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第三章 一月、最初の一週間
マジック
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天艶の『終わり良ければすべて良し』ならぬ『終わり良くないすべて台無し』な推理を聞かされた後。
話題は意外な方向へ転じた。
天艶が特技を披露してくれると言うのだ。
「へぇー。天艶の特技ってなんだろ」
僕が相変わらずクッションに埋もれた状態のまま考えていると天艶は少しだけ胸を張って、心なしか誇らしげな顔で答えた。
「私の特技はマジックです」
「おお。意外だね。マジックか」
「はい。マジックです」
天艶はトランプを取り出し、そこから一枚引き抜くと右手に持った。
「今からこれを消します」
「マジか」
「はい。いきます」
天艶はカードを持ったまま右手を振った。
そして手を止めた時、カードは無くなっていた。
天艶の右手は指をぴったりとくっつけた状態になっている。
僕には見えた。
鍛えた動体視力によって見えてしまった。
天艶はすごく滑らかな洗練された動作で素早くカードを手の甲側に隠した。
多分ほとんどの人にはちゃんと消えたように見えるはずだ。
それくらい上手だった。
でも僕の動体視力は普通じゃない。
自分でこんなことを言うのは少し恥ずかしいけど、先生やげんじーから鍛えられているせいで僕はとても優れた動体視力を持っている。
「佐々木君?」
何も反応しない僕に天艶が心配そうに声をかけてきた。
「あー」
どうしよう。
正直に見えたと言ってがっかりさせるのもなんだか気が引けるな。
そんなことを考えていると天艶が
「その表情から察するに、もしかして見えましたか?」
と訊いてきた。
んー。
鋭いなこの子。
ちょっと怖いくらいだ。
「あーうん。ごめん。正直言うと見えちゃった。手の甲の方に隠してるんでしょ?」
「その通りです」
天艶は手の甲を見せるようにした。
「これはバックパームというテクニックです」
天艶には微塵もがっかりした様子がない。
むしろ嬉しそうな表情をしている。
気がする。
やっぱり表情の変化が乏しいから確信が持てない。
「そうですよね。忍者なんですから動体視力が素晴らしくても全然不思議じゃないです」
天艶は一人で勝手に納得してしまった。
結構便利かもしれないな、この忍者っていう設定。
あとでけいにも共有しておこう。
けいならきっと気に入るだろう。
もしかしたら気に入りすぎて語尾をニンニンにしだすかもしれない。
「すごいです。今まであまり人に披露したことはないんですけど、結構自信があったんです」
「そっか」
なんかやっぱり申し訳ないな。
「だからこそ見破られたことで佐々木君が忍者であるという実感が湧きました。流石です」
「う、うん。ありがとう」
熱量がすごいな。
目がキラキラしてる。
気がする。
「っていうか手先が器用だね。動きがすごく滑らかだった」
「ありがとうございます。小さい頃から練習してるんです」
「へぇー。何がきっかけなの? 誰かに教えてもらったとか?」
「あまりよく覚えていないんですけど、確か子供の時にお母さんが簡単なマジックを見せてくれたのがきっかけだったと思います」
「お母さんか。ふーん。天艶ってお母さん似?」
「容姿に関してはお母さんに似ましたけど、性格はお父さんに似ました」
「そうなんだ。じゃあお父さんは穏やかな人なんだね」
「まぁそうなんですかね。穏やかというかマイペースというかのんびり屋というか。そんな感じの人です」
「なんかいいね。のんびり屋のお父さんか」
天艶の声の調子から父親に対するマイナスな感情は読み取れない。
僕は天艶の家があまり裕福でない理由について勝手に天艶の父親に原因があるのではないかと考えていたのだが、もしかすると違うのかもしれない。
僕がそんな風に考えてしまうのは、きっと無意識のうちに自分たちの場合と重ねてしまっているからだろう。
