血のない家族

夜桜紅葉

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第三章 一月、最初の一週間

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 五人で歩き出すと狐酔酒が
「ってかさっきの地味にヤバくね? スマホ投げてボールに当てるとか。そもそもスマホを投げるってのがヤバいだろ」
と言い出した。
改めてけいの行動に違和感を覚えたようだ。

「咄嗟のことだったとはいえ、確かに普通スマホを投げたりはしないな」
冬狼崎も同意する。

「まぁそういうこともあるでゴザルよ。思わず投げちゃったんでゴザル」

狐酔酒は訝しむようにけいを見た。
「んー。なんかお前らって世間知らずっぽいっていうかなんというか。コントロールも凄かったよな」

「たまたまで当たっただけでゴザルよ」

狐酔酒は僕たちが世間知らずなことを見抜いてきた。
意外と観察眼はあるのかもしれない。

別にやましいことがあるわけでもないが、これ以上この話を続ければボロが出て言わなくていいことまで言ってしまいそうだ。

話題を変える意味でも、僕はさっき抱いた疑問をぶつけてみることにした。

「そういえば、少し気になったんだけどさ。先生が僕たちに質問する時間を取った時は誰も質問しようとしなかったのに休み時間になった途端、急に詰めかけてきたじゃん? あれなんでだったんだろ?」

僕の言葉を聞いた狐酔酒は
「あー」
と言ってから少し考え始めた。

それから
「一応理由っぽいのはあるんだけどその前に、二人はこの学校についてどのくらい知ってる?」
と訊いてきた。

僕は質問の意図をはかりかねたが、とりあえず答えることにした。
「自由な校風ってことは知ってる」

「あとは、なんか独自の制度があってボランティアがどうとかホームページに書いてあったでゴザルな」

「そうそう。この学校って、言っちゃ悪いけど不良みたいな奴が多いんだよ。髪染めてる奴とかいっぱいいただろ? まぁ髪染めてるから不良なのかっていうと違うとは思うけど。オレも染めてるし」

そう言って狐酔酒は自分の髪を数本つまんだ。
狐酔酒の髪は黄色に染まっている。

「えーっと、それが僕の質問にどう繋がるの?」
「あれ? なんて質問だったっけ?」

やっぱりこいつアホだ。

「山川先生が質問する時間を取った時にクラスメイトが質問してこなかった理由だ」

冬狼崎の方は割としっかりしている。

この二人は、明るいアホと冷静なしっかりもののコンビでバランスが取れているのかもしれない。

「あーそうだったそうだった。そんで、不良みたいな奴が多いわけだけど、そんな奴らをどうやってまとめてると思う?」
狐酔酒は改めて質問してきた。

「普通なら校則なんだろうけど、この学校じゃ校則はかなり緩いからね。なんだろ」

狐酔酒は得意げに教えてくれた。
「それはずばり! 飴と鞭なんだよ!」
「飴と鞭か」

「オレの説明力じゃここが限界だ。げんげん、後は頼んだ」
狐酔酒は冬狼崎の肩を軽く叩いた。

冬狼崎が説明を引き継ぐ。
「飴と鞭というのを具体的にすると、飴は校則が緩いことで、鞭がボランティア活動をさせられることや学校行事へ参加できなくなること等だな」
「もうちょい詳しく頼むでゴザル」

冬狼崎は頷いて説明を続けた。
「まず飴についてはそのままだ。校則が緩く、生徒たちにはかなりの自由が許されている。そして鞭の方は色々あるが、分かりやすいのはボランティア活動だな」
「ボランティアか。ゴミ拾いとか?」

僕はボランティアをしたことがないので、ゴミ拾いくらいしか思い浮かばなかった。

「そうだな。ゴミ拾いが多い。そしてさっき佐々木の質問に答える前にまず知っておいてもらわなければならないことがある。それはこの学校で一番重要視されていることが、メリハリをつけることであるということだ」

僕は大体この後の説明が予想できた。
「あーなんとなく分かった。この学校では最低限これはやらなければならない、みたいな基準があって、それを満たしていることを条件に自由が保障されている。そしてそれを満たしていない場合、罰としてボランティア活動をしなければならなかったり、学校行事への参加ができなかったりする。さっきクラスメイトが質問してこなかったのはおそらく、授業中の態度は先生から評価されていて、その評価がボランティア活動をさせるかどうかや学校行事へ参加させるかどうか、つまり飴を与えるのか鞭を与えるのかを決める基準になるから、下手なことをして先生からの評価を下げないために大人しくしていた、ってことで合ってる?」

「……それを今から説明しようと思っていたんだが。驚いた」

「すげーなお前。もしかして佐々木って結構頭良い?」

けいが即座に答えた。
「恭介は察しがいいんでゴザルよ」

「それだけじゃ説明がつかないくらい理解が早かったが」

冬狼崎の言葉を遮る勢いでもう一度念を押すようにけいは
「恭介は察しがいいんでゴザルよ」
と繰り返した。

「そ、そうか」
「そうでゴザル」
けいは満足したようだ。

「ってかどうでもいいんだけど、恭介って呼ぶのな。なんかオレの中のゴザル口調のイメージって人のこと呼ぶ時は、なになに殿、なんだけど」

狐酔酒がそう言うと、けいは素直に受け入れた。
「おっ。それもいいでゴザルな。ナイスアイデアでゴザル。これからは恭介殿って呼ぶでゴザルよ」

「柔軟に対応するな~。ウケる」
狐酔酒はよく笑う。

「そういえば、さっきから全然喋らないでゴザルが、大丈夫でゴザルかほたる殿?」
けいが天艶の顔を覗き込んだ。

「あ、大丈夫です。えーっと勉強になりました」
「ん? 何がでゴザル?」

「私、あんまり学校の仕組み理解してなくて」

「え、ほたる殿は一学期、二学期とこの学校で過ごしてきたんでゴザルよね?」

「はい。でも、なんていうかボーっとしてたら、いつの間にか三学期になってて」

「そうでゴザルか……」

この子はなんだかゆったりしているな。
マイペースなんだろう。

少し親近感を覚えた。
この子の醸し出す雰囲気は落ち着きがあって魅力的に見える。

隣の席だし、仲良くなれるといいな。
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