
「蛙化現象と言うんでゴザルか。なるほど」
「ちょっと前に流行った言葉だけど、今はもうあんま言ってる人いないんじゃないの。知らないけど」
「若者の流行り廃りは激しいらしいでゴザルからな。はぁ。ケロケロするところ見てみたかったんでゴザルが」
「蛙化のことケロケロするとか言わないから」
「ちなみに緋彗殿も変身できるんでゴザルか? できるのなら変身シーン見せてほしいでゴザル」
「いや、蛙化は変身とも言わないから」
「なにガエルなのか気になってたんでゴザルよ。アマガエルなのかヒキガエルなのか」
「蛙化ってマジで蛙になることじゃないから。ってかアタシ思うんだけどさ」
「お、我思うシリーズでゴザルか」
「さてはあんた、アタシのこと果てしなくバカにしてるな?」
「別に~。で? 何を思うんでゴザル?」
「ちょっとしたことで嫌いになるくらいなら、最初からその程度の愛だったってことで、些細なことで気持ちが冷めちゃったのならそれはもうどっちが悪いとかじゃなくて、そのくらいの関係だったっていうか、別れた方がいいってことがはっきりしてむしろ良かったっていうか、そんな感じだと思うんだよね~」
「……ん? あ、ごめん聞いてなかったでゴザル」
「聞け」
「マイクロプラスチック問題について考えてたでゴザル」
「それは……大事な問題だけど! 今考えることじゃないはず!」
「緋彗殿の蛙化現象に対する見解とマイクロプラスチック問題。この二つのどちらがより重要なことか。比べるまでもないでゴザルな」
「くっ! ムカつく~!」
「短気は損気! 短気は損気!」
「もうええわ」
これが小野寺との初めての会話だった。
正直、この時のアタシは小野寺のことをムカつく奴だとしか思っていなかった。
それが……あんなことになるなんて……。
とかなんとかそれっぽいことを言ってたら、もしかするとメインヒロインになれるかもしれないので、とりあえず言ってみたアタシだ。
自分で言うことなのかは分からないが、新キャラだ。
アタシは今いわゆる地雷系メイクにハマっている。
ギャルである。
見た目は地雷、中身はギャル。
それがアタシ、妖風緋彗なのだ。
そんなアタシの前の席に転校生がやってきた。
語尾になぜかゴザルとつける変な奴、小野寺けいである。
月曜の始業式の日に転校してきて、今日は水曜日。
三日しか経っていないのにというべきか、三日も経ったからというべきか、登校してきた小野寺は手慣れた感じで自分の席に着いた。
そして振り返ってアタシに話しかけてきた。
「なんだかんだまだちゃんと挨拶してなかったでゴザルな。これからよろしくでゴザル」
「んー。よろ~」
アタシはスマホをいじりながら視線を合わせることもなく適当に答えた。
小野寺はアタシの顔を観察するようにジロジロと見てきたかと思ったら、
「つかぬことをお聞きするでゴザルが」
と、前置きして質問してきた。
「なに?」
「お主、もしや地雷系とかいうジャンルの人間でゴザル?」
「なんか失礼な訊き方じゃない? ジャンルの人間って……」
アタシはスマホから視線を上げて小野寺をジトっとした目で睨んだ。
「嫌な訊き方だったでゴザルか。それはすまないでゴザル。ところで目の下にナメクジ、ついてるでゴザルよ」
小野寺はウインクしながら言ってきた。
「髪に芋けんぴみたいに言われても。喧嘩売ってんの?」
「うぅ。そんな……そんな言い方しなくてもいいではゴザらんか……。拙者はただ、お主の目の下にナメクジがついてるってことを教えてあげようと思っただけでゴザルのに……」
「な、なんでそんな悲しそうな顔すんのよ……。やめてよ。なんかアタシが悪いことしてるみたいじゃん」
「謝ってくれたら許してあげるでゴザル」
「なんでアタシが謝んないといけないのよ」
「謝ってもらえないのなら拙者はお主を許すことができないんでゴザルよ! それでもいいんでゴザルか! ほんとに? それで本当に後悔しないんでゴザルか? 数年後に今日という日のことを思い出して後悔しているかもしれな」
「ああもう分かったわよ! 謝りゃいいんでしょ。ごめんって」
小野寺はアタシが謝った瞬間にスマホを取り出していじり始めた。
「ちょ! あんたふざけてんの!?」
「んぁ? なんのことでゴザル?」
小野寺は不思議そうに首を傾げてアタシを見てきた。
この野郎っ!
「なんのことって、今謝ったじゃん!」
「はぁ」
「え、なんなのその態度……。あんたが謝れってしつこく言ってきたから、今謝ったじゃんって言ってんの!」
小野寺はリズムに乗るように手拍子をしながら
「短気は損気! 短気は損気!」
と言ってきた。
「あんよが上手みたいに言うな」
「ナイスツッコミでゴザル。ってか名前聞いてなかったでゴザルな。なんていうんでゴザル?」
「どのタイミングで聞いてんのよ。……妖風緋彗だけど」
「緋彗殿でゴザルな。了解でゴザル。あ、そういえば風の便りに聞いたんでゴザルが、最近の女の子は蛙になれるというのは本当でゴザルか?」
「藪から棒になによ。それは、多分蛙化現象のこと言ってるんだろうけど」
「蛙化現象と言うんでゴザルか。なるほど」
「ちょっと前に流行った言葉だけど、今はもうあんま言ってる人いないんじゃないの。知らないけど」
「若者の流行り廃りは激しいらしいでゴザルからな。はぁ。ケロケロするところ見てみたかったんでゴザルが」
「蛙化のことケロケロするとか言わないから」
「ちなみに緋彗殿も変身できるんでゴザルか? できるのなら変身シーン見せてほしいでゴザル」
「いや、蛙化は変身とも言わないから」
「なにガエルなのか気になってたんでゴザルよ。アマガエルなのかヒキガエルなのか」
「蛙化ってマジで蛙になることじゃないから。ってかアタシ思うんだけどさ」
「お、我思うシリーズでゴザルか」
「さてはあんた、アタシのこと果てしなくバカにしてるな?」
「別に~。で? 何を思うんでゴザル?」
「ちょっとしたことで嫌いになるくらいなら、最初からその程度の愛だったってことで、些細なことで気持ちが冷めちゃったのならそれはもうどっちが悪いとかじゃなくて、そのくらいの関係だったっていうか、別れた方がいいってことがはっきりしてむしろ良かったっていうか、そんな感じだと思うんだよね~」
「……ん? あ、ごめん聞いてなかったでゴザル」
「聞け」
「マイクロプラスチック問題について考えてたでゴザル」
「それは……大事な問題だけど! 今考えることじゃないはず!」
「緋彗殿の蛙化現象に対する見解とマイクロプラスチック問題。この二つのどちらがより重要なことか。比べるまでもないでゴザルな」
「くっ! ムカつく~!」
「短気は損気! 短気は損気!」
「もうええわ」
これが小野寺との初めての会話だった。
正直、この時のアタシは小野寺のことをムカつく奴だとしか思っていなかった。
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