僕もけいも天姉も日向も、先生に出会うまでまともな父親という存在に出会ったことがなかった。
だからだろう。
少なくとも僕には知らず知らずのうちに家庭の問題というのは父親に原因があるのだと決めつけてしまうという偏見のようなものがある。
まぁそれを言うなら母親という存在にも同様のことが言えることになるのだが、母親については僕自身が自分の実の母親を、ある日突然いなくなったあの人のことをあまり嫌いになれなかったというのがあるからか、悪役に仕立て上げることが得意じゃない。
僕は正直、あの人は賢い選択をしたと思っている。
父親がおかしくなってからあの家は終わった。
出ていくのが正解だ。
僕というお荷物を捨てて行ったのだって、新しい人生のためには仕方のないことだったのだろう。
別に恨んでいない。
あの人が僕を置いていなくなったことが、先生たちとの出会いに繋がったんだから。
願うのはあの人が僕の知らないところで勝手に幸せを掴んでいることだけだ。
……なんかすっごく話が逸れたから戻すと、天艶の性格は父親似らしくて、天艶と父親の関係はおそらく良好だということだ。
「あ、話戻るけどさ。もし良かったら僕にマジック教えてくれない?」
「え、興味を持ってくれたんですか?」
天艶はまた目を輝かせた。
「うん。忍者としても身につけておいて損のないテクニックだと思うし」
「確かにそうかもしれませんね。任務? とかにも役に立つかもしれないですね。光栄です。私なんかで良ければ是非」
「やったー。それじゃあ放課後ここで教えてもらうことにしようかな」
「あ、えっとそれって」
僕は天艶の言おうとしていることを先読みして頷いた。
「天文部に入部しようと思う」
「ほんとですか!?」
天艶はすごく嬉しそうな顔をした。
「よく考えたら僕が求める条件にぴったりなんだよね。晩飯作ったりしないといけないから毎日部活するのは結構きついと思うけど、週に一回とか二回くらいだったら全然大丈夫だし、のんびりできそうだし、天艶がいるし、マジック教えてもらえるし」
「嬉しいです。すごく」
「これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
僕たちは互いにゆっくりとお辞儀をした。
そういうわけで、僕は天文部に入ることにした。
話題は意外な方向へ転じた。
天艶が特技を披露してくれると言うのだ。
「へぇー。天艶の特技ってなんだろ」
僕が相変わらずクッションに埋もれた状態のまま考えていると天艶は少しだけ胸を張って、心なしか誇らしげな顔で答えた。
「私の特技はマジックです」
「おお。意外だね。マジックか」
「はい。マジックです」
天艶はトランプを取り出し、そこから一枚引き抜くと右手に持った。
「今からこれを消します」
「マジか」
「はい。いきます」
天艶はカードを持ったまま右手を振った。
そして手を止めた時、カードは無くなっていた。
天艶の右手は指をぴったりとくっつけた状態になっている。
僕には見えた。
鍛えた動体視力によって見えてしまった。
天艶はすごく滑らかな洗練された動作で素早くカードを手の甲側に隠した。
多分ほとんどの人にはちゃんと消えたように見えるはずだ。
それくらい上手だった。
でも僕の動体視力は普通じゃない。
自分でこんなことを言うのは少し恥ずかしいけど、先生やげんじーから鍛えられているせいで僕はとても優れた動体視力を持っている。
「佐々木君?」
何も反応しない僕に天艶が心配そうに声をかけてきた。
「あー」
どうしよう。
正直に見えたと言ってがっかりさせるのもなんだか気が引けるな。
そんなことを考えていると天艶が
「その表情から察するに、もしかして見えましたか?」
と訊いてきた。
んー。
鋭いなこの子。
ちょっと怖いくらいだ。
「あーうん。ごめん。正直言うと見えちゃった。手の甲の方に隠してるんでしょ?」
「その通りです」
天艶は手の甲を見せるようにした。
「これはバックパームというテクニックです」
天艶には微塵もがっかりした様子がない。
むしろ嬉しそうな表情をしている。
気がする。
やっぱり表情の変化が乏しいから確信が持てない。
「そうですよね。忍者なんですから動体視力が素晴らしくても全然不思議じゃないです」
天艶は一人で勝手に納得してしまった。
結構便利かもしれないな、この忍者っていう設定。
あとでけいにも共有しておこう。
けいならきっと気に入るだろう。
もしかしたら気に入りすぎて語尾をニンニンにしだすかもしれない。
「すごいです。今まであまり人に披露したことはないんですけど、結構自信があったんです」
「そっか」
なんかやっぱり申し訳ないな。
「だからこそ見破られたことで佐々木君が忍者であるという実感が湧きました。流石です」
「う、うん。ありがとう」
熱量がすごいな。
目がキラキラしてる。
気がする。
「っていうか手先が器用だね。動きがすごく滑らかだった」
「ありがとうございます。小さい頃から練習してるんです」
「へぇー。何がきっかけなの? 誰かに教えてもらったとか?」
「あまりよく覚えていないんですけど、確か子供の時にお母さんが簡単なマジックを見せてくれたのがきっかけだったと思います」
「お母さんか。ふーん。天艶ってお母さん似?」
「容姿に関してはお母さんに似ましたけど、性格はお父さんに似ました」
「そうなんだ。じゃあお父さんは穏やかな人なんだね」
「まぁそうなんですかね。穏やかというかマイペースというかのんびり屋というか。そんな感じの人です」
「なんかいいね。のんびり屋のお父さんか」
天艶の声の調子から父親に対するマイナスな感情は読み取れない。
僕は天艶の家があまり裕福でない理由について勝手に天艶の父親に原因があるのではないかと考えていたのだが、もしかすると違うのかもしれない。
僕がそんな風に考えてしまうのは、きっと無意識のうちに自分たちの場合と重ねてしまっているからだろう。
僕もけいも天姉も日向も、先生に出会うまでまともな父親という存在に出会ったことがなかった。
だからだろう。
少なくとも僕には知らず知らずのうちに家庭の問題というのは父親に原因があるのだと決めつけてしまうという偏見のようなものがある。
まぁそれを言うなら母親という存在にも同様のことが言えることになるのだが、母親については僕自身が自分の実の母親を、ある日突然いなくなったあの人のことをあまり嫌いになれなかったというのがあるからか、悪役に仕立て上げることが得意じゃない。
僕は正直、あの人は賢い選択をしたと思っている。
父親がおかしくなってからあの家は終わった。
出ていくのが正解だ。
僕というお荷物を捨てて行ったのだって、新しい人生のためには仕方のないことだったのだろう。
別に恨んでいない。
あの人が僕を置いていなくなったことが、先生たちとの出会いに繋がったんだから。
願うのはあの人が僕の知らないところで勝手に幸せを掴んでいることだけだ。
……なんかすっごく話が逸れたから戻すと、天艶の性格は父親似らしくて、天艶と父親の関係はおそらく良好だということだ。
「あ、話戻るけどさ。もし良かったら僕にマジック教えてくれない?」
「え、興味を持ってくれたんですか?」
天艶はまた目を輝かせた。
「うん。忍者としても身につけておいて損のないテクニックだと思うし」
「確かにそうかもしれませんね。任務? とかにも役に立つかもしれないですね。光栄です。私なんかで良ければ是非」
「やったー。それじゃあ放課後ここで教えてもらうことにしようかな」
「あ、えっとそれって」
僕は天艶の言おうとしていることを先読みして頷いた。
「天文部に入部しようと思う」
「ほんとですか!?」
天艶はすごく嬉しそうな顔をした。
「よく考えたら僕が求める条件にぴったりなんだよね。晩飯作ったりしないといけないから毎日部活するのは結構きついと思うけど、週に一回とか二回くらいだったら全然大丈夫だし、のんびりできそうだし、天艶がいるし、マジック教えてもらえるし」
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